第94話 武器を取れ

 ギルドメンバーたちが暴食龍へと向かっていった中。後方に避難していた者たちは逃げることしか出来なかった。ほとんどの者はまだバーベンベルク家の障壁が破られ、暴食龍が侵攻していることが信じられていなかった。



「重傷者優先だ! おい! 回復班急げ!」

「ヒール」



 その中でも後方支援隊の回復班だけは運ばれてきた重傷者をてきぱきと処理し、スキルで怪我を癒していた。その手際はとても早く次々と死の間際にいた重傷者たちは治っていく。回復スキルは多少の融通が利くものの、やはり長年の実戦で得た知識や経験を持つ者でないと回復出来ないものもある。特に骨折などは下手に治してしまうと後々辛くなるので専門医に治療して貰った方がいいのだ。


 後方支援隊も暴食龍の咆哮には怯えたが、怪我人が見えるとすぐに行動を開始している。一秒でも早く治さなければ人が死んでいく。彼らにはそれがわかっていたからだ。


 だがそれ以外の大半の者の心は折れ、ただその恐怖から逃れようと中央へ逃げることしか出来ていない。その中でユニークスキルを持った者たちだけがギルドを援護しに向かおうとしていた。



「任せた」



 ヴァイスは気絶したアルマとヒーラーを紅魔団の者に預けて暴食龍の方へ向かう。手にした二振りの剣は真っ赤に染め上げられ、それはまるで不死鳥の翼のようだった。



「んじゃ、後はよろしくね~ん! 私も援護に行ってくるわ!」

「ブルーノ様!?」

筋肉走行マッスルダッシュ!」



 警備団のブルーノも部下に避難誘導を任せて暴食龍の方へ向かい始める。VITが高ければ高いほど速度の増すスキルである筋肉走行を使い、ブルーノは土煙を上げながら地を走った。



「レオン!」

「わりぃ。ちょっくら行ってくるわ」



 レオンもクランメンバーの制止を振り切って姿を消し、物凄い速度で暴食龍の方へ向かっていく。その中でメルチョーは混乱している者たちからバーベンベルク家の貴族たちを守るため、その場に残っていた。特にバーベンベルク家の当主は障壁が破られた際に二人を庇って背中に重傷を負っていたため、森の薬屋のお婆さんに集中治療を受けていた。


 その他の高レベル探索者や貴族の私兵団は逃げるばかりだ。警備団は避難誘導や怪我人を運んでいる者もいたが、ただ逃げてしまっている者も中にはいた。誰もが暴食龍を恐れて逃げていく。


 そして努とギルドメンバーが合流した中、音楽隊の指揮者を担っていた老人の男が立ち上がった。逃げようとしている音楽隊の吟遊詩人を捕まえ、暴食龍の方へ無理やり向かせた。



「あの者らを見よ! あの禍々しい龍と戦おうとしている! 我らが逃げて、どうするのだ!」

「お、俺たちに何が出来るって言うんだよ! 離してくれ!」



 狼狽しながらそう叫んだ男の吟遊詩人に、その指揮者の老人は地に落ちている砂埃のついた楽器を彼に押し付けた。



「音を奏でろ」

「…………」

「音を奏でろ! 歌え! 我らに出来るのは、それだけだ! それすら出来ないのならば、我らに価値など微塵も無い! あの勇者たちに、音を届けるのだ! さぁ! 楽器を手に持て! 出来なければ、歌え!」



 激昂するような指揮者の叫びに逃げ惑っていた周囲の吟遊詩人は立ち止まった。そして指揮者が手を掲げ、指揮棒を持たずに指揮を始めた。指揮者が一人で歌い始める。精神力を回復する精神の譚詩たんし。しばらく指揮者の低い腹に響くような歌声が響いた。


 楽器を押し付けられた吟遊詩人の男は手に持った楽器に視線を落とし、その後に指揮者の指揮を見た。そして手に感触が染み付いている楽器を握り、彼は音を奏で始めた。軍神の器楽曲。辺りにスキルの乗った曲が響き始める。


