第15話 倒せ! 空手少年
「え? ハロー? 私英語分からないよ?」
のりこは困惑している。どもんは何を言っているのか?
「とぼけるなよ? 俺は見たぞ、獣たちを従えるお前の姿をな!!」
どうやら、ハヤテと邂逅を果たしたあの滝壺の近くにどもんはいたらしい。
「のぞき見だなんて、変態じゃないの!?」
のりこは、どもんを軽蔑の眼差しで見つめる。
「あの滝壺は俺の修行場所だ。よそ者はお前の方だ!」
どもんはその言いがかりに対し、不本意だと憤る。
「――あと、あそこのイワナは旨かっただろ?」
どもんはこれまた突拍子もないことをいう。
「うん! とっても美味しかった!」
のりこは屈託のない顔で言う。
「そうだろう。俺もイワナが大好きだ! 特に塩焼きがな」
何故か、どもんは自慢げに語っている。
「うん! わかるわかる!!」
のりこもそれに共感する。さて、決闘の雰囲気はどこへ行ってしまうのか。
「話の分かるやつだな! 気に入った! よし、俺の極東流空手で沈めてやる!!」
どもんは、嬉しさと闘志が入り混じって不思議な感情になった結果、行動まで誤作動を起こしたようだ。
「極東流、電光石火!!」
どもんは驚異的な跳躍でのりことの距離を詰め、空中から回し蹴りを仕掛けてきた。
「......っ!! これが決闘ってやつね!」
のりこは彼の蹴りを半身に
「なんのっ!!」
どもんは回し蹴りから体勢を整え、すかさず跳び膝蹴りへ切り替える。それに対し、のりこも側転からの回し蹴りで応じる。どもんは、
「さすが覇道の使い手。やるじゃねぇか」
どもんの目は殺気に満ちている。先程の和やかな空気とはえらく違っている。
「だから、私は英語分からないってば!」
彼のいう覇道に、のりこは心当たりがない。彼女からすれば、どもんの言葉は言いがかりに等しい。
「そうか、どうやらお前は覇道に無自覚のようだな」
その瞬間、どもんに怒りが込み上げた。いや、嫉妬したと表現するのが適切だろうか。自身が追い求めた力を、無自覚な人間が会得している。どもんには、それに我慢がならなかった。いつしか、彼には殺意にも似た感情が芽生えてしまっていた。そして、その感情は暴走していく。
「――おい、校庭で誰か喧嘩してるぞ!」
二人の決闘は、校舎の窓から目撃されていた。周囲はその様子に
「......あれ、おねえちゃん?」
りょうたは、まさか姉が本当に決闘するとは思っていなかった。彼は、のりこの愚行に少々呆れ気味な表情を浮かべる。
怒り狂ったどもんは、攻撃の手を緩めない。のりこは彼の攻撃を受け流し続け、防戦一方となっている。
「――許せない!お前が許せないっ!!」
いまのどもんはもはや、私怨に惑わされている。木鶏はどこへいったのか。
「模型って何? 部品が足りないの?」
のりこは、自分なりに彼の怒りの核心を探そうとするが、残念ながら的外れである。
「そんなことどうでもいい! 俺はお前を倒すだけだ!!」
のりこの質問は、油に火を注ぐことになってしまった。どもんの怒りは過熱していく。
「――あれ? どもん君にのりこちゃん!?」
その騒ぎに、ようやく先生も気付いた。彼女は火急の事態と判断し、二人の仲裁へ向かう。
「これで終わりだ! 極東流、閃光指!!」
どもんはチョキの形を作り、のりこの眼球を狙う。ここまでくると、もはや狂気の沙汰である。だが、のりこは彼の懐に潜り込んだ。
「しまった......!」
どもんはふと我に返る。だが、時すでに遅し。すかさずのりこの反撃が入る。のりこは、体位を翻し彼の腕を捕まえた。そして、ためらいもなく彼を投げ飛ばす。
「えいっ!!」
どもんにとってこれは不覚であった。まさか、格闘経験のないのりこに一本背負いを食らうなど想像だにしなかった。
「我、いまだ木鶏たりえず......」
どもんの目から、悔し涙が溢れた。
「模型の部品なら、一緒に探そ?」
結局のりこは木鶏も覇道も分からずじまいだが、どもんとの戦いに勝利した。
そして、そこに先生がやって来た。
「......二人とも、これはいったいどういう事?」
先生は、鬼の形相でのりこたちを睨んだ。
「先生、これは決闘。どもん君は模型の部品を失くしたってー-」
先生はのりこの言葉を遮った。
「決闘なら尚更駄目でしょうが!!」
言わずもがな、決闘はれっきとした犯罪である。勿論、小学生という事で情状酌量の余地はあるが。
「おねえちゃん、まさか本当に決闘するなんて......」
りょうたも呆れて、それ以上言葉が出なかった。
「とにかく、今から職員室へ来なさい!」
二人は問答無用で職員室へ連行され、先生にきつく叱られた。
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