第95話 事後処理

 暴食龍を討伐した探索者たちがその勝利の余韻に浸りながら後方に戻ると、警備団や治療班による事後処理が行われていた。倒壊した建物に数多くの死体や重軽傷者の治療に搬送。この時初めて努は死傷者がこんなにも出ていることを知った。


 白布の上に並べられている遺体は、ほとんどが避難に応じなかった初中級の探索者である。中には運悪くVIT頑丈さの加護が薄い頭などに飛んできた武器が何度も当たり、死んでしまった高レベルの探索者もいた。その者たちはVITが常人よりは高く身体の損壊が少ないため、身元が確認しやすいように顔を晒して横たわらせられている。


 だが避難しなかった民衆は違う。建物に勢い良く叩きつけられて身体が弾け飛んだ者や、倒壊した建物に潰されてぐちゃぐちゃになった者が多数である。頭が残っているのならまだ幸運な方で、ほとんどの遺体は損壊が激しいため白布を被されて隠されていた。


 その下には手や足、胴体や頭が無造作に置かれているだけだ。奇跡的に生き残った小さい女の子はそのバラバラの部位から母の一部を探そうとしている。努は人だったモノの部位が数多く置かれているのを見て顔を顰めていた。


 だが運の悪い高レベルの探索者はまだしも、他の者たちは事前に避難をしていれば命を落とすことはなかった。自業自得。死んで当たり前。努はそんなことを考えるが、胸に突き刺さるような痛みを拭えなかった。浮かんでくることは、もっと上手くやれたのではないかという後悔だけだ。


 ほぼ死が確実のような重傷者たちを治療班は暴食龍の咆哮に怯えることなく治療した。その素早い判断のおかげで多くの人命が救われただろう。しかし損壊の少ない綺麗な遺体の数だけでもゆうに百人を超えていた。暴食龍を相手にここまで被害を抑えられたと喜べるかというと、そうでもない。



「ねぇ、おかあさんをいきかえらせて!」

「……それは出来ないんだ」

「え? なんで? ねぇ、だれか、おかあさん、いきかえらせて。みんなすごいおいしゃさんなんでしょ? わたししってるよ! いつもおかあさんとみてるから、しってるんだぞ!」

「すまない。無理なんだ。……すまない」

「うそつき! みんなうそつきだ!」



 死体の山から母の頭を見つけ出し、それを両手で持って縋るように治療班へ叫んでいる女の子。神のダンジョンで死んだ者はレイズで生き返るが、外ではそのスキルは使えない。治療班の者たちは顔を俯かせている。誰も視線を合わせようとしない。


 そして母を生き返らせることが出来ないとわかると、女の子はその頭を抱えて泣き崩れてしまった。子供特有の高い泣き声が辺りに響く。手放しで喜べる状態では、全くなかった。


 努を筆頭に暴食龍を討伐して喜んでいた者たちは、意気消沈しながらも戦場の後処理を手伝っていった。倒壊した建物をどかし、瓦礫を整理しながら中に人がいないか確かめていく。稀にまだその中で生きている者も発見出来たが、大多数は無残な遺体だった。

 

 一通り瓦礫の山の中に人がいないかの確認が終わると、ヒールで回復されたシェルクラブがまるで重機のように瓦礫を巨大なはさみで挟んで持ち上げ、どんどんと整理していく。火竜も次々と瓦礫を咥えて運んでいく。


 努はその作業が行われている間に死亡した探索者の顔を確認した。そして幸いにも知り合いの者はいなかったためホッとした。だがガルムやエイミーは顔見知りや友人がその中にいたようで、ひっそりと涙を流していた。


 粛々とした雰囲気の中で戦場の事後処理は進み、赤みががっていた空も既に暗くなり始めていた。だが死体を放置すればすぐにはえが湧き、卵を産み落としてうじが大量発生する。腐敗臭も立ち込めて感染症などの二次被害へ及ぶことになるので、作業を中断するわけにはいかない。


