第34話 観衆の歓喜と猫の背中
朝の八時。多数の労働者たちが仕事場に向かう道中。遠目でも確認出来る宙に映し出されている巨大モニター、一番台には努たち三人PTが五十九階層を探索している姿が映っていた。
数年前は大手クランの中でも群を抜いていたクラン。そのクランの中心であったカミーユは五十階層の構造をよく理解していているため黒門を見つけるのが早い。更に町娘たちが憧れるような長身でスラッとした身体とは裏腹に、彼女は巨大な大剣を持ってモンスターをばったばったと倒していく。その姿はかなり観衆の目を引いていて元の人気もあり彼女を支持するものは多い。
それに最近では多くのモンスターを相手取っていても全く倒れない狂犬のガルムも話題に上がることが多かった。彼がモニターに映るたびに婦人や町娘たちの黄色い声が響いている。
それに比べて努は後ろから杖を振って回復、支援スキルを飛ばし、偉そうな命令口調で指示を飛ばしているだけ。ソリット社の記事も相まって観衆からの評価は最悪だった。
大多数の観衆はガルムとカミーユのおかげで五十九階層まで来れたのだろうと思っている。一部分の観衆は努の飛ばすスキルの物珍しさに目を引かれたりはするものの、手前ソリット社の記事で心証が悪い。なので努を表立って評価することはなかった。
しかし観衆の中でも様々な台を長年視聴していて下手な探索者よりも知識を持っている、いわば迷宮マニアたち。その者たちからは努も多少評価はされていた。
そもそも五十階層の渓谷、峡谷は普通最大人数の五人PTで挑むものだ。それに渓谷はまだしも五十六階層からの峡谷はモンスターとの連戦が多く、中堅クランで有名な五人PTでも全滅する光景が度々見られている。
その峡谷に三人PTで挑んで五十九階層までたどり着いていることだけでも評価に値する。いくらカミーユとガルムが強かろうと努が弱ければ必ずPTでの死が目立つ。しかしPTメンバーは誰も、一度も死んでいるところを見られていない。
それに努から飛ぶ様々な三つのスキル。黄土色のプロテク。青色のヘイスト。緑色のヒール。それらが努の杖から出てはガルムとカミーユへ正確に向かう。モンスターと戦い二人から視界を外しているにもかかわらず、正確に放たれる三色のスキルに迷宮マニアたちは仲間内で彼に称賛を送っていた。
そして九時過ぎ。労働者たちのほとんどは仕事場で仕事を始め、一番台を見ている者は婦人や子供、乞食にたまたま休みだった労働者たちが主な観衆となった。そしてその三人PTで六十階層への黒門を潜ったことに誰もが驚いた。観衆はきっと彼らも火竜に挑まないと思っていたからだ。
「え? 入ったぞあいつら」
「三人とも初見だろ? なら様子見じゃねーの」
「いや、それなら装備安物にしてくるだろ。カミーユさんの大剣、本物だったぞ」
「まぁ、様子見も本武器でやりたかったんじゃねぇかな」
「あ。俺最初のブレスで死ぬに昼飯」
「同じく」
「じゃあ俺二撃目な。火装束あるし一人は残るだろ」
「は? ガルムなら三撃は耐えるから。これは昼飯貰いましたわ」
「どうせ咆哮でみんな死ぬだろ」
迷宮マニアたちが楽しげに内々で談義し始める。婦人たちは驚いたように口を押さえていて、子供たちは火竜が見れると手を挙げて大喜びしている。一番台付近の人々がざわつき始め、黒門に入り粒子になって消えていく三人PTに注目し始める。
最近火竜に挑んでいるクランは金狼人率いる金色の調べのみ。在籍クランメンバー人数が一番のアルドレットクロウはワイバーン狩りばかり。大手クランの中では在籍メンバーが十人ほどと少なめの紅魔団は、前回の火竜討伐の際に出た莫大な赤字の補填に奔走している。
なので観衆は火竜の姿を金色の調べ以外では見れていない。たとえそれがすぐ終わってしまうだろうと予想がついていても、一番台の前列にいる者たちはわくわくしながらモニターを見ていた。努の悪評からか興味のなさげだった者たちも、一転して興味を持ち一番台を見始める。
