第三膳 『シチューと苦手料理』(問題編)
今日のメニューはホワイトシチュー。
だが、ツレは珍しいことにスプーンにも手を付けず、その両手は膝の上に乗ったままだった。しかもなんだか泣きそうな顔をしてじっとシチューを見つめている。
まぁこれまで何度か一緒にご飯を食べてきて、相手の好みも大体は把握していたつもりだった。特に今日は寒かったから、体の温まるものをと考えて用意したのだ。
(ということは……牛乳が苦手だったか)
なんだか微妙な空気が僕たちの間に流れている。
ボタンを掛け違えたような、しっくりこない違和感だ。
まぁ大人になってもやっぱり苦手な食べ物はあるものだ。
だからこそ食べたくない気持ちもよくわかる。
「……僕もね、昔は牛乳が苦手だったんだ。ついで言うとセロリとグリンピースは今も苦手なんだよね」
その言葉にキョトンとした顔で僕の顔を見つめてくる。
「まぁ苦手なものなんて誰にだってあるよ。無理する必要はないんだ。でもね、ちょっと食べてみたらどうかな?」
でも同時に食べてみてほしいという気持ちがある。
人の味覚は食べたものによって変化していくものだからだ。
昔は苦手だったものでも、食べた料理によって好物に変わることだってあるのだ。
知り合ったばかりなのに、ちょっと強引だったかな? たぶんそうだと思う。でも、これをきっかけに牛乳を使ったたくさんの料理が大好物になるかもしれない。
「元牛乳嫌いの僕が開発したとっておきレシピなんだ。味見だけしてごらんよ」
ニッと笑ってそう言うと、覚悟を決めたのかツレは神妙な面持ちでうなずいた。
「い、いただきます」
それから慎重に、おっかなびっくり、スプーンの先をシチューにひたした……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます