第8話 恋人達の湖(5)
月の神様は森の妖精たちとも仲良しでした。森の奥からは、森の妖精が何人も二人に近づいてきました。姿は小さな羽のある小人さんです。様々な羽根をもつ妖精たちは、笑顔で二人を見ています。
「こんばんは」
月の神様が声をかけました。
「こんばんは、月の神様」
妖精たちはお行儀よく月の神様に挨拶をし、興味津々といったまなざしで王女様を見つめました。
「初めまして」
王女様は丁寧に挨拶をしました。
「王女様、お久しぶりです、私は昔王宮にいたんですよ」
年かさの妖精が話しかけました。この妖精はあちこち出歩き、見聞豊かな者でした。お洒落な服を着ているのが印象的です。
「王女様だー」
幼い年齢からティーンエイジャーまで色々な妖精が揃っています。
「月の神様に恋人ができたと噂がここまで流れていますよ」
「ええ、そうなんです。王女さまとお付き合いしています」
「宜しくお願いいたしますね」
妖精たちは羽を広げてダンスでお祝いしてくれました。その様子の愛らしいことといったら!本当に可愛いのです。
月の神様は更に森の奥へと王女様を誘いました。面白そうな事があるようですから、という誘いでした。昼間とは全然違う森の様子に、王女様は戸惑いました。でも……なにかが楽しそう!新鮮ですしワクワクします。森のどこかで梟が鳴いています。すっかり夜だということを忘れてしまいそうです。
「まぁ……意外と賑やかなんですね」
「夜のみ起きる生物もいますからね」
森の奥には腰掛けられる場所があると月の神様は話し、二人はどんどん歩いて行きます。普通だったら来られないでしょうけれど、月の神様が一緒というだけで王女様は心が躍るような感じを受けました。涼やかな瞳が神秘的な月の神様、また一つ好きなポイントが増えていくようでした。
森の奥まで月の神様と王女様は歩いてきました。そこには、動物たちが起きていました。ライオンが話しかけてきます。月の神様が王女様の耳にも分かるように魔法の力を使いました。
「聞こえるかい、王女樣」
「まぁ!本当にライオンさんの声が聞こえるわ。初めまして。ライオンさん」
「初めまして、王女様。月の神様も久々だね」
「そうですね、ご無沙汰しています」
このライオンは長生きで森の長老ともいうべき存在です。ライオンが一声うなると、森中がざわざわ。色々な動物たちが森の奥までやってきました。
「まぁ、こんなに沢山の動物さんがいるのですね」
「ここは住民が多いのだよ、王女様。儂らからも祝福を送るよ、月の神様、王女様。おめでとう」
ライオンがちらりと目をやると梟が飛んできました。嘴には青い石のネックレスを二つ、持っていました。妖精が囁きます。
「お二人にとおもって、私たち皆で作ったんだよ」
「妖精と動物の加護があるモノだよ」
「素敵。そんな大切なものを頂いていいのかしら?」
月の神様に視線をやり、王女様は尋ねました。回答はすぐきました。
「有り難く頂いておきましょう、王女様」
お揃いになっているのが王女様には非常に嬉しく、森の全ての生き物や妖精たちにお礼をいいました。それを聞いて皆も嬉しそうにしています。
素直な性格のせいか、王女様はどなたにも慕われるようですし、好感をもたれるようです。動物たちの中で王女様の肩に乗っているのは栗鼠でした。梟もそばにいます。
皆にお礼をさせてね、と王女様は話し、歌を歌い始めました。非常に澄んだ歌声で、月の神様は目を閉じて聞きました。月の神様が、最初に王女様に関心を持つようになったのは、この澄んだ歌声だったのです。神へ捧げる祈りの歌が非常に素晴らしく、そのあとずっと成長を見守ってきました。
やはり私が愛するのは、この人しかいない。そう月の神様は確信しました。仲良しの星の神様にもいずれ会わせようと考えていました。その時は太陽の神様も呼ばなくてはなりません。ついでにもう縁談はいりませんと言っておかないといけませんね、と月の神様は心の中で呟きました。
王女様の歌が終わり、妖精も動物も喜んでいます。この歌は皆に最高最善の事が起こりますようにと言う祈りの歌でした。月の神様は微笑しました。皆に最高最善の素敵な事をおくらなければなりませんね、と心の中で思いました。
こういう素敵な贈り物をすることは、神様達にとって喜ばしいことでした。生きとし生けるもの全てを愛する存在が神様ですから当然かもしれませんが、月の神様は特に優しい神なので素敵な贈り物を考える事や贈ることが、非常に嬉しい事柄と考えていたのです。
「歌を歌うのは好きですか?」
「ええ、私は歌が大好きです。ダンスより歌の方が好きですわ」
「他の歌も、是非聞かせて下さい」
「ええ、勿論です」
王女様の微笑みに月の神様の心が揺れます。余りにも純粋であたたかいものだったからです。どんどん王女さまに惹かれていく自分を感じました。
「私はあなたの歌を全部聞きたいですね。いつか色々な歌を歌って下さい」
「はい。勿論ですわ」
月の神様と王女様は祝福を受けたペンダントを服の下にしまいました。秘密にしておきたいこともありますから、それでいいとお互いに思っていたのです。
森の住民にお礼をいい、二人は再び湖のほとりにいました。
王女様の心はどきどきとしていました。神様としてなら何の問題も起こらないのに、自分の恋人だと思うとどこか恐れ多い気がします。それにあまりにも美男子だったことに気がついて、相手が非常に素敵な男性だと意識し始めていたのです。
それは月の神様も同じで、こんなに素敵な女性がいるのだなとつくづく感じていました。王女様は非常に気品があり、美しく賢い。神の花嫁として、何も問題は無いでしょう。
ただ、今度の神官としての勤めはやや気になりました。素敵な男性もいれば、王女様を強引に口説きそうな人にも心当たりがあります。色々考えていた結果、長く黙っていたので、王女さまは少し不安な気持ちになりました。今までこんな事はなかったからです。
「月の神様、どうなさったんですの?」
「すみません、少し考え事をしていて。神官勤めをしている時に、あなたを好きになりそうな男性が幾人か浮かんだので、気になりまして」
隠してもいけないと思い、正直に月の神様は言いました。その答えに王女様は驚きました。
「あなたが心配なのです」
そういう月の神様に、王女様は胸が一杯になりました。それは相手を不安にさせたくないという気持ちでした。
「私には他の男性はいりません。あなただけで、いいのです」
そういって王女様は月の神様に抱きつきました。態度から王女様の気持ちがとてもよく分かります。月の神様はゆっくり王女様を抱きしめました。
「心から愛しています」
月の神様はそう言い、王女様の瞳をじっと見つめました。王女様も月の神様を見つめました。澄み切った素敵な色合いの瞳に心惹かれます。
「私も愛しています」
王女様が微笑んだので、月の神様は嬉しくなりました。心に灯が灯るような気持ちになったのです。
瀟洒な月の神様の指先が王女様の口唇をなぞります。月の神様の顔が近づいたときに、王女様はドキドキしながら自然に目を閉じました。口唇に柔らかいものがふれ、心が温かくなります。それが離れた後、ゆっくりと王女さまは目をあけました。
「嬉しいですわ」
「有り難う。私も嬉しいですし、とても幸せな心持ちです」
二人が初めてのキスをするのに、恋人達の湖は最適な場所だったかもしれません。
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