六十階層に入って努が支援スキルをかけ終わる頃には、谷間から細長い身体を蛇のように揺らめかせながら火竜が飛び出す。そして初めて聞いた者は必ず恐怖を覚えるような咆哮が響いた。婦人や子供たちからはいくつかの軽い悲鳴。他の者たちは花火でも眺めるようにおー、と口々にしている。
初見のクランは大抵この咆哮で身が固まってしまい、火竜のブレスで焼かれるのが定番である。このPTもそうなるだろうと思いながら観衆は映し出された三人を見る。
カミーユとガルムが青い顔をして震えながら固まる中で、努だけは五月蝿そうに片耳を塞ぎ火竜へ忌々しげな目を向けていた。そしてガルムの尻尾を掴み、カミーユの頬をペチペチと叩いて二人を正気に戻し始める。
「あいつ! ガルム様の尻尾を!!」
突っ込みどころのおかしい婦人たちに迷宮マニアたちが視線を送っているうちに火竜のブレスが三人を包む。そして同時に閃光瓶の光で一番台が真っ白になる。観衆は少し眩しげに目を細める。
それから努が火竜の目が潰れているうちに額の水晶を破壊。観衆たちは予想よりも長く持っている三人に少し沸き立ち始め、迷宮マニアたちは努の流れるような閃光瓶に水晶割り。とても初見とは思えない彼の動きに舌を巻いていた。
そして腰を抜かしているカミーユを置いて二人が火竜と対峙。ガルムが火竜を相手に一人で立ち向かいはじめて観衆たちは称賛の声を上げる。そして吹き飛ばされているガルムへ回復、支援スキルを送っている努にも注目し始める。
「ねーねー。なにあのみどりのー?」
「さぁ……。なんだろうね?」
「きらきらしてるねー」
子持ちの婦人が子供の質問をはぐらかしつつも戦闘は続く。そして四十分ほどガルムが火竜の攻撃に耐えた後にカミーユが復活し、アタッカー、タンク、ヒーラーが揃う。それから二時間ほど経過した。
「マジかよ……」
紅魔団が火竜討伐にかかった時間は三時間。既に三人PTはその時間に届きそうであり、しかもまだ一度たりとも死んでいない。その三人PTの大健闘に一番台へ注目が集まる。人が人を呼んで一番台を見学する者で通りは溢れかえる。
その混雑を察知した警備団は観衆の列を整理したり、何かトラブルが起きないように巡回を始める。屋台の者は稼ぎ時だと熱された鉄板に特製の甘辛ダレをかけ、食欲のそそられる匂いを辺りに振りまく。その匂いに釣られた者たちは次々と肉野菜炒めを買っていく。
もうそろそろ昼時。一番台を見ていた者たちの腹が鳴り始める頃だ。開店している屋台や売り歩きしている者たちに観衆が殺到する。そして搾りたてのオレンジジュースやエールなど片手に観衆たちは一番台をまた見始める。
火竜を引きつけているガルムや火竜を攻撃しているカミーユは勿論だが、スキルを飛ばしている努にも観衆の注目が集まり始めた。
「ガルム。ポーション飲んでないよな?」
「あぁ。……多分|幸運者(ラッキーボーイ)が回復してるんじゃねぇかな。あの飛ばしてるやつがヒールなんじゃねぇか?」
「プロテクも飛ばしてるんじゃね? あの茶色いやつ」
長時間の戦闘で緑ポーションが一度も使われていないのは観衆からしてみれば異常な光景だった。火竜攻略に緑ポーションは大量に必要であることは大手クランの戦法から、今や常識となっている。金色の調べも火竜討伐に成功した紅魔団も緑ポーションと青ポーションを大量に消費していた。
しかし三人PTでポーションを消費しているのは努のみ。それも一時間に一度青ポーションを飲むだけだ。ポーションの消費量が明らかに他のクランより少ない。
それに回復の際の隙も他のクランに比べると皆無だ。ポーションを飲む際には必ず隙が出来る。そこに追撃を受けて死ぬ者は多い。しかしガルムは戦闘を継続しながらも回復されているので、火竜のみに集中出来ていて全く隙が出来ない。
他の大手クランPTのヒーラーは最初に支援をかけ、あとはレイズを使う機会が訪れるまでは万が一でも死なないために隠れるものだ。それがこのPTのヒーラーは全く隠れない。堂々と回復、支援スキルを放ち続けている。
