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ハーブソースのチキンソテー。皮がパリッと焼かれている。ソースは酸味が利いているけれどこれはレモンだろうか、それともライムだろうか。
フミちゃんの前にはトロトロに煮込まれたビーフシチュー。見ているだけで肉のやわらかさが伝わってくる。
「何食べに行く」
「ハンバーガーでもいいんだけど、ここじゃね」
僕はフミちゃんの手をとって人の間をすり抜けていく。日々の作業でかなり荒れているはずなのに、フミちゃんの手はしっとりとやわらかい。
「手袋しているから」
「でもおじさんは素手でないと感覚がわからないって言ってたよ」
「おとうさんはね」
「少し贅沢できるよ」
「仕事上手くいったの」
「まあね」
「ねえ交換」
ナプキンで口を拭いながらフミちゃんが言う。そして自分の皿と僕の皿を取り換えた。
「カリッとしてたり、トロトロだったり、食感って大切だよね」
贅沢と言っても、この店はかなりリーズナブル。しかも美味しい。この店を教えてくれたのは誰だっけ。そうかノブさんだ。
ノブさんがバリバリやっていた頃からある店だから、あの喫茶店と同じくらい古いはず。なのにあの店ほどレトロ感はない。
「大連につづいて大ヒットだね」
フミちゃんは残ったシチューをパンですくって口の中に入れる。そして僕も軽くトーストしたバケットを手でちぎった。
「食べ過ぎちゃうね」
「でも、おいしいから」
「そうだね」
店の奥のほうのテーブルを見ると、見覚えのある男が女の子と一緒にいる。変わり身が早いなと思った。
「騙されたとは言い切れないところがあって、微妙ですね」
ノブさんが連れてきた男がそんなことを言っていた。
「これからどこに行く」
「この前二人で行ったところに行ってみようか」
「仕事じゃなく」
「もちろん」
「ガチガチにならないでね」
「もう大丈夫」
そう言ってフミちゃんは僕の腕をつかんだ。
アミちゃんを探せ 阿紋 @amon-1968
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