1章-1 ビビオは異動を言い渡される

館長室に入り向かい合ってソファに座ると、セディエは深刻な顔をして切り出した。


「ここでの仕事はどう?」

「どう……とおっしゃいますと?」


かまかけか、かまかけなのか。分館長は自白を促しているのでは?という不安から返答も慎重になるビビオ。


「君は司書養成学校を主席で卒業したエリートだろう。はっきり言って、ここのような末端の分館に配属されるような人材ではないと私

は考えていてね。変化の乏しいうちの図書館では不満があるんじゃないかと」

「全く思っておりません!むしろ私の個性に合致した最適な職場であると言えます!」


ビビオは全力で現状維持を主張した。

確かにビビオはこのシュバニアルで唯一の司書養成学校をトップで卒業した。

シュバニアルは全国各地に図書館があるが、司書となるにはこの学校を卒業しなければならない。


図書館で好きなだけ本が読めるという邪な理由で司書を目指したビビオは、とにかくちゃんと勉強しようと挑んでいたらいつの間にか好成績になっていた。

卒業生代表挨拶では司書としての責務うんぬんなどと嘘八百を並べ立てていたものだ。


セディエ館長は意外なことを聞いたと驚いて眉をあげた。


「そうか。私は君がここに来たのはなにかの間違いか、新人潰しにでもあっているのではと思っていてね。実は上のほうに何度も掛け合って今回やっと異動をもぎ取ることができたのだが」

「え、いやあ、ちょっといらない……」


最後の言葉は小声だが本音がもれ、常人より優れた耳をもつエルフのセディエ館長はきちんと聞き取って苦笑いをした。


「いやあすまない。まさかこの図書館に満足しているとは思ってもみなくて。だが、すまないがもう決定事項でね。2週間後に動いてもらうことになるよ」

「はあ、そうなんですね」


ビビオはおっとりと返事をしたが、内心思いっきり地面を転げまわって嫌だ嫌だと泣き喚いていた。

この分館には3人ほど司書がいるが、最低限の司書としての業務はこなしていて、あとは好きなことをしているものばかりだ。

だから居心地は最高だし、めんどうなことは何もなかったのだ。しかし、まさか善意でこの聖地からでていかなければならないとは思わなかった。


「君にはなんとか中央勤務になってもらおうと思って私もだいぶ掛け合ってね」

「中央ですかあ」


仕事しないと怒られる場所だ、という意識しかないビビオだが基本的にエリートがいるのは中央だ。司書養成学校卒業時に全国各地の図書館へ割り振られるのだが、基本的に首都に配属された司書は優秀者が集まっている。


中でも中央勤務は将来上層部へ昇進する可能性がある者たちだ。

そこから外れたビビオは、正直どうでも良いという思いしかなかった。上昇志向が微塵もないのだ、生きていけらそれでいいというタイプだった。


「ただ中央勤務が決定したのは良かったのだが、少数部族の歴史や文化編纂をしているチームへの異動でね。中央ではあまり華やかではない部署なんだ」

「わたしは華やかでなくてまったく問題ありませんが」


そもそも異動したくないのだが、もはやその願いは届くはずもなかった。


「君の意向を聞けていなくて申し訳ないが、中央に行く用意をしておいてほしい」

「承知しましたー……」


まったく承知していないような声音で返事をして館長室をでた。

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