なんのつもりだ

 真弥の顔を見ないで済むので、落ち着くと思っていた入院生活だが。


「……今日は、お花を買ってきたの。花瓶に挿してくるね」


 俺のストレスはマッハ。また吐血しそうな気がするくらいだ。

 なんで、毎日毎日、追い返しても追い返しても真弥はやってくるんだ。

 激情のままに「顔も見たくない」だど「ムカつくから帰れ」だの罵倒しても、何度も何度も真弥はやってくる。


 ただし、表情は微妙に変化してきているが。

 最初の二、三日は「わたしが看病しないと」という気持ちを前面に出して。

 その後は眉間にしわを寄せて申し訳なさそうに。

 今は媚を売るかのようにおどおどしながら。


 ──何のために病院に見舞いに来てんだ?


 その程度で許さねえぞ、俺は。

 風邪ひいて気弱になっていた時にお見舞いされるのとはわけが違うんだからな。


「……はい、いいお花でしょ。けっこう安く買えてよかった。お花を見て、落ち着けるといいね」


 花瓶に花を挿して戻ってきた真弥を責めるための、俺に残された体力も少ない。


 花を見るだけなら、心洗われてストレスも軽くなるかもしれないな。

 だがそのわきにいる女が打ち消すだけじゃなくマイナスを増幅させる逆癒し効果を発揮している。


 こいつが持ってきた花だと思うと、すごく汚らわしくも思えてくるのが不思議だ。


「満足したか。なら帰れ」


「……そんなわけに……」


「良いから帰れ。そして明日からもう来るな。もう一度言うぞ、もう来るな」


「……」


 感情のまま怒鳴るより、体力温存しながら静かに言うほうが、真弥にはこたえるのだろうか。

 反論するよりも早く、真弥が落ち込む。


「大人しく家にいろ。ひとりで家にいるんだ、見舞いに来る以外に自由に過ごせるぞ」


「……」


「ああ、そうだ。もし呼びたければ、尚紀でも自宅に呼んだらどうだ。俺がいないんだ、泊まり込みで一日中行為しても誰も文句は言わない」


「!?」


 少しだけ意地悪。いや、かなりの意地悪。

 ああ、また血を吐きそうだ。自分で自分の病状悪化させるような発言してどうすんだ、俺。


 真弥の顔色が一瞬で青白くなるが、俺は止まらない。


「まあもしも呼ぶなら、俺の部屋で行為するのだけはやめてくれよ。俺がもう二度とあの家に戻れなくなるからな。別に家に呼ばないで真弥が尚紀のところへ行ってもいいが、どっちにしても尚紀と逢うなら、緑の紙にちゃんと記入してからにしてくれ」


「……」


 病院で泣くな、と以前に責めたからか、真弥は必死で泣くのをこらえている。


 だが、俺から目をそらすことはなかった。


「記入するなら、避妊するもしないも自由だ。子どもができたら、今度は殺したりするなよ」


「……」


「なにせ、一番好きな男のこど──うぷっ」


「!? あなた、あなた!? 早く、早くだれか!!!」


 そこでスプラッタが繰り広げられ、俺の糾弾もうやむやになる。


 ──俺のストレスは、治る気配など、いまだ皆無だ。



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