 その音を聞いた吟遊詩人たちも逃げていた足を止めた。そして潤んだ瞳を袖で拭き、落ちている楽器を拾う。楽器がなければ自らの声で歌った。


 軍神の器楽曲、巧みの変奏曲、守護の賛歌、疾風の賛歌、精神の譚詩たんし、慈愛の聖譚曲せいたんきょく。各々の吟遊詩人が歌い、演奏されるスキルは段々と統一されていく。指揮者の振る手に合わせて曲が噛み合っていき、最後には一つの曲となった。


 その曲を聞いた者の身体が軽くなり、内から身体が回復する。その送られてきた支援に皆が戸惑っている中、指揮者は叫んだ。



「武器を取れ!」



 指揮者の通る声に探索者たちも足を止めた。その馴染みのある曲は安心と勇気を与えた。貴族の私兵団、警備団なども逃走の足を止める。



「武器を取れ! 戦え! あの者たちに続け!」

「お、おおおおおおおおぉぉ!!」



 高レベルの探索者たちが中心に指揮者の叫びに答えた。各々が地面に落ちた武器を持ち、続々と立ち上がって暴食龍の方へ向かっていく。そんな彼らを音楽隊の曲が見送り、支援を絶やさず送る。


 貴族の私兵団、警備団共に音楽隊の奏でる曲に勇気づけられて暴食龍へと向かう。もう暴食龍の恐怖で混乱していた者は、ほとんどいなくなっていた。



 ――▽▽――



 アルドレットクロウが到着する前に、タンク職を追うように遅れてきたギルドメンバーのカミーユやエイミーも努と合流した。既に龍化して翼の生えているカミーユは今もバリアを破っている暴食龍に怯えたような目をしていて、それは他の者も同様だった。



「よく来てくれました。アタッカーも相当数必要なので助かります」

「あぁ、いや、タンクの者たちがあれの気を引くといって出て行ってしまって、急いで追いかけてきたのだが……」



 暴食龍は間違いなく瀕死状態であるが、だからこそ何をしでかすかわからない恐怖を皆感じていた。手負いで飢えに追い詰められた暴食龍に正面から当たれば間違いなく死傷者が出ることは予感出来たし、かといってタンクに暴食龍の気を引かせるにしても死傷者は出るだろう。



「あぁ、恐らくタンクの人では暴食龍の気を引けないと思います。あれはもう敵意ではなくて、食欲で動いていると思いますので」

「……そうか」



『ライブダンジョン!』での暴食龍も途中に出現するモンスターをヘイト無視で必ず食べに行くし、実際の様子を見てもそういった予想はついた。ガルムに伝えたことをそっくりと努がカミーユに話すと、彼女は目を閉じた。


 アタッカーが死ぬか、タンクが死ぬか。その二択にカミーユは迷っていた。どちらかを切り捨てなければ暴食龍は倒せないという予感が彼女にはあった。だが努に暴食龍にはヘイトは通じないという言葉を受け、選択肢は一つになった。



「それならば、迷わずに済むな」



 カミーユが後ろのギルドメンバーに振り向くと、彼らも死地を決めたような顔で頷いた。そのことにカミーユは吹っ切れたような笑顔を見せた。恐怖を隠すような笑みだ。



「私たちで、あれを倒す。行くぞぉ!」

「だから待てっての」

「きゃあ!」



 先ほどのガルムのように暴食龍へ向かおうとしたカミーユの翼を努はむんずと掴んだ。そして随分と可愛らしい声を出したカミーユに努は驚きつつもすぐ翼から手を離した。



「話を最後まで聞いてくださいよ」

「だ、だからって翼を掴むな! 知っているだろ!?」

「いや、知りませんよ。あ、来た来た」



 顔を真っ赤に染め上げて迫ってきたカミーユを押しやり、努は火竜へ乗って後に続いてきたルークと召喚士に声をかけた。火竜は目の前で止まって翼をはためかせて滞空し、シェルクラブも地を走って真下に到着した。



「召喚士は見つかったようですね!」

「うん! でも本当に、やるのかい? こんな方法であれの気を引けるならいいんだけど……」

「やってみる価値はあります! もうバリアも突破されてしまうので、早速お願いします!」

「……わかったよ! やってやるさ!」



 火竜に乗っているルークに努は拡声器を通した声で伝えると、彼はヤケクソ気味に言葉を返した。シェルクラブが横歩きで暴食龍の方へ歩いていき、ルークの乗った火竜も翼をはためかせて飛んでいった。


