数々の名作・迷作を生み出してきた人気作家・中村颯希先生の待望の最新作『アリアは絶対捕まらない』
美少女怪盗アリアvs最強聖騎士ラウルの壮絶な騙し合いと心理戦を主軸にした手に汗握る攻防劇である。
さて、中村先生といえば勘違いものを書かせれば右に出るものなしと言われるほどの勘違いの女王。その計算しつくされた巧妙な会話によってどこまでも勘違いが雪だるま式に膨らんでいき、読者を抱腹絶倒に叩き落とし、どう収拾つけるんだよと心配させつつも最後は綺麗にまとめる爽快感がその作風の特徴であり最大の武器であると多くのファンも同意されると思う。
……にもかかわらず、本作ではまさかの勘違い要素封印という新たな境地が拓かれた。
加えてキャラクター像も今までにはないタイプだ。中村先生の描くヒロインのイメージは私にとってこんな感じだった。
過酷な環境(孤児院とか下町とか監獄とか毒親家庭)で育ったものの本人はわりとそんな環境に順応していて現状に満足しているので特に上昇志向はない。でも実はめちゃくちゃ優秀かつ美少女なので上流階級の人たちに目をつけられ、本人はまったくその意図がないのにいつの間にか国を左右するような大問題に巻き込まれてしかもそれを解決に導き、結果的に助けられた王子様(残念なイケメン)に気に入られるも、なぜ好意を寄せられるのかいまいち分かっておらず、本人は元の過酷でも自由な暮らしに戻りたがっているのに周囲がそれを許してくれずに戸惑っている。
対してアリアは、上昇志向の塊。下町仕込みの後ろ暗い技術をこれでもかと駆使して泥棒稼業に勤しみ、自分の女の魅力を最大限に利用して強かに立ち回り、最終目標は財産目当てで金持ち老人の後妻というなかなか今までにない腹黒ヒロイン(……と本人は思っている)
そしてアリアの前に立ち塞がる好敵手・聖騎士ラウル。中村ヒーローといえばヒロインへの恋心で目が節穴になりがちな残念なイケメンが多いので、今回も多分に漏れずにそのタイプで、その隙をアリアにまんまと突かれるのかな、と当初は予想していた。……が、蓋を開けてみればラウルは冷静沈着にして頭脳明晰、決して思い込みで行動しようとはせず、アリアの小細工をことごとく切り抜けてアリアをガンガン追い込んでいく極めて優秀な探偵であり猟犬だった。
あえてバラそう。この作品はタイトル詐欺であると!
そんな、今までの中村作品とは一線を画するこの作品の感想であるが……控えめに言って最高すぎた。
悪ぶっている型破りヒロインのアリアだが、根は悪い子じゃないどころかめっちゃいい子だし、そんなアリアの本質を見抜いて理解しようと努めるラウルがまためちゃくちゃいい男で、もう、何度きゅんきゅんさせられたことか。こんなに格好いい男は中村作品史上今までいなかった(いい男に成長した奴はいたが)
そして、普段は立ち位置として敵対している怪盗と探偵であっても、個人としてはお互いに認め合っていて、時により巨大な悪や問題を前にして手を組むという関係はすごく好きだ。
手に汗握り、抱腹絶倒し、不意に泣かされ、きゅんきゅんしたいなら、是非読むことをお薦めする。