第330話 海の幸と虫

「いっせーのーせっ!」

「んっ」



 ダリルとリーレイアが協力して崩れた城壁の一部を持ち上げ、努とハンナが広げているマジックバッグへと下ろして収納する。それを何度か繰り返して古城を形成している石材を確保した後は、入り口部分にある黒い柵を外しにかかった。



「パワーアロー」



 ディニエルが地属性の付与された硬質な矢を穿ち、柵を支えている石材を削る。そして上辺の支えがなくなって地面に落ちた黒柵を、またダリルとリーレイアが持ち上げてマジックバッグへと収納していく。



「そちらは頼みますよ」

「あぁ、うん」

「よーし、いっぱい捕まえるっすよー!!」



 重い物を何度も運ぶハメになったリーレイアは緑色の鱗が見える二の腕をマッサージしながら、努に若干責めるような視線を向けてそう言った。そんな視線を気にしないよう努めながらハンナと共に古城の敷地内にある庭へと向かう。


 その庭に生えている野草や虫はハンナが、池にいる魚は努が釣り具を持って釣っていく。ハンナはそこまで裕福ではない村育ちで虫も食べていた経験があるため、虫取りに対しての抵抗は全くない。今も虫網片手に飛び回って次々と捕まえている。



(意外と楽しいもんだな)



 努は釣りの経験がないのでそこまで上手くないが、ここは誰も足を踏み入れていない未開の地なので餌のついた糸を垂らせば入れ食い状態だ。釣れなかった場合はバリアでも使って捕らえようと考えていたが、その心配はなく続々と古城階層で捕れる魚を手に入れていた。


 程よく引いてくる手応えと思わぬ成果に努は満更でもない顔をしながら、息の根が止まった魚たちをマジックバッグへと収納していく。ダンジョンで捕れる虫や魚などは主にポーションなどの素材となるが、これは神のダンジョンに限ったものではない。草原階層などで確認されている素材は外のダンジョンでも見られるものが多い。


 ただ回復魚やソーミル樹脂などといった、神のダンジョン内だけしか発見されていないものも確認されている。そのため限られた者しか採取出来ない神のダンジョン産の素材は高額で取引されるし、それの活用研究も盛んにおこなわれている。



(これは春咲魚で、こっちは闇淀魚かな? リアルで見るとグロいな) 



 平たくいうと出目金のような姿形をしている闇淀魚を見て顔を顰めつつ、捕れた魚の種類を推測していく。神のダンジョンでしか取れない素材の多くはまだ活用方法が判明していないため、基本的に珍品としての値段が付けられる。それでも高値であることには変わらないのだが、回復魚のように一旦活用方法が判明すると急激に値段が跳ね上がったりする。


 努は神のダンジョンで捕れる素材の活用方法を既に熟知している。そのため活用方法が判明すれば高値で売れるであろう物は数をストックし、あまり期待できないものは珍品扱いされている内に売り捌く。その当たり外れを見分けられる努が損をするわけもなく、氷の魔石バブルの影で結構なGを稼ぎまくっていた。



(森の薬屋とドーレン工房のために多く取っておくか)



 光と闇階層でもそういった素材は多くあったが、夜のように暗かったり背景が真っ白という特性上非常に見つけにくい。『ライブダンジョン!』でも背景色へ溶け込むように採取ポイントが設置されていたため、努は宝箱ドロップ中心で対策装備を集めていた。ただ古城階層ならば素材確保が容易なため、宝箱ドロップと並行して集めることが出来る。



「芋虫っぽいのいっぱい取れたっすよー」

「しっかり虫かごにぶちこんどいてよ。見たくないから」

「おーっす」



 子供の頃は素手で触っていた記憶はあるが、今となってはあまり触る気にはなれない。うぞうぞと無数の足を動かしている芋虫を両手で持って見せられ、そう思いながら黒塗りの虫かごへと仕舞わせた。



「多分このちょうの幼虫っすかね? さなぎっぽいのもあったっすからこれも一応取っておいたっす」

「……虫の知識はあるんだね」

「芋虫探すのは得意っすよ! 蛹になっちゃうと固くて不味くなっちゃうっすからね!」



 自慢気に大きな胸を張るハンナに努はしかめっ面を返した。



「やめろ。芋虫と蛹の良し悪しなんて知りたくもない」

「えー? 師匠だって同じようなやつ食べてるじゃないっすか。海老とか、あとはあれっす。何本も触手があるえげつないやつとかも。師匠もゲテモノ系好きじゃないっすか」

「海の幸は別物だから。虫と一緒にするな」

「いやでも、見た目は同じようなもんじゃないっすか……。エイミーとかリーレイアとかはいつもうげーって顔してるっすよ? あたしはまぁまぁ好きっすけどね」

「……僕、お前と同じ分類扱いされてたのか。最悪だ」



 文字通り好き嫌いせず何でも食べるハンナと同列扱いされていたことに努は愕然としていた。そして海老の身は美味しそうに食べるのに同じような見た目の芋虫には拒否感を示す彼を、ハンナは不審者でも見るような顔で見つめていた。

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