 その風を受け止めた皆は少し揺らめきながらも体勢を崩さないようにじっとした。そしてその風が止むと努は暴食龍の方へ向き直った。



「何をするつもりだ?」

「蟹って美味しいですよね?」

「は?」



 真面目に問いかけたガルムは努の答えになっていない返事に素っ頓狂な声を上げた。周囲の者たちも努の頭がおかしくなったのかと当惑し始める。


 そんな中、ルークは火竜に乗ったまま地面を素早く横歩きしているシェルクラブを指差した。



「シェルクラブに弱めのブレスを!」



 そのルークの声に従い、火竜は若干弱めの赤い火のブレスをシェルクラブに放った。そしてシェルクラブは弱火に包まれて炙られた。



「ギィィィィィ!!」



 魔石を纏っているシェルクラブはそのブレスを受けて苦しそうな声を上げながらも、召喚士の命令に従い全てのバリアを割り終えた暴食龍へと向かっていく。


 そしてバリアを割り終えてようやく迷宮都市に侵入出来た暴食龍は、その奥にある魔石を嗅ぎつけて迷宮都市の中央へ向かおうとした。


 だがそんな暴食龍の前に、大魔石をいっぱいくっつけたシェルクラブがてくてくと現れた。少し身が焼けてとても美味しそうな匂いを放ち、なおかつ様々な色の大魔石を甲殻に纏っているシェルクラブ。そしてそれは暴食龍の前で一度立ち止まった後、逃げるように横歩きで素早く走り出した。


 それは暴食龍から見れば、様々なトッピングが施された料理のようなものだ。色付きの大魔石。それに鼻をくすぐる蟹の香り。



「グオオオオオッッ!!」

「ピキィィィィィィ!?」



 暴食龍はその極上の獲物を逃さまいと這いずりながら追いかけ、シェルクラブは捕食されてたまるかと言わんばかりの叫びを上げながら逃走を始めた。


 努は身の焼けた魔石付きのシェルクラブに釣られた暴食龍を見てぐっと拳を握った。



「よし! 上手く釣れて良かった。タンクはシェルクラブが受け持ってくれます。皆さんは安全第一で攻撃して下さい」

「…………」

「あ、どうやら他の人も来てくれているみたいですね」



 シェルクラブを追いかけている暴食龍を唖然として見ているギルドメンバーの者たち。努はそんな者たちから視線を外すと、赤の双剣を持ちながら飛んでくるヴァイスと土煙を上げて走ってきているブルーノを見つけた。



「よう、ツトム」

「わ、レオンさんか。びっくりした」



 そして勢い良く黒の塊が飛んできて、それは努の前で止まって彼の肩を軽く叩いた。黒い革鎧を着たレオンもギルドを援護しに来ていた。



「……それは」



 そしてフライで飛んできて到着したヴァイスは努の手にしている黒杖を見て訝しげな目をした。努はヴァイスに黒杖を盗んだと勘違いされたのかと思って慌てたが、彼は普段光っていない黒杖にはめられた宝具が光っていることに対してその目を向けていた。



「ごめんなさい。落ちていたので勝手に使っちゃったんですけど……」

「……別にいい。盗むつもりなら、隠しているはずだろう。後ほど返還してくれればそれでいい」

「そうですか。ありがとうございます」



 ぺこりと頭を下げた努にヴァイスは表情の読めない赤の瞳で努をただ見つめていた。その視線に努が首を傾げていると、地面から筋肉の塊がフライで飛んできた。警備団取締役のブルーノだ。