そうすれば火竜の敵意もヒーラーへ向くものだが、それをガルムがヘイトを稼ぐスキルで火竜を抑えている。そしてカミーユがその隙に火竜の身体へ傷をつけていく。時偶カミーユにヘイトが向くことがあり彼女は攻撃を受けていたが、それでも努を火竜が狙って攻撃することはなかった。
そしてカミーユの龍化状態でのパワースラッシュが決まり火竜の尻尾が切断される。観衆が一気に沸き立つ。
「おいおい! 本当に倒しちまうんじゃねぇかこれ!」
「いや、流石に無いわー」
「でも一回も死んでないぜあいつら! すげぇな!」
「いやいや。あの二人はまだしも、幸運者は後ろでなんか撃ってるだけだろ」
「はぁ? 緑ポーション使ってないんだぞ? あいつがあれ撃ってるおかげだろ?」
「え、そうなの?」
迷宮マニアたち以外の観衆にもちらほらと努を評価する者が出始める。そして労働者たちが昼休みにご飯を食べようと外に出てきて、一番台の熱狂ぶりに目を丸くしながら観衆に話しかける。
「何だ何だ、凄い盛り上がりだな。……って火竜か!? また金色か?」
「いや、あれは幸運者(ラッキーボーイ)PTだ。多分|9(きゅう)から戦ってるぞ」
「はぁ!? 嘘つけ!」
「いや、見てればわかるだろ。ほら」
「おい、ほんとに三人じゃないか。てか何でこんな時間に潜ってんだよ! 夜潜れや!」
「あぁ、あんさん仕事か。それはご苦労なこったな」
「くそ! ……昼飯屋台で済ませるか。おーい兄ちゃん! それいくらだ?」
串焼きを売り歩きしている少年に労働者が続々と集まり、串焼きを片手に一番台を遠くから眺め始める。カミーユの龍化に火竜を一人で相手取るガルム。そして三色のスキルを飛ばしている努をじっと見始める。
四十分ほど火竜と戦っても誰一人と倒れない三人PT。労働者たちは名残惜しそうにしながらも仕事に戻っていった。中には仕事仲間に引きずられながら仕事に戻る者もいた。隠れ迷宮マニアの者だ。
現状写真を白黒で撮れる技術はダンジョンでの宝箱から発掘されたこともあり発達しているものの、まだモニターでの配信を録画する魔道具は開発されていない。だから配信で流れた映像は一度きりしか見ることが出来ない。
なので観衆のことを意識するのであればほとんどの労働者が休みである日曜日か、仕事が終わった後の十八時以降が望ましい。しかし努は観衆への配慮などは全く意識していなかったため、労働者たちはもやもやとした気持ちを残したまま仕事場に戻ることになった。
それから四時間半ほど三人PTは火竜と戦い続けた。ここまで時間の長い火竜攻略は異例であり、観衆は飽きることもなく一番台へ集まり続けている。警備団の者たちは増え続ける観衆を死んだような目で案内し列を整理する。
「何時間戦ってんだよ……」
「いや、なにあれ? どうなってんの?」
ポーション利用の火力至上の短期決戦戦法が馴染んでいた観衆にとって、戦闘状況を安定化させて継続した戦いを行う長期戦法はまさに異次元だった。火竜の発狂状態による無差別攻撃でガルムは深く傷つき、カミーユも大怪我を一度負って崩れかけた。しかし努の飛ぶスキルや指示出しによってPTは崩れない。
火竜も翼が穴だらけになり顔面の片側も削られ片目を失っている。もしや本当に倒してしまうのではと、観衆は期待を高まらせていた。たった三人のPT。それも火竜は初見のはずにもかかわらずここまで火竜を追い詰めている。
しかしその中でガルムが限界を迎え転倒。そして彼が火竜に踏み潰されて甲高い婦人の悲鳴が上がった。追撃に三度も踏まれて生存は絶望的で、観衆は残念そうなため息を吐く。
しかし努が陥没した穴から入って少しするとガルムは自身の血を垂らしながら出てきた。観衆はあんぐりと口を開ける。そして大盾を投げて火竜の顔に突き刺し、火竜相手に牙を剥くように笑うガルムに黄色い歓声が一番台付近に響き渡った。
そして遂にカミーユが火竜の首を上から落とし、火竜が粒子化を始める。まるで爆発でも起こしたかのような歓声が広場を襲った。
「やりやがった! すげぇ!」
「おいおいおい! とんでもねぇな! 幸運者(ラッキーボーイ)!」
「あっはっは! やべぇ! やべぇなあれ!」
観衆たちは手を挙げて人の波が揺れている。きちんと労働者も見れるように時間を配慮した紅魔団ほどの盛り上がりはないものの、それでもこの盛り上がりは異常だった。
「……どうせあの二人のおかげだろ!」
そんな大歓声の中で虫の探索者が忌々しげに口にすると、周りにいた探索者マニアの者たちは彼へ冷たい視線を送る。
「……醜いな」
「あれ見てそんなこと言えるとか、目ん玉ついてんのかよ。アホくさー」
「な、なんだお前ら! くそっ! あんなの仲間が強いだけだろうが! 俺だって仲間が強けりゃ火竜なんざ倒せる!」
「あっ……」
「うっわ、出た出た」
大言を喚き散らす虫の探索者に探索者マニアたちは憐れみながらも見下すような目を向ける。その周りにいる観衆の目線も冷ややかなものだった。火竜を倒すということは紅魔団が倒すまでは、半年間誰も成し得なかったことだ。その火竜を目の前の男が倒せるとのたまうのは、失笑を買うものだった。
「くそがあぁぁっ! そんな目で見るな! 見るなあぁぁぁぁぁ!!!」
その周りからの視線に耐え切れなくなったように暴れだした虫の探索者は、巡回していた警備団に取り押さえられて連れて行かれる。幾人かの虫の探索者たちが警備団に捕まっていく姿を見ながらも、観衆たちは勝利の余韻にじゃれあっている三人PTを見る。
「幸運者(ラッキーボーイ)。すげぇじゃねぇか。あれでエイミーのことがなけりゃな……」
「ま、実力はあるんじゃねぇかな。エイミーちゃんのことはぜってぇ許さないけど」
「ガルムとカミーユさんも弱み握られてるらしいけど、本当かね。とてもそんな感じしないんだが」
三人でわちゃわちゃとして楽しげなPTを見て、観衆たちの中には少しソリット社の報道に疑問を持つ者も現れる。
「いや、でもエイミーのやつはホントだぜ。俺知り合いの探索者に聞いたしな」
「だよな。実際エイミーは
「ま、強ければいいんじゃね? 面白いよあのPT。初見で、しかも三人だぜ? やばいわ」
「でもエイミーちゃんに何でも言うこと聞かせてるんだろ? 羨ま……許せんな!」
「でも火竜三人で倒したしなぁ……。あのぽんぽん飛ばしてるやつ? あれのおかげってのもあるだろ絶対」
「女好きでも金色みたいのならいいんだがなぁ……。弱み握って無理やりってのは頂けんわ」
口々に一番台の前で言い合う観衆たちはしばらくの間三人PTの成し得たことを、興奮した様子で話し合っていた。
――▽▽――
努たちが火竜に挑んでから三時間ほど。ギルド内の一番台は大いに盛り上がっていた。その声はギルド宿舎まで届いていて、エイミーはその声に釣られてギルド内の一番台を覗きにきていた。
「あ」
そのモニターにはガルムとカミーユ、そして努が火竜に挑んでいる姿が映し出されていた。職務放棄しているギルド職員にエイミーが話を聞くと、三人は火竜相手にもう三時間ほど戦いを繰り広げているそうだった。
ガルムが火竜の気を引いてカミーユが攻撃。そして努が彼らに指示を出しつつ回復や支援を行っていく。その光景をエイミーは苛々したような顔で見つめていた。
(ギルド長攻撃しすぎ。ツトムが指示してるじゃん。あぁ、ほら火竜があっち向いちゃった。ちゃんとツトムの言うこと聞かないから)
二十階層から五十階層まで努の戦法を身体に覚えこまされ、アタッカーとしての役割をわかり始めてきていたエイミー。彼女はカミーユの何も考えていないような攻撃に苛立ちを募(つの)らせていた。
(ツトムがヘイスト飛ばしてるのに何で全力で走ってるの? そこは少し動きを緩めてあげた方がツトムが楽になる。あぁー! もう! イライラする!)
