友達の本音(真弥視点)

「……ゴメンね、美月。愚痴を聞いてもらっちゃって」


 病院で和成が吐血した日の夜。

 誰もいない家に戻ったあと、友達である今野美月こんのみづきが心配して訪問してくれた。

 ここぞとばかりに誰にも話せない、わたしの愚痴を聞いてもらう。


「ああ、しゃーないよね。まあ、和成君に真弥を紹介したのはアタシだし」


「……ありがとう」


「でもね。友達だから言うけどさ。今回の件は、真弥が100%悪い」


「……」


「しかもなに? 相手が元カレ? 最悪。あんないいダンナほっといて何浮気してんの、バカ?」


「……」


「だいいち真弥、あんたさ。尚紀が浮気して他に女作ったから別れたわけでしょ? 付き合ってる相手に裏切られる悲しさ、あんただって知ってるはずなのに、なんでそんなことできるわけ?」


 友達だからこその罵倒。しかもそれは正しくて反論などできるわけもない。


 そう分かってはいるけど、言葉が痛すぎて。

 涙が出そうになるけど、ここで泣いたら。


『おまえは、自分に都合が悪くなるとすぐ泣く。それをされる方の気持ち、わかるか?』


 またあの人に、つらそうな顔でそう言わせてしまうから。

 わたしは泣かないように必死で耐えなければならないんだ。


「……うん。本当に、バカだった。死にたくなるくらいつらいよ」


「甘ったれんな」


「!」


 泣かないように意識を分散させ、あえて反省の気持ちを示したのに、そこで美月からさらなる罵倒を受け、わたしは思わず固まってしまう。


「死にたくなってるのは真弥じゃない。和成君のほうでしょ。アンタ、まだ自分のことしか考えてないの? そりゃ楽でしょうね、死ねばなにも悩まなくなるもんね」


「……」


「死にたくなる気持ちもわからなくはないけど、もし真弥がここで死を選ぶような救いようのないバカだったら、アタシはあんたの位牌に灰ぶっかけてやるわよ」


 わたしをたしなめる美月の顔が怖くて、思わず目をそらしてしまった。

 すると美月は、目をそらすなと言わんばかりにわたしの顔を両手で挟み向きを変え、諭すように優しく。そこだけ優しく。


「目をそらさないで。逃げないで。自暴自棄にならないで。自分勝手にもならないで。ちゃんと向き合うんだよ、和成君と」


 そう言った。


「そのためなら、アタシもなんでもするから。親友のためなら」


「……あ、ああああああああ……」


 かわいそうな自分を演じているつもりはないけど、そこで我慢も限界に達し。

 堰がきれたように、わたしは泣いてしまった。


 あの人だけでなく、美月にまで迷惑をかけて。

 わたしはいったい何をやっていたんだろう。


 死にたくなるけど、死ぬことはしない。


 でも。

 できることなら、綺麗なわたしに生まれ変わりたいよ。


 ──もう、そんな願いもかなわないのかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る