第329話 †ソロツインソード†への道
「百階層には潜らないのか?」
「準備を整えたら行きますよ。それに二軍PTも待ちたいですから」
「二軍の方は大丈夫なのか? 苦戦しているようだが」
「アルドレットクロウが九十五階層へ辿り着くまでに突破出来なかったら手助けはしようと思います。まぁ、あの様子なら大丈夫でしょうけど」
そろそろ自分の人気も冷めてきたので障壁魔法での警護はもう不要かなと思いながら、努は二番台に映る二軍PTを見ながらスミスと話し合っていた。
コリナが朝に見せてきた二軍PTの方針変更と作戦。それと神台に映るPTの様子を見れば突破できる見込みがあるかどうかはわかる。二軍PTには様々な問題が発生していたが、ほとんどは自力で解決してきた。そして今日からは一軍PTやアルドレットクロウの後追いを止めて、独自の戦法を考えて試している。
努とコリナは同じヒーラーといえどもジョブは違う。そのため努の立ち回りを模範しすぎてもコリナは成長せず、かといってこちらから過度なアドバイスをしてしまえば彼女はただ言うことを聞くだけの
だからコリナには二軍PTで色々な試行錯誤をしてもらい、ヒーラーとして成長してほしかった。そのための知識についてはクランに入った当初から教えてきたので、後は自力で動き出すのを待った。ただ自分の後を追ってくるだけのヒーラーではなく、一つのPTを任せられるような者へ成長する時を。
そして今も神台に映っているコリナの表情は明らかに変わっていた。以前までは何とか努の代役を演じようとして、それでも出来なくて苦しそうな顔をすることが時折あった。だがアーミラに指示出しを行いながらタンク二人の回復をしている彼女の表情は生き生きしていた。
(ようやくヒーラーとしての自覚を持てた感じかな。一ヶ月近くもかかったのは期限的に痛いけど、成長してくれたならそれでいいか。出来ればサクッと九十階層クリアしてほしいけど)
PTのスペック自体は中々高く、成れの果てへの練度も高まってきているので戦い方を間違えなければもう越えられるはずだ。タンクであるガルムとゼノも大分安定感が増し、成れの果てを相手にクリティカル攻撃をもらわないようになっている。
「ブースト、双破斬、ブースト」
(エイミーも大分仕上がってきたな。†ソロツインソード†とまでは行かなくても、上位勢には食い込めるDPSは出せてる)
努と個人的にスキルの訓練をしていたエイミーは、もう『ライブダンジョン!』にいた上位勢の双剣士と同程度のスキル回しを再現出来ている。精神力減少による倦怠感を無視して効率的にスキルを使えるようになり、更に元々の戦闘センスも相まって強い動きを当たり前にこなせるようになってきていた。
今ではブースト使用時に0コンマ2秒にも満たない猶予でスキルを重ねることで僅かにだが前進する裏仕様すら使いこなし、『ライブダンジョン!』を思い起こさせるような変態じみた挙動をしている。
「だらぁぁぁぁ!!」
(アーミラは滅茶苦茶だな。やっぱユニークスキルってチートだろ)
龍をその身に宿して薄く発光しているアーミラは、その百キロを超えるダンジョン産の大剣を改造したもので成れの果ての爪を真っ向から弾き返していた。力圧しで成れの果てに勝つなどという芸当が出来るのはアーミラただ一人であり、落ちぶれていた姿が想像できないほどに強く輝いていた。
(爆発力とか極端に集中するところはハンナに似てるけど、アーミラは何処か頼りたくなるような感じするよなー。そりゃあ階層主すら怯ませる攻撃出来るなら頼りたくもなるし、コリナもそれを見越してアーミラ中心の方針に切り替えたんだろうけど)
背から生える赤翼を力強く動かしながら、様になってきたブレスを吐く姿はモンスターを想起させる。龍化を完全に制御できるようになり、更に龍化結びで味方すら強化できるユニークスキル。それに横暴で自己中心的な動きも改善されてきたとなれば、強くならないはずがない。まさにエースアタッカーと言われるのも納得できる活躍ぶりだった。
「なんか、アーミラの動きいきなり良くなったすね~?」
「あれでも意外と繊細ではあるからね。今まではPTメンバーのことを色々気にしていたみたいだし、自然と動きも悪くなってたんじゃないかな。探索者歴からしてもそういうことは初めてだっただろうし」
「……繊細ですか。確かにそうかもしれません」
やけに訳知り顔で頷いているリーレイアに、少し納得している様子のダリル。だがハンナだけはよくわからないといった顔で首を傾げていた。
「アーミラ、繊細っすかねぇ?」
「まだ十六歳だし、探索者としての経験も少ないからね。まぁ二歳年上のハンナと比べるとまだまだ子供だから」
「……そうっすね!! もうあたしは一人前の大人っすから!」
(一人前の大人は無駄な借金しないと思うけど)
エイミーの手腕である程度マシになったものの、未だに借金自体はあるハンナは完全に駄目な大人だろう。そのことをわかっているリーレイアとディニエルからも冷めた目を向けられているが、彼女はそれに気づく様子もなく有頂天である。そしてダリルと意味深な顔で視線を合わせてみると、彼は苦笑いで誤魔化すだけだった。
「あのPTなら九十階層も自力で越えてくる。だから僕たちは僕たちの仕事をしよう。古城階層の素材集め、あとは各モンスターに対する戦闘練度上げ。それで九十階層を越えてきたコリナたちを迅速に九十九階層まで運べるようにね」
このまま普通にコリナたちが九十一階層から攻略しても、先にいるアルドレットクロウは越えられない。そのためにも努はダリルやディニエル、リーレイアに古城階層の知識と練度をつけてもらい、更に素材を使った装備も作ってコリナを九十九階層まで運ばせる予定だった。ハンナに関しては通常階層ならば魔流の拳を階層主戦よりは自由に使えるため、最悪知識がつかなくとも使い物にはなるだろう。
(僕が四人キャリーするのはコリナの精神面が心配だったけど、あの様子なら大丈夫だろ。もう僕の影に隠れるだけのヒーラーではなくなってるようだし)
『ライブダンジョン!』での知識と経験があり、神台を狂ったように見てこの世界の探索者にも慣れてきた努の指揮能力は群を抜いている。孤児上がりの探索者からユニークスキルを持つ者たちまで、努はどんなPTでもその限界値を引き出せる能力を持っていた。
そのため九十一階層から初見のアタッカータンクでも攻略速度を速めることが出来る。それも初期メンバーであり柔軟性の高いガルムとエイミーがいるため特に問題なく進められるだろう。
「明日からは九十一階層から素材集めしつつレベリングすることになるだろうから、そのつもりでよろしく」
「おーっす♪」
「メディック」
周りの視線もなんのその、未だに大人扱いされて機嫌の良いハンナの頭に努はメディックの弾丸を撃った。そんな行動の内面を察したダリルはちょっとだけ笑いを堪えていた。
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