第360話 なぎはらえー
九十六階層にある通路に出現するモンスターたちを努たちPTは三時間近く狩っていた。出現する様々なモンスターを狩っては各属性の魔石を回収して移動を繰り返し、ドーナツ型の通路を三周したところで努は皆に声をかけた。
「こんなもんでいいかな。エイミーとゼノは北に、ガルムとアーミラは南にこれを運んでくれ」
「……ちっ」
「こき使って悪かったよ。これからは派手にやるだろうから許してくれ」
情報漏れを防ぐため今まで何も話されていないアーミラは反抗期の娘のような冷めた目で舌打ちをしてきたが、指示には渋々と従っていた。他の三人はそのことに理解を示していたので特に気にした様子はなかったが、アーミラの態度にほんわかとした様子だった。
九十六階層は『ライブダンジョン!』で言うならば、ストレス解消のドンパチお祭り場所である。運営からもそれが狙われた設計がされていて、外に設置されている竜に魔石を与えてとにかくモンスターをぶっ殺そうぜ! という意図で作られていることは明確だった。
『ライブダンジョン!』では五分ほどモンスターと戦って魔石を溜める期間を与えられた後、魔石を充填出来る外の竜を使って攻めてくるモンスターを殲滅する班と通路で魔石を調達する班に分かれて古城の耐久を減らさないように防衛する戦いとなる。
防衛兵器を上手く使ったり魔石を調達する速度が早ければ楽に攻略でき、それでいて効率よく回せば報酬も美味いので九十六階層はプレイヤーたちからボーナスステージとして認識されていた。かくいう努も当時は毎日一回必ず回していたほどである。
しかしこの世界では古城を防衛するというアナウンスなどがないせいか、五分後にモンスターが外から侵攻してくるということがない。初めて潜った際そのことに気付いた努は情報隠蔽を行いながら検証した結果、魔石を竜に接触させない限り外のモンスターは出現しないことがわかった。それからは情報を出さないようにしながら九十六階層を突破し、アルドレットクロウの足止めに利用した。
だが今となってはもう足止めの役割も果たしたので、努は三時間溜めた魔石を北と南に運ばせて完璧な防衛の準備を進めていた。『ライブダンジョン!』では魔石の確保も防衛と同時進行で行わなければならないため、工程を理解している者が集まらなければ突破は難しい階層だった。だがこの世界では魔石を搬入する作業などを考慮されてか初めの五分という制約がないので、好き放題魔石を溜めてぶっ放すことが可能だ。
(気分は暴食竜だな)
いつぞやの暴食竜を思い出しながら努はエイミーとゼノにひたすら魔石をマジックバッグから出してもらい、生きているように息をしている竜の石像にそのまま押し付けるようにして充填させていた。そして神の眼に詳しいエイミーにこれも同じようなものだと説明しつつ、実際に好きなように動かしてぽつぽつと外に出現し始めたモンスターに向かって炎の魔石を使用した炎球を放たせた。
竜の石像の扱い方は神の眼と同じようにこちらの明確な意思を尊重して動いてくれるため、エイミーは難なく操作方法を習得した。ゼノも神の眼を操ることは得意なため、後は二人にこの竜を使って外のモンスターを迎撃するように任せてアーミラたちの方へ向かう。
フライで古城の外から迂回するように南へと向かって到着すると、飛んできた努に若干驚いた様子のアーミラはすぐに不機嫌な表情に戻って外を指差した。
「何か、外からモンスターがぞろぞろ来てんぞ。下りて戦うか?」
「いや、あれで迎撃するんだ。ちょっと付いてきてくれる?」
そんな努の言葉にもアーミラはまだ不審そうな顔つきを崩さなかったが、九十六階層の説明を受けて竜の石像を操れると知るとしばらくはアトラクションでも楽しむように操作していた。だがそれに飽きるとガルムに代わって微妙な顔をして戻ってきた。
「あれを使ってモンスターを倒すって寸法か?」
「そうだね」
「……なんつーか、俺はあんま好きじゃねぇな」
「んー、まぁ確かに戦闘っていうよりは虐殺に近いから、アーミラには向いてないかもね。それならエイミーたちの方はモンスターが増えてきて直接戦わなきゃいけない可能性もあるし、援護に行ってくれる?」
「あぁ、そうさせてもらうわ」
そう言うとアーミラは龍化して赤い翼を生やすとフライの補助もあってすぐに飛び去っていった。そしてガルムと竜の操作を代わって炎球でポチポチとモンスターを燃やしていると、ガルムは神妙な顔で外から侵攻してくる大群を見つめていた。
「この調子では数に物を言わせて攻め込まれてしまいそうだが。これからも規模は増していくのだろう?」
「あぁ、それについては大丈夫。そろそろレベルアップするから」
そう言いながら絶え間なく炎球を放ち続けていると、竜の石像に変化が起き始めた。頭から生えていた角がヒビ割れ、真紅に燃えたように変色し始める。その変化が起きたと同時に発射された炎球は大きさを増し、今まで数体を巻き込むことがやっとな規模だったものが十体は巻き込めるものとなった。いきなり炎球が大きくなったことにガルムがギョッとする。
「外のモンスターの経験値はこの竜に全部吸い取られてるんだけど、その代わりに成長して強くなってくれるんだよ。あとはこれを繰り返していけば後に来る大群も処理できるって寸法だね」
神の眼と同様に操れることとレベルアップする仕様がわからなければ、この竜は見掛け倒しの防衛兵器に成り下がってしまうだろう。アルドレットクロウは今までと同様に探索者だけで何とかしようとしていたし、この竜についても仕様を解明出来ていなかったために使いこなせていなかった。
だがコツコツとモンスターを倒して初めのレベルアップさえ済ませてしまえば、後はとんとん拍子で楽に倒すことが出来る。それから時折ガルムと代わってエイミーたちの様子を見て問題ないことを確認しつつ、竜のレベルを順調に上げていく。
動く石像のような見た目をしていた竜も時間が経つごとに迫力ある姿へと変貌していき、その攻撃規模も恐ろしさを感じるほどのものに変化する。
「なぎはらえー」
そんな努の気が抜けたような声と共に竜は純粋な魔力砲を放ち、そのまま首を捻って白い光線を薙ぎ払うように放つ。その攻撃で数千体のモンスターが一気に消し飛び、その衝撃で努とガルムの髪がはためいた。
「……凄まじいな」
「多分コリナたちのPTはもっと凄まじいことになってるだろうね。この階層は三人ともかなり理解度深かったから」
リーレイアとディニエルは虐殺上等で、ダリルも真面目なので竜のレベル上げは入念に行うだろう。コリナがふぇぇ……とでも言っている姿を想像しながら努は竜を使ってモンスターを虐殺し続けた。
そして探索者だけではとても抱えきれないモンスターの軍勢を壊滅させると、竜も同時に消滅してその場所に黒門が出現する。その後指揮官気取りのふざけたエイミーと合流し、努たちは九十七階層へと足を進めた。
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