自分の愚かさ(真弥視点)

『同僚と飲んでくる。遅くなるから先に寝てろ』


 そんなメッセージがあの人から届く金曜日の夜。

 私は、あの人以外に登録されてないスマートフォンを見ながら、どうしようもない気持ちになった。


 金曜日は、私が働いてた頃、元カレの尚紀と一番逢っていた日でもある。

 言い訳も、『会社で飲み会があるから』というのが一番多かった。


 尚紀と逢っていた間。

 あの人はどんな気持ちで、いつまでも帰らない私を待ち続けていたのだろう。


『ひょっとして、浮気してるんじゃないか』


 そんな疑心暗鬼に駆られるのも当然だ。

 今の私がそうなのだから。


 もし、和成が浮気していたら、私はどうすればいいのだろう。

 こんな私に与えてくれる愛情などなくなってしまったとしたら。


 きっと私はあの人に捨てられ、あの人は浮気相手と笑顔の絶えない幸せな毎日を送るに違いない。


 背筋が寒くなる、どころじゃない。

 目の前にあった幸せが、私がちゃんとしてれば間違いなくつかめた幸せが、消えていくという絶望感。

 命を捨ててしまいそうなくらいの、そんな暗闇に耐えられるわけがない。


 なんて愚かなことをしてしまったのだろうと。

 自分で自分を殺したくなるくらい後悔するのは、これで何度目だろう。


 浮気する前に時を戻せるならば、私はなんだってする。

 それだけは、髪の毛一本ほどの嘘も混じってない、私の本心。


 だけど、そんな気持ちを信じてもらえるはずがない。

 少なくとも今のあの人には。


 だから、私は耐えるしかない。

 いつ捨てられるかにびくびくしながら、いつか分かってもらえるまで。


 それでも、愚かな私は。


『私を見てください。これからの私を見てください。もうあやまちは繰り返しません』


『あなたのために、あなたのためだけに誠心誠意、一生尽くします。だから、許して私をちゃんと見てください』


『一番大事な人が誰か、言葉で言っても信じてもらえないでしょうから、行動で示します』


『……あなたを、愛しているということを』


 つい言ってしまう。

 あの人が、そんな言葉を信じられるわけがないとわかっているのに。


 自分の心が、苦しくて、壊れそうで。

 どれだけ耐えても、光など見えない毎日に、心が折れそうで。


 なにより、私の本心を信じてもらえないことが、死ぬよりつらい。


 …………


 こんな自分勝手な私が、あの人に愛される日が来るわけがないと、自分でもうすうす気づいていながら。

 それでもすがるしかできない私は、この世で一番愚かな生き物だ。


 ──醜い、生き物だ。


 割れたコーヒーカップを拾っていると、自責の念がただ大きくなって、涙があふれる。


 でも、今の私にできることも、これだけなんだ。


 ──壊れてしまった大事なもののかけらを、拾い集めることだけ。

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