 照明の閃光弾が辺りに焚かれて視界を確保し、暗くなってきた辺りを明るく照らす。それからしばらく努は黒杖を持ちながらも事後処理を手伝っていた。



「かえせえぇぇぇぇ!!!」



 するといきなりそんな金切り声が聞こえ、努は驚いて瓦礫の撤去作業を止めた。その声の先にはヴァイスに押さえつけられているアルマが暴れながら泣き叫んでいた。



「かえせぇ! 泥棒! ふざけんじゃないわよぉぉぉ!! それは私のだ! かえせ! かえせぇぇぇぇ!!」



 物凄い形相をしながら暴れ、ヴァイスに押さえられているアルマ。その形相は鬼気迫るものがあり、努はその様子に驚きながらも黒杖を見つめた。元は自分の物である白魔道士専用の黒杖。



「かえせぇ! かえせぇぇぇ!!」

「……すまない」

「いえ、どうぞ」



 だが黒杖は既に自分が売りに出し、紅魔団が正式に買い取ったものである。顔を俯かせて謝るヴァイスに努は特に何も思うことなく、黒杖をアルマへと渡した。するとヴァイスに離されたアルマはその黒杖を抱いて地面にうずくまった。



「私の……これは私の……」



 アルマはその黒杖を手にすると安心したのか、涙を流しながら蹲ってうわ言を発しながら動かなくなった。アルマの異常な黒杖への執着ぶりに努がドン引きしていると、ヴァイスが彼に近寄って小さい声で話した。



「もしこの後アルマが君に突っかかってくるようなら、俺に連絡してくれ。事前に黒杖を没収すると言えば君には絡まないだろうが……」

「あぁ、はい。わかりました。……色々大変そうですね」

「……あの黒杖を買わなければ良かったと、たまに思う」



 ヴァイスは少しだけ悲しそうに顔を俯かせた後、アルマを連れて離れていった。努もヴァイスに何かやりきれないような目をしながらもそれを見送った。


 そしてその後も事後処理は続いたが、探索者たちはもう迷宮都市の奥に戻っていいと許可をされた。



「貴方たちはゆっくり休んでちょーだい」

「はい」

「……ツトム君、貴方は最善を尽くしたわよ。あまり自分を責めないことね」

「……はい」



 警備団と貴族の私兵団にその後の事後処理は任され、努はブルーノに励まされながらも迷宮都市へと帰っていった。まるで敗戦者のようにぞろぞろと帰っていく探索者たち。バーベンベルク家が迷宮都市を治めていた時期でのスタンピードでここまでの被害が出たことは前代未聞であり、その被害に打ちのめされた探索者たちは無言で帰っていく。


 努の隣を歩くエイミーとガルム、カミーユやギルドメンバーも無言だ。暴食龍を倒したという喜びは既にない。そんな顔の探索者たちが迷宮都市の中央に帰ってきたのを見て、避難していた民衆たちは不安そうにしながらも彼らへ話しかけていた。


 前線から情報が入ってこず、迷宮都市の周りに張り巡らされていた障壁魔法が消失。更に轟音とおぞましい咆哮が聞こえ、避難した民衆たちは恐ろしくて家や建物に引きこもっていた。



「カミーユさん! 一体どうなったんですか!?」

「ギルド長! 障壁がなくなったんですが、何か知っていますか!?」



 そしてギルド長として顔の知れていたカミーユへ情報に飢えた民衆たちは群がってく。カミーユは他の者へ先に行くように手振りで伝え、民衆たちへ事の転末を話しだした。



「それじゃ、私たちこっちだから」

「はい」



 ギルドメンバーはギルド宿舎へと各自戻っていき、努も宿屋へとぼとぼと歩いて行った。そして沈んだ顔で受付を済ませて部屋に入り、ベッドに寝転ぶとそのまま眠ってしまった。



 ――▽▽――



 その後もスタンピードによる被害の後処理と復興は続々と行われていった。瓦礫はほとんど撤去されて血は洗い流され、暴食龍のボロボロになった死骸も回収された。北から少し人数を減らした迷宮制覇隊も迷宮都市へ帰ってきていた。


 そして遺族へ遺体が返されて大規模な葬儀が行われた後、すぐに責任追及が開始された。まずその矢面やおもてに立ったのはバーベンベルク家だ。障壁が破られたことの謝罪に遺族への金銭や住居の保障。はたまた事が知られた王都にも招集をかけられた。


 迷宮都市の民衆たちは新聞社の伝えに手の平を返してバーベンベルク家を批判。遺族や僅かな生き残り住民による軽い暴動も起きた。だが厳戒令で避難した者や、直前での避難誘導に従った民衆や探索者に死傷者は出ていない。死んだ者は二回の避難指示に従わなかった者である。


