分岐エンディング ユイルート

 私は、ハルトさんの手を取った。

灰の勇者には感謝している。でも、元の世界に帰れるなら帰りたい。

(ごめんなさい……!)

ロナルドは一生懸命優しくしてくれた。たくさん支えてくれた。でも、でも……。

(家に帰りたい……!)


「ユイー? 起きてるのー?」

 普通に、朝だった。頭は重いけど何とか起きられた。階段を降りてダイニングに向かうと、お父さんが会社に行くところだった。

「いってらっしゃい……」

「いってくる」

お父さんは私の頭をポンポンと叩いて玄関へ向かった。いつもなら嫌だけど、今日は頭を撫でられても気にならなかった。

撫でられた頭を触って、ロナルドの手を思い出した。

剣を握るからゴツゴツしていた大きな手。

「……はぁ」


 朝の支度を終えて普通に学校に向かった。教室に着くと何だかガヤガヤとうるさい。割と仲のいい女子グループの一人がクラシックなドレスを体に合わせてその場で回っていた。汚れてない、若草色のドレス。アニエスのドレス。

「おはよー。それどうしたの?」

「あ、ユイーおはよー」

「おはよー。お婆ちゃんにもらったの! 嬉しすぎて持ってきちゃった!」

「ふーん?」

カバンを机の横に下げて話の輪に加わると、交代で着ようと言う話になって「やめた方がいい」と忠告を入れる。

「それ、下にコルセットとかパニエとかないと着られないでしょ」

「パニエって何だっけ?」

「パニエ知らないならそもそも着れないでしょ……」

「えー? ユイそう言うの詳しかったっけー?」

「まあね。ゲームで見てさ」

「ふーん?」


 帰宅途中の電車の中。普段なら見ないゲームの実況プレイを動画サイトで目にして画面サイズに拡大して試聴を始めた。若い男性が『ダークロード ビギンズ』をプレイしている。

「でぇ、まあこのゲームによく似た夢見ちゃって。しかも超リアルなんすよー。痛いし血ィ出るし。そこまで再現しなくていいだろってアー! 死んだ!」

いわゆる凡ミスで死んだ実況者はハァと溜め息をつく。

「ユイアさん元気かなー……。あ、夢の中に出てきた聖女なんすよ。超美人で俺好みでー」

最後まで聞かず、私はアプリを閉じた。


 家に帰って『ダークロード ビギンズ』を立ち上げた。そういえば持ってたな、くらいの気持ちで。

立ち上げると神殿の中で私が作った赤マントの騎士がたたずんでいた。

聖女は一人だけだし、闇の聖女だから灰の国と言う単語がそもそもない。

エモートを使って騎士のお辞儀をすると、闇の聖女に組み込まれたAIが反応して丁寧にお辞儀を返してくる。

そのまま何をするでもなくぼうっとながめていた。

私は画面に手を伸ばして騎士の後ろ姿を突いた。選択もしてないエモートが反応して、まるで騎士が振り向いたように見えたのも、私の涙も、全部……勘違いなんだろう。




ユイルート エンディング『触れられぬあなた』

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