第6話 恋人達の湖(3)
夜空の星々は美しく、時折流星が流れます。月の神様の端整な横顔をみて、王女様は少しどきどきしました。今までは神様という視点で見ていたので全然気にならなかったのですが、よくよく見るとすごく格好いいことに気がついたのです。神様の中でも月の神様はとても美しいという話を、王女様は知りませんでした。
「月の神様はとても素敵ですのね。見とれてしまいました」
「そんなことないですよ。あなたの方が素敵ですよ。あなたをみていると幸せに思いますし、こうして一緒にいるだけで、とても幸せなのです」
月の神様が愛した人の噂は、もう神様の世界でも広まっていました。仲の良い星の神様にはすぐ話しました。何事も大げさに喜びたがる太陽の神様には、少し言い出しにくかったのですが、一応話しました。
女神や妖精、精霊たちの女性からはため息がでました。どの女神達も月の神様を想っていたからです。しかも相手は人間です。限りある命の人を選ばれたことに皆はさらにため息をつくしかなかったのです。
王女様は月の神様をみつめ、嬉しそうな顔をしています。
「そういえば面白いことにこの指輪、月が出ると青みが増すんですのよ。素敵ですわ」
「そういえばムーンストーンにはそういうタイプの子がいますよ。月が姿を変える度に青みが増したりするので、見ていて楽しいかもしれませんね。私の力を授けやすいのもありますが、言い伝えにそって初めての石を選んだのです」
王女さまに贈る石をさがすのも、月の神様には非常に楽しいことでした。
「こんな子が来てくれるなんて、私は幸せですわ」
優しく指輪に触れて、王女様は微笑みました。湖につくまで石の話で盛り上がり、今度鉱山に連れて行ってもらえる事になりました。なんでも自ら光る不思議な石があるという事、妖精が宿る石すらあるというのです。
月の神様はお話の仕方も上手です。分かりやすく簡単な言葉で相手に伝えます。勿論難しく話すこともできますが、自然な言葉遣いを選んでいました。
それにしてもどうして一緒にいるだけで、こんなに嬉しいのかと月の神様は思いました。月の神様は、神々の中でも古くから存在する神です。どんなときも落ち着いているというのが自分の評判ですが、今のこの状態といったら、周囲の神様が驚くでしょう。どきどきわくわくすると同時に、心の底から王女様を愛しているという気持ちがわき上がります。これもいつか王女様に伝えようと月の神様は思いました。
「いつみてもこの湖は綺麗ですね」
「ええ、本当に。あなたとここを訪れられた事が、何よりも嬉しいですわ」
「私もです。あなたが喜んで下さって嬉しいです」
湖についたので雲からおりて、二人は水面を見つめました。本日も月の光をうけて綺麗に輝いています。
「ここのお水で顔を洗うと美人になるって本当ですか?」
「お肌が引き締まっていいと女神達が話していましたよ」
「わぁ、素敵な女神様達が仰るなら、きっとそうですね。今度はボトルを持ってこよう。綺麗になりたいですもの」
月の神様は微笑み、王女様を抱きしめて耳元で囁きました。
「あなたは今のままで十分美しいですよ。湖の水を使えばもっと美人になるでしょうけれど、周囲の男性からの視線が私は気になります……どうか私だけに、あなたの心を向けて下さいね」
どうしても神様である以上、いつも一緒にはいられません。周囲の男性の事はあまり気にしなくても良いとは思いましたが、それでも少しだけ月の神様は心配でした。優しく素直な王女様を好きになる人間はとても多いでしょうから。
「あなた以外の男性など目に入りませんわ」
少しためらいましたが、勇気をだして王女様も月の神様を抱きしめました。
「大好きなんですの、あなたが」
「私もです」
二人は抱き合いながら相手の顔を見つめました。自分が愛した人の全てが愛しく思えます。月の神様は王女様の額にそっとキスをしました。
「愛しています、王女様」
「いつまでも一緒にいたいです。私も月の神様を愛しています」
その瞬間、王女様の指輪が光り輝きました。本当に愛し合う者同士の絆が深まっていくと、石が光り輝くという伝説は聞いたことがあります。王女様は驚きました。
「種族もこえて愛し合えるなんて、とても素敵」
微笑む王女様の言葉に、月の神様も応えました。
「本当に素敵ですね。あなたでなければならなかったんだと思います」
そして月の神様はある言葉を王女様の耳元で囁きました。
「私の真正の名前です。神様でも知っている人は少ないですが、あなたには打ち明けておこうと思います。困った時は呼んで下さい。いつでも側に行きます」
「私の名前もお教えします……何か出来るわけではないですが、覚えておいてくださいませ」
この世界の殆どのものは二つの名前をもっていました。普通の名前と、魔術的なもう一つの真正の名前。真正の名前は一生を共にする相手にしか打ち明けないものなのです。それを月の神様から教えて貰ったことに、王女様は嬉しさを感じていました。本当に自分をえらんでくれたのだと喜びました。もう一度相手を抱きしめて、二人は体を離しました。
湖のほとりに座り、色々な夢や、やってみたいことなどを王女様は話します。いくつかは月の神様と一緒にでかけてみたいというものでした。その場所を頭の中にメモしながら月の神様は王女さまに心からの愛情を伝えます。
どれだけかけても伝えきれない想いですが、言葉を尽くしました。王女様は素直に喜んでいます。それをみてさらに月の神様は幸せになりました。その心のあり方に神様としても満足でしたし、王女様の恋人としては、更に彼女を愛しく想いました。そして国の守護神として誇りに思いました。
小さな国ですが、この国は本当に心が清いものばかりなのです。中には罪を犯すものもいますが、大半がちゃんと反省できる人々でした。それだけ神様と人々の間の距離は離れていなかったからかもしれません。
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