1章-1 ビビオは分館長に呼び出しをくらう
整えられた図書館の中庭にある芝生に、様々な種族のこどもたちが座っていた。人間、エルフ、ドワーフ、獣人、妖精などなど、本当に様々だ。
この図書館の地域に住んでいる子供たちで、20人程度集まった彼らは夢中になって大型絵本を見ている。
大人の人間と同じほどの大きさはある、とてつもなく大きな絵本だ。
「兄妹が逃げ出したことを知った妖精は、カンカンに怒って二人を追いかけてきました!」
図書館司書歴2年の新米エルフ、ビビオ・カレシュは輝くエメラルドの目を細め、風に揺れる豪奢な金の巻き毛を押さえながら図書館司書に配布されている杖で絵本のページをたたいた。
すると、ぬらーりとページが勝手にめくれる。
ビビオは絵本を読み終わると、「はい、おしまい」と言った。こどもたちは楽しかったとビビオに挨拶をして、中庭をちりじりに走り出した。
杖を振って大型本をぽんと叩くと、手に収まるサイズへ変化した絵本を片手にビビオは図書館へ向かって歩き出した。
ビビオが暮らすこの地は図書館国家シュバニアルの首都にあたる。
その名の通り図書館が国の根幹であり、街の最奥には鋭利な山脈を背景に城のごとく巨大な中央図書館が鎮座し、さらに街の各地には誰もが歩いて行ける距離に図書館分館が設立されており気軽に行くことができるようになっている。
多くの種族を内包するシュバニアルは、庶民層は基本的に種族ごとにまとまって暮らしているが移民層も存在する。
それは新参者と迫害されるわけではなく、単なる面倒くさがりやどこかに属すことが苦手な、いわゆる変わり者たちの住まう層だ。
彼女が17歳の時、司書として配属されたのがこの移民層の分館だった。
それから2年たったが、ビビオはこの職場に大変満足していた。
ここの住人たちは自分の興味関心にひたむきで、誰も他者のことなど気にしない。
ビビオがのんびり本を読んでいても、古い資料をまとめる作業を延々としていても誰も何も言わないのだ。
本来は地域住民の相談に乗ったり案内をしたりしなければならないのだが。
ただ子供のことは好きなので定期的にお話会は開催していた。
見栄えのいい超大型絵本は大人気で晴れている時はこうして外でお話会をしているのだ。
喜んでくれた子供たちに満足しながら図書館へ戻ると、この図書館の分館長であるセディエから声をかけられた。
「ビビオさん、ちょっといいかな」
「はは、はい!」
これからお気に入りの本を読んでやろうと考えていたビビオは、まさかバレたのかと冷や汗をかきながら返事をした。
セディエもこの移民層の特色に合わせ、かなり自由を許してくれる上司である。
図書館にいつもいるわけではなく、理由はわからないが外勤をしていることが多かった。
これ幸いにと本当にのびのびとしていたたが、いつか何か言われるのではと密かに思っていたこともまた事実だ。
「今後の仕事について重要な話があるから、館長室にきてくれるかな」
終わった、とビビオは絶望的な気分になりながら「はい……」と返事をしてセディエの後ろをついて歩いた。
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