第55話 サバは海にいるんじゃない! 川にいるんだ!!

「......のりこじゃないか。ここへ何の用だ?」

 突如のりこ探検隊の背後から語りかけてきた声。その主はあの空手少年だった。

「どもん! あなたこそどうしてここへ!?」

 のりこ隊長はあからさまな驚きぶりで、まさかの状況を演出したい様子。だが、冷静に考えてみればここはどもんの修行場。むしろ、来訪者はのりこ探検隊の方だ。

「俺は、ここ最近出没しているという鯖鬼さばきを追っているんだ。」

 どもんの聞き違いだろうが、鯖鬼はおそらくサバッキーを指していると思われる。その話を聞いたのりこ隊長は震撼する。

「サバッキーを探しているですって!?」

 のりこ隊長は焦燥を隠せなかった。自分達と同じようにサバッキーを追う刺客が新たに現れたのだから。

「それと、ハヤテは返してもらう。俺の相棒なんだ。来いっ! ハヤテ!!」

 どもんは、口笛を吹いてハヤテ隊員を呼び戻そうとしている。のりこ隊長の焦燥は増すばかりだ。

「ハヤテ! 行かないでっ......!!」

 のりこ隊長はハヤテ隊員を連れ戻されまいと彼に懇願する。当のハヤテ隊員はというと......?

「何っ!? ハヤテが戻らないだと!!?」

 動揺したのはどもんの方だった。本来の飼い主はどもんなのだが、どういうわけかハヤテ隊員は微動だにしない。どうやら、彼はのりこ隊長をえらく気に入っているようだ。

「信じていたわ! ハヤテ!!」

 不動のハヤテ隊員をのりこ隊長は称賛した。先程まで不安げだったのりこ隊長は嘘のようだ。

「仕方あるまい。鯖鬼は俺一人で探すしかあるまい......のりこ、覚えていろ!!」

 どもんは恨み節で後退した。自身の相棒を取られたことは屈辱以外の何物でもない。

「......極東流・潜泳着手せんえいちゃーしゅー!」

 その掛け声とともに、どもんは滝壺へ飛び込む。どうやら、極東流空手は漁法まで体得できるらしい。

「サバッキーを狙う輩が多いわね。のりこ探検隊、何としてもサバッキーを発見するわよ!」

 のりこ隊長はサバッキー捜索に躍起だ。しかし、彼女の焦燥を尻目にルナ隊員は入水し、気ままに泳いでいる。そしてケンは、なぜか水際の砂利を淡々と掘っている。

「のりこ隊長、ここの水はほんのり温かいです!」

 りょうた隊員がケン隊員の掘り進めた湧水に触れた。羽馴島は源泉地が密集しており、河川を掘ると容易に温泉が湧出する。そのため、このように水際を掘って露天風呂を楽しむことも可能だ。

「みんな、真面目にやってちょうだい!!」

 のりこ隊長が皆を叱咤するも、各々にやる気は見られない。そして、その嘆きを頭上のハヤテ隊員だけが共感していた。

「ハヤテ隊員、頼んだわよ!!」

 のりこ隊長はハヤテ隊員を水面へ送り出す。彼だけがサバッキー捜索を忠実に遂行していた。

 ――その頃、あずみと渉は竹竿を持ちながらサバッキーを待ち続けていた。

「サバッキー、釣れないね?」

 アタリさえこない状況に、あずみは飽き飽きしているようだった。釣りというのは、こういう待ちぼうけになることも珍しくない。

『〆ないで!』

 あずみはサバッキーマスコットのエラ部分を握りしめた。サバッキーマスコットからはそれに呼応したボイスが再生される。その声が反響するほどに周囲は静寂している。

「あずみさん、好きだよ?」

 渉から不意に漏れた一言。それにあずみは思わず赤面してしまう。

「あずみも好きだよ......?」

 あずみは照れ隠しに渉へ抱き着く。それに応じて渉もあずみを抱擁しようするが......。

「あずみさん! 来てる来てる!!」

 二人の空気を読まず、あずみの竹竿が反応する。その仕掛けはウキが浮き沈みを繰り返し、何かが興味を示しているようだった。

「もしかしてサバッキー!!?」

 先程とは打って変わり、あずみは瞳を輝かせる。果たして、その先にいるのはサバッキーなのだろうか!?

 ――のりこ隊長はハヤテ隊員とともにサバッキーを捜索するが、今のところ手応えはないようだ。

「さすがはサバッキー。雲隠れもお手の物ってわけね......」

 のりこ隊長は尤もらしく呟くが、都市伝説というのはまことしやかに囁かれているものである。それゆえ、サバッキーの存在さえそもそも怪しい。

「のりこ隊長、温泉はとても快適であります!」

 りょうた隊員は、ケン隊員が掘削した温泉で足湯を満喫している。野外の足湯は、何とも言えない開放感がある。ケン隊員に至っては全身でその極楽を満喫している。その表情は、まさに至福の笑みである。

「二人は森の主に心を惑わされているわね。あとはルナ隊員......あれ、ルナ隊員??」

 先程まで犬掻きをしていたはずのルナ隊員の姿が、忽然と消えてしまっている。一体、彼はどこへ行ってしまったのか?

「ルナ隊員! 応答して、ルナ隊員!!」

 のりこ隊長は動揺を隠せない。彼女が必死にルナ隊員を呼び掛けるも、彼からの応答はない。果たして、ルナ隊員の安否や如何に......!?

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