 そして死んだ者たちは警備団によって発せられた厳戒令を無視し、更にその後の避難勧告も散々無視していたことが業を煮やした探索者たちから暴露された。それによって暴動をしていた遺族や乗っかっていた民衆は周囲に批判を受けてすんなりと大人しくなった。


 迷宮都市では散々批判を受けていたバーベンベルク家だが、王都では意外にもそこまで糾弾を受けなかった。それほどまでにバーベンベルク家の障壁魔法に対する信頼は厚かったし、王都を障壁魔法で守っている貴族もバーベンベルク家をおとしめて利益があるわけではない。


 その貴族は王都を守ることに誇りを持っているため、バーベンベルク家の代わりに迷宮都市の守りを任されるのは嫌だった。他にも障壁魔法を扱う貴族はいるが、障壁魔法の腕は圧倒的にバーベンベルク家の方が上だ。


 王都を守る貴族とバーベンベルク家の障壁魔法はほとんど五分である。だが障壁魔法の性質変化を行えるバーベンベルク家の方が汎用性が高く、更に現在の当主が家を継いでから三十年は一度も壊れたことがない。迷宮都市を三十年守り続けてきた実績と周知されている実力は揺るいでいない。なのでバーベンベルク家は王都ではそこまで批難を受けず、むしろそれほどのモンスターが出て攻めてきたことに同情的だった。


 そして王都からは助力として多少のGと復興に必要な人手を無償で貸して貰えることとなった。


 バーベンベルク家の次に批判されたのは迷宮制覇隊や、貴族の私兵団などだ。ここまでスタンピードが激化したのは、その二つの団体が事前に行うダンジョンの間引きを怠っていたからだという批判が飛び交った。


 だが迷宮制覇隊と貴族の私兵団だけでは迷宮都市の周りにあるダンジョンの間引きは出来なかった。以前ならばその二つの団体以外にも、探索者たちが近場のダンジョンの間引きを自然に行っていた。なのでこれまではスタンピードも小規模で済んでいた。


 だが神のダンジョンが出来てからは探索者のほとんどが外のダンジョンへ潜らなくなり、モンスターの間引きが行われなかった。今までは探索者に人気のないダンジョンを中心に二つの団体が間引きを行っていたが、神のダンジョンに探索者を取られたことで近場のダンジョンも間引きしなければいけなくなった。


 そのため人手が足りず、一年ごとにスタンピードはだんだんと激化し始めていた。それは神のダンジョンが出来て数年後にはもう言われてきた問題だったが、民衆の運動と貴族によって改善されずにずるずるとここまで来ていた。その怠惰な年月が積み重なって起こってしまったのが、今回の暴食龍の発生だ。


 なのでスタンピードを軽視していた者全員に責任はある。それは神のダンジョンで映されるモニター映像の娯楽性にかまけ、探索者を神のダンジョンに縛り付けていた民衆も同様だ。以前一度貴族が公布しようとした外のダンジョンへ探索者を向かわせる法に民衆は反対運動を起こし、その法を棄却させていたからだ。


 それによって迷宮制覇隊や貴族の私兵団に対する批判も鳴りを潜めた。そしてバーベンベルク家による公式の場での謝罪と式典が行われ、新たな法が公布された。


 探索者は外のダンジョンでモンスターの間引きを行う責務を負うこと。ただし迷宮制覇隊の持っているダンジョン情報と探索者の到達階層を擦り合わせ、出来る限り負担がかからないように配慮される。それに一定のGを支払えばその責務は免除される。ただこの免除に必要なGは相当高く設定されたし、資金のある大手クランは民衆の目があるためモンスターの間引きを担うだろう。


 民衆の批判も大体止み、着々と迷宮都市の復興が進められた。そしてようやくスタンピードの傷跡が癒えてき始めた。


 すると貴族主催によりスタンピードで活躍した団体を集め、ささやかな祝勝会が開催されることとなった。スタンピードからおおよそ一ヶ月が経ったころである。


 その間は神のダンジョン攻略も自粛ムードだったため、各団体は快くその招致を受けた。その祝勝会に努はギルドの枠内で参加することとなっている。


 努はいつも通りの綺麗にクリーニングされた白のローブを着て貴族の屋敷へと向かった。


 黒いドレスを着たカミーユとギルドの制服を着ているガルムとエイミーを見て努は少し気後れしたが、他の探索者たちはいつもの格好の者が多かったので安心した。そして貴族の屋敷に入って広間に案内される。