「お、待、た、せ! それで? 随分と愉快なことになってるみたいだけど、あれはなに?」

「あぁ、あれは魔石を引っ付けたシェルクラブを囮にしているんです。幸い暴食龍は追いつけていないので、かなりの間時間を稼げると思います」

「まぁまぁ、凄いわね~」

「アタッカーの皆さんにはあれに気を取られている暴食龍を倒して頂きたいと思っています」

「なるほどね。わかったわ! 任せて!」



 筋肉を強調するポージングを取るブルーノに努は苦笑いを返しつつ、黒杖を振るった。



「ヘイスト。プロテク」



 努は今いる者たちに最大限の支援を与え、ようやくシェルクラブから視線を外したギルドメンバーにも確認を取った。



「それでは皆さん、攻撃お願いします!」



 努の号令によって迷宮都市最高峰の強さを持つ者たちが動き出し、飢えた暴食龍の討伐戦が開始された。


 シェルクラブを死に物狂いで追いかけていく暴食龍。攻撃の先陣を切ったのは龍化したカミーユだった。背に生えた翼をはためかせながら身の丈ほどある巨大な大剣を振りかざす。



「パワースラッシュ!」



 スキル補正の乗った大剣は暴食龍の頭に叩きつけられ、低い唸り声が上がる。他のギルドメンバーたちもカミーユへ続くようにスキルを使った遠距離攻撃などを前肢中心に当てていく。だが暴食龍はびくともせずにただ逃げ惑うシェルクラブを追っていた。



「シールドスロウ」

「とうっ!」



 ガルムはシールドスロウで大盾を暴食龍へ投げ飛ばし、エイミーがその上に飛び乗った。そして暴食龍へ一直線に向かっていき、エイミーは飛び上がるとその赤い体表に双剣を突き立てた。



「はあっ!」



 レオンが目にも止まらぬ動きで暴食龍の身体を切り刻み、ヴァイスは二振りの熱を帯びた双剣で暴食龍の前肢を焼き切ろうと攻撃している。そしてシェルクラブの逃げる先で待ち構えていたブルーノは、手を握り合わせてパキパキと骨を鳴らした。


 シェルクラブが横切り、暴食龍が口を開けて迫ってきている。ブルーノは拳を振りかざした。



筋肉拳マッスルパンチ!」



 地面を割りながら飛び上がり、暴食龍の歯を狙ってブルーノは正拳突きをお見舞いした。すると暴食龍の強靭な前歯が一つ粉々に割れ、悲痛な悲鳴が上がる。そしてその声と重なるように遠くから音楽隊の曲が流れ始めた。


 全員のステータスが一気に上昇し、身体の内から力がみなぎってきた。その力を確認するように皆は自分の身体を見回した後、音楽の聞こえてくる方向を見て頼もしそうに笑みを浮かべた。



「皆さんはこのまま暴食龍を削って下さい。無理はしないように!」



 そう努は言い残して後方から向かってきている探索者を確認すると、そちらへ向かって飛んでいった。フライで飛んできたり地上を走っている探索者たちに努は拡声器で増幅した声を送る。



「皆さん! 近接系の人は右へ、遠距離系の人は左へ集まって下さい! このまま暴食龍に突撃しても死ぬだけですよ!」



 努の上からの指示を聞いていない者もいたが、彼に回復された探索者は多くいる。なのでその者たちを中心に努の指示が行き届いて無闇な特攻は防ぐことが出来た。段々と探索者たちは立ち止まり始め、努の指示通りに集まっていく。



「現在暴食龍はシェルクラブを追っています! 遠距離系の皆さんにはシェルクラブの逃走ルートで先に待ち伏せてもらい、一斉射撃をお願いしたいと思います! 近距離系の方々はそのサポートです! よろしいですね!?」



 VITが低めの遠距離系のスキルを持つジョブの者たちは、努に回復されて助かった者が多い。すんなりと頷いた探索者たちに努は火竜に乗って飛んでいるルークの方を向いた。



「ルーク! シェルクラブを向かわせる場所を火竜で指定して下さい!」



 そう努が叫ぶとルークと召喚士が乗った火竜が、場所を指定するように火のブレスを上空に放ちながら滞空した。素晴らしくわかりやすい指定に努は喜びながらも火竜を指差した。



「あそこです! 皆さん! 火竜が火を吹いている場所に集合お願いします!」

「おおおおおおぉぉぉぉ!!」



 努の指示で土埃で汚れた探索者たちの波が一斉に火竜の方へ向かい始める。どんどんと様々なジョブの者たちがフライで飛び、空を駆けた。フライを使えない者は地を走り向かっていく。