自分ならこうする、あぁするなどと思考を巡らせながらもエイミーは食堂の椅子へ不機嫌そうに座った。知り合いのギルド職員がその様子に苦笑いしながらも林檎(りんご)ジュースを彼女に差し出した。
それを目を丸くした後に無邪気な笑顔で受け取ったエイミーは、それをごくごくと飲みながら三人の火竜攻略を見守った。そしてPTを改めて外から見るとこういう風に見えるのかと唸った。
(今すぐギルド長と代わりたい。もーっ! 私だったらもっと努に合わせられるし、わんちゃんも有効活用出来るのに! あー……)
続々と出てくるギルド長の雑な立ち回りにエイミーは腹を立てながらもモニターを見つめる。頭の上の猫耳はピンと立ち上がり、細い尻尾は不機嫌そうにうねっている。
(……ガルムはほんと無駄に頑丈だなぁ。まぁ、火竜相手によく一人でやってるね)
火竜の尻尾で弾き飛ばされながらも全く倒れる気配のないガルムに、エイミーは絶対口にしないようなことを内心で呟く。そして空中で指示を出しながら杖を振るう努がモニターに映る。
「カミーユ! あと三撃で攻撃|止(や)め! ガルム! 回復は!」
「なし!」
「おっけー! バリアまであと十分! その調子で頼む!」
そう言いながらガルムへプロテクを飛ばす。そしてカミーユを一旦引かせた努は彼女にあれこれ声をかけている。外から見ると結構声を張っているんだな、とエイミーは思いながらも職員から恵まれた熱々のフライドポテトをかじる。
(外から見るとあんな飛ばしてるんだ……。てか、いつの間にかガルム呼び捨てになってるし……)
一度杖を振るうとプロテクとヒールがセットでガルムへ向かい、ヘイストの効果時間を努は小さく口ずさみながら効果が切れるギリギリでカミーユにヘイストを当てている。効果時間を余分に上書きする形で支援スキルを放つとその分スキル使用が多くなり、火竜のヘイトを稼ぎやすくなってしまう。なので努はいつも効果時間が切れる寸前に二人へ支援スキルをかけていた。
(フライもいつの間にあんな上手になったんだ。ずっと海に落ちてたのに)
白のローブが海水を吸って重くなり、フライ失敗で海に落ちると努は高確率で溺れかける。それを何回も助けていたエイミーは彼が空を飛びながら支援スキルを飛ばしている姿に感心していた。
そしてカミーユが龍化してからは火竜の身体に目立つ傷が付き始める。長い尻尾は切断されて翼に穴が空き、その黄金の瞳は一つ潰されていた。
(相変わらず何も考えてない動きだけど……やっぱりギルド長凄いなぁ。それに努もよく合わせてる)
ギルド職員から貢ぎ物のようにどんどんと置かれていく小料理をつまみながらも、エイミーは一番台を食い入るように見ていた。彼女はカミーユよりも努に合わせた動きを出来る自信はあった。しかしあの龍化状態のカミーユのような人外のような動きは、彼女には出来ないことだった。
(もうこれ倒せそうじゃん。はぁ……)
今までの傾向からしてもここまで戦況が安定すれば火竜も倒せるだろうと確信したエイミーは、とても大きなため息をついた。
(私じゃ、あんな無茶苦茶な動き出来ない。結果的にはギルド長が代わりに入ってよかったのかも。私じゃ、力不足だったかな)
序盤のカミーユの醜態を見ていなかったエイミーはふるふると喉を震わせた。あのカミーユでさえもう七時間経過しているにもかかわらず、火竜を討伐できていない。エイミーは自分の実力不足を突きつけられて悔しさに拳を握った。
そしてガルムが転倒して火竜に何度も踏み潰された時には、エイミーは思わず席を立った。しかしあれを受けても平気な顔で出てきたガルムを見て呆れたように腰を下ろした。
そして火竜討伐を果たして仲良さげにはしゃぐ三人を見て、エイミーの瞳から一筋の雫が零れ落ちた。それを拭ったエイミーは、とぼとぼとした足取りでギルド宿舎へ帰っていった。
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