 そこには大手クランや警備団の代表などが集まっていて、既に立食パーティのように話しながら食事をしていた。貴族が主催とは思えないほど中は緩い雰囲気で、少し騒がしいくらいだった。


 エイミーがダッシュで魚料理に飛びついていき、ガルムはシェルクラブの丸焼きを見て早歩きしていった。カミーユもどうやら貴族と少し話してくるとのことだったので、一人になった努は丸焼きにされたシェルクラブの近くに寄って見上げた。


 シェルクラブはとても美味しそうな匂いを放ち、周りには腹を空かせた皆が集まって人気だった。努も貴族の使用人に切り分けられたシェルクラブの身を皿に乗せられ、それを見下ろした。



(一番の貢献者の末路が、これか)



 シェルクラブは竜討伐戦でもそこそこの活躍をし、暴食龍の時には身をていした囮で大活躍。更にはその大きな鉗と無尽蔵の体力を活かして復興作業にも一役買っている。一日ごとに無色の魔石を与えなければいけないという制約があるが、シェルクラブは召喚されたモンスターの中で一番長く召喚されていた。


 だが大体の復興作業が終わるとシェルクラブに魔石が供給されなくなり、最後には動力が切れた機械のように事切れた。シェルクラブを召喚した召喚士は今も泣きながらシェルクラブを食べている。努もその白い焼かれた身を一口食べると、自然と頬が上がるほどの美味しさだった。シェルクラブは全てにおいて素晴らしい活躍をしてくれた。努は感謝を込めて食した。



「あら、ツトム様」

「……よ、なのです」



 何だか感傷的な気分になりながらシェルクラブを食している努に、黄色いドレスを着たステファニーと同じく赤いドレスを着たユニスが近づいてきた。ステファニーはいつもドレス姿なので気にならなかったが、ユニスのドレス姿は初めて見たので新鮮だった。



(ドレスの構造どうなってるんだろ)



 努が大きな狐の尻尾を見てそんなことを思いながらユニスを見ていると、彼女はひらりと一回転した後にしたり顔になった。



「ふん。私に見とれたのですか?」

「……ステファニーさん。これとは何か関わりあるんです?」

「え、えぇ。ユニスさんはツトム様の一番弟子だそうなので、お話を伺っておりましたの」

「これって私のことかです!? ふざけるなです!」

「というかそもそも一番弟子はシルバービーストのロレーナさんなんで、嘘を広めるのは止めて貰いたいですね。お前は二番で、実力で言えば三番だ。ステファニーさんとロレーナさんには敬語使え敬語」

「なっ、ななな何だその言い草! 表に出やがれです!」



 ぴーぴーと喚くユニスにステファニーは口に手を当てて苦笑いを零す。その後も努はユニスをあしらいながら少しステファニーと言葉を交わした。



「スタンピードでのご活躍、お見逸れしましたわ。ツトム様の実力を勝手に見誤り、お恥ずかしい限りです」

「え? あ、はい」

「ツトム様の真の実力は、外で発揮されるものでしたのね。……ですが、神のダンジョンでは、貴方を越えてみせます。どうか見ていて下さい。期待に応えてみせますわ」

「あっ、はい」



 ステファニーの意図を掴めない言動に努は彼女と何か意識がすれ違っていると感じたが、なんかやる気を出しているみたいなので良しとした。努としてはむしろ多人数のレイド戦は苦手な方であり、神のダンジョンでの五人PT戦の方が得意である。なのでステファニーに易々と越えられるつもりはないのだが、言うのは野暮な気がしたのでやめておいた。



「た、確かにあれは、凄かったと認めてやるのです」

「はいはい」

「……差別なのです。獣人差別で訴えてやるです!」

「確かロレーナさんも兎人だったと記憶していますけど……」

「……狐人差別なのです。狐人差別で訴えてやるです」



 努に塩対応をされてステファニーに頭を撫でられて慰められているユニス。努はそんなユニスをステファニーに任せると別の場所へ向かった。


 その他にも努はレオンやルーク、ヴァイスなどにも挨拶に回った。どのクランも活気は取り戻してきたようで、そしてもう一月ほどで神のダンジョンにも潜り始めるとの情報を努は各クランから聞き出した。この一月大手クランは外のダンジョンでモンスターを間引きしていたが、あと一ヶ月ほどはかかる見込みだそうだ。