 その間にギルドメンバーやユニークスキルを持つ者たちは暴食龍を削ろうと奮起していた。


 努は暴食龍の方に向かい攻撃を加えている者たちにも作戦を説明。作戦を理解した者たちは頷き、遠距離系スキルの使えるギルドメンバーたちは探索者たちの方へ合流するため火竜の方へと向かっていく。


 そして近接系のギルドメンバーとユニークスキル持ちの者たちは、続けて暴食龍へ攻撃を仕掛けていった。



「あそこに行くまでに倒せたら格好いい、とか思わないで下さいね! 安全第一でお願いしますよ!」

「んだよそれぇ!? 上等じゃねぇか!」



 その努の言葉はレオンには逆効果だったのか、暴食龍へ攻撃する速度が更に加速した。他の者たちも心なしか攻撃の手を強めているように見える。努は言わなきゃよかったと嫌そうに頭を押さえつつ、メディックの弾丸を各自に飛ばした。


 幸い暴食龍は魔石トッピングで香しい匂いのするシェルクラブしかもう目に映っていないのか、アタッカーに攻撃されようがお構いなしに這いずり回っている。アタッカーたちに攻撃の手が向く心配はない。そして競うように攻撃している者たちへ努は呆れるようにため息を吐いた。



「……あぁ、ならもっと皆DPS上げて! スキル回しが雑すぎる! このままじゃあれに手柄取られますよ! ほらカミーユもっとスキル使って! パワスラ連打しか出来ないのか!」

「で、でぃーぴーえす?」



 カミーユは努の叫びに困惑しながらも、龍化と音楽隊の支援で爆上げされているステータスで暴れ回る。他の者も釣られるようにどんどんと手数を上げていき、暴食龍は苦しそうにしながらもただただ良い匂いのするシェルクラブを追いかけている。



「僕の見立てではブルーノ一位、カミーユ二位、ヴァイスが三位です! レオンは啖呵切ったからにはもっと頑張って下さい!」

「なんだとぉ!?」



 努に煽られたレオンは長剣に付いた血を払いながらも、金色の加護によって薄く光っている狼耳を全開に立てた。



「うふふ、皆まだまだね」

「まぁ、二位ならいいだろう」

「…………」



 ブルーノは楽しそうに笑いながらも拳や蹴りで暴食龍に強烈な打撃を与え、カミーユは安心したように息を吐きながら大剣を叩きつけた。ヴァイスは特に何も言わなかったが双剣を振る速度は上がっていた。



「ツトム! わたしはわたしは!?」

「エイミーは……八位です! もっと頑張りましょう」

「むっかー! 双波斬!」



 エイミーは努の言葉にそう返しながらも乱舞するように双剣を振るった。そしてその双剣が振られるごとに双波斬が飛び、暴食龍の背中を鮮血が散った。


 そして順位は動かぬまま膠着しつつ、シェルクラブは火竜が火を吹いている場所へと到着した。そこには攻撃準備を終えている探索者や私兵団たちが待ち構えている。



「皆さん! すぐ離脱! 巻き込まれますよ!」



 努の声にアタッカーの皆は暴食龍を倒せなかったことに舌打ちしつつ、大人しくそこから離れた。もう暴食龍は虫の息だが、勢いを落とさぬまま地を這いずっている。



「撃てー!!」



 火竜の上に乗っていたルークが離脱したことを確認し、息を吸い込んだ後に思いっきり叫んだ。その叫びの後に火竜が火を吹き、下にいた探索者たちも矢や魔法スキルを一斉に放った。もう息も絶え絶えの暴食龍へ次々と着弾。


 暴食龍はその波のような攻撃に段々と前肢での歩みが遅くなり、最後には止まった。


 そして荒波のような攻撃スキルが終わると潰れるように地へ頭を下げ、口を開けて絶命した。


 一瞬の静寂。そして誰かが口を開くと、その声はどんどんと上がった。



「おおおおおおおおおお!!」



 探索者を中心に勝どきが上がる。暴食龍は皆の手で今度こそ討伐が成された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る