エピローグ『宇宙からの手紙』
拝啓、地球の皆さまお元気でしょうか?
僕は地球から60光年離れたキナフ星にいます。
あの日、彼女の作ってくれたUFO。あのソースの味は忘れもしません。僕の運命を大きく変えてしまった地球の思い出ですから。
僕はUFOに盛られた毒で正常なる意識を奪い去られ、銀盤の宇宙船へと運び込まれました。気がつくと
いいのです。僕の人生はこれでいいのです。
宇宙船開発やテレポーテーションによる技術革新、高度な文明を保持するキナフ星ですが、以外にも食文化は高くありません。僕が招かれたのはいわゆるその発展のためだったということでしょうか。
星の首長と対面した僕は食品衛生大臣という肩書をもらいました。具体的になにをするかという問題もありますが、与えられた使命は料理の普及に努めることでした。
そうして街角の大きな店舗に構えたのは甘味屋です。
各々の惑星から取り寄せられる食材と相談して、これならばという選択でした。
貴重な材料は地球に潜入した数多のキナフ星人がいそいそと毎週のように運んできてくれます。
あんみつ、かき氷、抹茶パフェ、コーヒーゼリー、そして葛切り。
とくにこの葛切りが今キナフ星人に大人気で、のど越しと上品な甘みがお気に入りの様子。朝から銀色宇宙人の行列が絶えません。
キナフ星人はよく食べます。彼女を見ていれば、いわずもがなでしょうが。試食してくれた日から彼女は葛を毎日どんぶり2杯食べにやってきます。
「オイシイ!」
うん、良かったね。なんて思いながら。彼女の笑顔を見ていると僕は元気になれるのです。彼女と過ごした地球の日々を思い出して、心がさみしくなくなるのです。
もう、地球に戻りたいと思うことはありません。
ここが僕の生きる地だと思えば人生も謳歌できるでしょう。
作ることの喜びを与えてくれた人と僕はこのキナフ星で生きていこうと思います。
地球よ、さようなら。さようなら。
キナフ星より愛をこめて。
完
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