ホームレスのいる堤防沿いの公園を歩いてみたけれど、依頼人に関することは何もつかめなかった。やっぱりホームレスじゃないのかな。お金持ちのホームレスがいないってこともないよね。よっぽどの変わり物だろうけど。そんなことを考えながら、ボランティアが炊き出しをしているテントのほうに歩いていく。

「見たことありませんね」

 ボランティアのチーフという男は少し機嫌悪そうに僕の質問に答えた。写真もなく、名前もわからず、僕が書いた似顔絵だけじゃね。もちろん、教えてもらった携帯に電話して「あんたはいったい何者」って聞けないわけじゃない。依頼を実行する上では重要な情報には違いないのだから。

 でもどうなんだろう。多分本当のことは答えてくれないだろうな。依頼を受けるかどうかはもっと慎重に決めなくちゃいけないんだろうけれど、あの札束がでてきてはね。それに僕にも探偵の勘みたいなものはあったわけだから。もうお金使っちゃったし。マリに渡した分そのまま赤字。なんてことにはしたくないなあ。どうしたものかと考えているうちに僕は川の見える堤防まで来ていた。ここは公園の外れのほうなのでまわりにはホームレスの人たちはいないようだ。夏はともかく冬はきついだろうな。夏は夏で汗の臭いでむせ返るのかもしれないけれど。まあ、そんなことを考えているうちはホームレスにはなれない。超えなくてはならない一線があるんだろうな。多分。なかなか越えられられない線のような気がするけれど、気がついたら越えてしまっていたなんてこともあるのかな。僕だって一つ間違えればここにいたかもしれない。

「あんたタバコ持ってるかい」

 川を眺めている僕の隣に男がひとり立っていた。浅黒い顔が笑うと白い歯が輝いて見える。ホームレスにしては白すぎるように思えた。僕はマリからもらったタバコをその男に渡すと、男は箱の中からタバコを一本取り出した。

「大丈夫、火はあるんだ」

 男はそう言って、ジャンバーのポケットから汚れた百円ライターを取り出して、タバコに火をつける。

「お兄さんは吸わないのかい」

「今はいいです」

「探偵なんだから、タバコぐらい吸わないと。吸うふりでもいいのよ。ふかすだけとか。小道具としてはマストじゃない」

 マリが帰り際にタバコの箱を僕に握らせた。

「メンソールか」

 男はタバコの煙を吐きだしながらそう言った。

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