第3話 王様の病気(3)
なぜかこの方は月の神様ではないか、という思いは、お医者様が神殿の中に入ったときから不思議とありましたが、余りにも嬉しくて――王女様は月の神様に抱きつきました。
「ありがとう、月の神様!父を治してくれて有り難う!」
王女様は月の神様に対する崇敬の気持ちがふくれあがりました。個人的にも祈る相手でもある、大切な月の神様が自ら人間界に降りて、父を助けてくれた……!それだけではない気持ちも同時に湧き上がります。
「いえ、あなたの祈りが純粋なものだったので、人間界におりたんですよ」
月の神様もそっと王女様を抱きしめました。とても大切な人を抱きしめるようなそれを、もし他の神が見たら驚くでしょう。王女様はとても嬉しそうに微笑み、更に口を開きました。
「一番私が崇敬している月の神様と、こうして会えているなんて夢みたいですわ。本当に……あなたは月の神様なのですね。お体の周囲が、黄金にひかっています」
月の神様は驚きました。夜空色の瞳に見えるものは真実なのですから。そこまで王女様の潜在能力が高いことに驚いたのです。
同時に王女様の気持ちが非常に強く伝わってきました。王女様のプライベートな感情だと悟ったので、月の神様は即時に自分が読み取れないよう、分からないようにしたのですが、最後の一言だけ、心の想いが伝わってきてしまいました。
――月の神様が大好き。
その思いが強く、ハートがピンク色に輝いているのを月の神様には見えました。人間にも神様にも、ごく稀にある現象です。相手に完全に心を開いている時、神様には、相手のハートがピンク色に見えるのです。
それだけではなく、自分がずっと見守ってきた王女様が、初めての恋に落ちたことが分かりました。勿論その相手が自分だと言うことも。同時に月の神様も初めての恋に落ちました。相手が神族や妖精などではないことも気になりません。人間でもなんでもいい、この王女様の魂が好きだと自分のハートがいいます。
月の神様は自分の思いを、王女さまに伝えることにしました。王女様を近くにそっと立たせて、月の神様は片足をたてて跪きました。自分のハートをオープンにして恋してくれた相手は、月の神様にとっても初めてだったのです。好きという言葉は聞き飽きていましたが、王女様の想いは違ったからです。だからこそ、月の神様も王女様を好きになりました。
「どうか王女様……私の恋人になってください」
王女様はびっくりしました。恋人になってほしいと言われたのは、初めてです。それに相手は神様です。
「神という立場をこえて、私は貴女を心から愛しています。あなたが人間であることは気になりません。とても好きです」
真っ直ぐな言葉に真っ赤になりつつも、王女様はしっかり、はいと頷きます。小さめですが、強い意志を秘めた声で、私も月の神様を心から愛していますと続けました。人間でもよいのかしら?というような気持ちはなぜか、まったく湧き上がりませんでした。自分の気持ちに素直で正直なことは王女さまの魅力の1つです。
「私は長い時を生きていますが、こんなに惹かれたのは貴女だけです。」
「私も、最初から貴方がなぜだか気になって……とても好きですわ」
二人は微笑みました。これから二人に沢山の良い事や、素敵な事、楽しい事が起こる予感がしています。
「これから毎晩、あなたと一緒にお話をしたりお茶を飲んでみたり、ゆっくり過ごしたいのですが、宜しいでしょうか?」
少しだけ月の神様はためらいがちでしたが、王女様の笑顔をみて安心しました。嬉しそうな顔で答えが分かったからです。
「はい!勿論ですわ。いつかでしょう――今夜の晩から?」
「ええ、貴女さえよければ」
王女様はにっこり笑いました。とても嬉しくてたまりませんでした。
「今夜を楽しみにしていますわ」
「ネックレスはいつもつけていて下さい。貴女への贈り物で授けたのですから。もう手放さないように」
「はい」
王女様は大事にしますといい、ネックレスを触りました。尋常ではない御神気で守られているのが分かります。それも月の神様の――初めて恋した相手の、とびきりの愛情が込められているのです。一生、これを肌身離さず身につけようと王女様は決めました。ネックレスはこの一つだけで良い。そう思いました。
こうして二人の夜の逢瀬が始まったのです。ゆっくりとした恋のはじまりです。
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