 そして魚料理を食べながらエイミーは金色の調べの一団の中にいて、女子トークで随分と盛り上がっている様子だった。ガルムはタンク職の者たちと交流をしながらも、また勧誘しにきたヴァイスを一蹴していた。そんな光景を努は眺めながらも一息ついていると、バーベンベルク家の三人が近寄ってきた。



「ツトム殿」

「……はい」



 明らかに話しかけてくるだろう雰囲気を匂わせていたバーベンベルク家当主に、努は深めに目礼しながらも答えた。



「我らの代わりに民を守ってくれたことに、改めて感謝申し上げる」



 そう言ってバーベンベルク家の三人は深く努へ頭を下げた。


 バーベンベルク家は既に公式の場で民や他の団体に謝罪は済ませている。スタンピードで一番の貢献をしたと周りに推薦を受けていた努も、既に公式の場で謝罪と謝礼を受け取っていた。しかし当主はこの場でもきちんと各団体に感謝を申し上げて回っていた。


 当主は疲れを感じさせないしっかりとした顔立ちをしているが、長男や長女はまだ若く経験が浅いせいかこの一ヶ月で随分と顔がやつれてしまっている。努は少し同情的な視線を向けながらも当主の言葉を受け入れていた。


 するとバーベンベルク家の長男がやつれた顔で努をじっと見ていた。努が視線を合わせると彼は得心がいったように目を見開いた。



「……あの時、ツトム殿はルークと一緒にいたと思うのだが」

「え、……あ、そうですね。障壁の外に出ようとした時ですよね?」



 努の返事にバーベンベルク家の長男は一歩前に出ると、悔しそうに歯を食いしばりながらも頭を下げた。その悔しさは努に対するものではなく、自分の未熟さに対するものだ。



「すまなかった。あの時私が止めなければ、被害を抑えられただろう。そして、感謝を。不甲斐ない私の代わりに民を救ってくれたことに、感謝申し上げる」

「……いえ。こちらこそ、暴食龍の攻撃を防いで頂いてありがとうございました」



 長男は自身の行動を後悔しているのか、ぷるぷると拳が震えている。だが努としてもあの暴食龍の魔力砲は事前に準備をしても防げなかったと感じているし、貴族の障壁がなければ自身も危うかったことは明白だ。


 この一月でバーベンベルク家の障壁に制約があることを努は知った。術者は障壁と感覚を共有しなければならない。それは鍛錬によってある程度軽減出来ると言われているが、努は血だらけになっている長男を自身の目で見ている。


 それに加え長男は心からの謝罪と感謝をしている。暴食龍のあの攻撃は、努の予想通り強力なものだった。『ライブダンジョン!』と違い喰うモンスター数に制限がないため、ダンジョン内とスタンピードを喰らった暴食龍は莫大な魔石を身に貯めてそれを放出した。そんな馬鹿げた攻撃など完璧に防げるはずがない。だがバーベンベルク家の長男は自身の力不足を認め、素直に謝罪している。


 努が長男に持っていた不信感はもう無くなった。そして離れていった三人を努は礼をしながら見送った。


 これからバーベンベルク家は信頼を取り戻すことに年月を費やすことになるだろう。その道のりが険しいことは目に見えている。



(……何か、協力してやりたいな)



 流石に外のダンジョンへ直接モンスターの間引きにはあまり行きたくなかったが、出来る限り協力はしようと努は謝辞を受けて思った。謝礼に貰ったGも正直手に余らせているので、返還も努は考えていた時。



「ツートム! なにしてんのっ!」

「うわっ!」



 神妙な顔をしている努を元気づけようとしたのか、エイミーが頃合を見て背中に飛びついた。わちゃわちゃとしている二人を見ていたガルムは呆れた顔をしながら近づいてくる。



「何をしているのだ」

「いや、こっちが聞きたいですけどねっと」



 肩に手を回して背中に乗っているエイミーをおんぶしながらも、努はガルムへ困ったような視線を向ける。その後も祝勝会は二時間ほど続いた。

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