episode.5





「…ね、ちっこい、なあっ!」



 足の親指にシタを這わせ、ゆっくりと肌をなぞる。足首、ふくらはぎ、膝から…ふともも。ゆっくりとゆっくりと上へ、上へ。



「…きらい?」

「えものを食らう狼みたい」

「前から思ってたけど、なんで狼なの?」



 すう、と指を滑らせて、うちももをゆっくりと焦らすように触り、おなか、むね、首筋と段々と上へ。



「綺麗な目と、白い肌と、白銀の髪が…日本狼みたいな毛の色に見えたから…かな」

「にほんおおかみ、ですか」

「うん。…とても綺麗」

「そりゃあどうも」

「ちょ、やめ、っ…ほんとに女の子、初めてなの…?」

「うん。ハジメマシテだよ」



 「可愛い」と耳元で囁きながら、赤くなっていく肌にゆっくりと、つよく、よわく、舐めたりくすぐったりして刺激した。男は体が硬いけれど、女の子ってこんなに柔らかいんだよなぁ…。



「っも、もうっ、わた、わたし…ッッ」

「いいよ…ユーワ」



 とんとんとん、と。童貞を失う動きを初めてした。…キモチイイ、とぼやける頭で何度も何度も考える。ぐぷ、と下品な音を立てながら溢れ出る液体を何度も何度も押し返した。

 あれ、俺って、こんなに何度もイけるの?と、不思議な気持ちになる。冷静になれない、体が沸騰したみたいに熱い、狂ったように愛を貪る。…愛なのかもわからないけど。なのに、何故か、どうしようもなく可愛いと思ってしまった。

 抱き寄せて、何度も何度も、ずるずるのユーワと共に交わった。

 …何年振りかの、人の温もり。飢えたように何度も、狂うくらいの快感をかんじた。




「…、激しい」

「キツイ?ごめん…なんか飲むか」

「いいよ。…煙草、吸わないの?」

「なんで?」

「賢者タイム」

「ないよそんなの。…眠いから、一緒に寝よう」

「っわ!」

「思ったより軽い」



 裸を恥ずかしがるから、俺の上着をかけた。いわゆるお姫様抱っこをしてベッドルームに向かい、キングサイズのベッドにゆっくりと下ろして布団に入る。



「…付き合って、同棲して、結婚して、子ども作るんだっけ?」

「気が早いよ」

「ユーワなら出来そう。子どもは、欲しいと思ってた」

「恋人、なの?」

「引っ越しておいでよ、週末にでも。手伝う」

「ありがとう…」

「傷の舐め合いじゃなくて、傷を癒そう。それならいい?」

「…百点満点」

「それはそれは。…じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」



 あの手で、あの唇で、あの目で触れ合ったあの日々。優しい声で、知り尽くした舌で、柔らかいところを噛みついてくる、あの………

 記憶が遠くなっていく。砂糖の中に沈んでいく。…ああ、これは、やわらかい、生クリームの香りだ。



「…、ん…」


 窓から差し込む光が、顔を強く刺激した。隣にはもう彼女の姿がない。…連絡先も知らない彼女、か。

 布団から体を出し、リビングへと向かう。



「おお…そういうね」



 絵に描いたような昼。知りもしないくせに俺の一番お気に入りの食器へ、彩の鮮やかなサンドイッチが横たわる。簡単に、なのに美しい見た目でサラダもあった。…参ったな、やられた。こういうことをされるのは不思議と嫌な気持ちがしない。

 寝ぼけたまま台所でコーヒーをいれる。そしてサンドイッチを食べようとリビングでソファに座った。

 ぱさ、と、皿を動かした際に落ちたのはメモ用紙。それを手に取ってひらいた。



「あなたの傷が、私に癒せるかな?…、連絡先も書いてある」



 夢じゃなかったんだな、あの出来事は。改めて再確認させられた内容に、頭を抱えた。…女の子を、俺が、愛せるか。誉をこの世の全てのように、愛した俺が。

 連絡先を携帯に登録し、メッセージを送った。そして皿をカラにしたあと、俺はいつものように仕事に出掛けた。










EP.5 end

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