ボサボサの髪に無精ひげ。くたびれたジャンバーに汚れて擦り切れそうなズボン。ずっと履いたままの靴下とかろうじて穴のあいていないスニーカー。どう見てもホームレスにしか見えない男が、僕の向かい側のソファーにいつもの依頼人と同じようにすわっている。

 コーヒーを出そうとすると、茶碗はないかときかれた。

「あんたの分も持って来いよ」

 僕は男に言われるまま、キッチンから茶碗を二つ持ってきてテーブルの上に置いた。すると男はジャンバーの内ポケットからウイスキーの小瓶を取り出し茶碗につきはじめる。

「タラモアデュー」

「いけるんだろう」

 そう言って僕に笑いかける。本当かな。間違いなくあの小瓶はタラモアデューの瓶ではない。

「それで、今日は何の相談ですか」

 男は美味そうにウイスキーを飲んでいる。僕も茶碗を取ってつがれたウイスキーを少しなめてみた。アルコールが僕の舌を刺激する。うすい水割りしか飲んだことがない僕には、このウイスキーがいいものなのか、そうでないのか判断できない。もう一口ウイスキーを飲んでみる。やっぱりきついなあ。そんな僕を見ながら男は、さっきと同じようにジャンバーの内ポケットを探り写真を一枚取り出した。

「この娘を捜してほしい」

「あなたの娘さんですか」

 白髪のまじった髪を見て僕は男にこう言った。

「ちがう、でも大切な人だ」

「そうですか」

 僕は少し違和感を覚えながら、写真に写っている女の子を見る。

「あなたとはどういった関係で」

 男は僕の質問には答えずに、ジャンバーの中から今度は札束を出してテーブルの上に置いた。ドラえもんのポケットなのだろうか。

 僕は男の顔をじっと見る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る