8.ハンカチを巡る攻防(2)

「あっ、いたいた、ラウル!」


 背後から軽やかに声を掛けられたのは、ラウルが、愛馬の餌やりを済ませたちょうどそのときであった。


 崇高にして近寄りがたい「蒼月の聖騎士」に、こうも気安く呼びかける人物なんて、そうはいない。

 振り返ってみれば、そこにいたのは案の定、第三王子コンラートであった。


「聞いたよ、ラウル。この色男。君もついに、令嬢に迫ることを覚えたそうじゃない」


 表情豊かな末っ子王子は、満面の笑みを浮かべながら近寄ってくる。

 ただし、厩舎きゅうしゃから漂う臭いには閉口したのか、金色の眉毛をひそめてみせた。


「ああ、臭い。馬の世話なんて小姓にさせればいいのに。どうして君って登城するたびに、聖堂とか馬小屋とか、しみったれた場所ばかりにいるわけ?」

「……その二つには、口やかましい人間が近付きにくいからだ」

「えっ? あ、そうかぁ。たしかに、図書室や庭園なんかだと、君はすぐ口やかましい令嬢たちに囲まれちゃうもんね。こういう臭い場所に避難しているわけか。納得納得」


 ラウルの言う「口やかましい」人物の中には、もちろん第三王子も含まれているのだが、コンラートは無視することにしたらしい。


 林檎りんごが入った籠を蹴飛ばす勢いでラウルに近付き、「それで」と迫った。


「どうだったんだい、マイスナー家の舞踏会で、『ラーベ』の捕縛もそっちのけで君が迫ったというご令嬢は。グッと来た? 押し倒したくなった? さらおうとしたんだって?」


 怒濤の質問攻めのうち、どれから否定すべきかを悩み、ラウルは溜め息を落とした。


「……捕縛をそっちのけにしたわけでは」

「責めてるわけじゃない。仕方ないよ、『烏』は君が到着する前に来ちゃったんだから。羽を使って攪乱かくらんするなんてね。僕の指示ミスだ」


 一昨夜舞踏会を開いた三つの家のうち、烏の羽が置かれたヴァイゲル家を警護するよう指示したのは、他ならぬコンラートだった。

 ラウルは命令通りにヴァイゲル家の警備を指揮し、十分な態勢が敷かれたことを確認したうえで、自主的に、ほか二つの家の見回りに向かったのだ。


 彼が、アリア・フォン・エルスター男爵令嬢と出会ったのは、その舞踏会でのことだった。

 可憐な「鈴蘭」に一目惚れし、彼女の手を取って強引に手袋を引き抜き、「君を連れ去る」と宣言した――そう見られても仕方ない行為を働いたのも。


「まあ、義賊気取りの泥棒男も気になりはするけど、正直、今この瞬間は、君の恋の行方のほうが重大事だ。ねえ、詳しく教えてよ。どこが気に入ったの? 顔? 体?」

「彼女は、そういうのではない」


 ラウルは否定しながら、わずかに目を伏せた。


 泥棒男。

 世間の「烏」に対する認識はそうだ。


 まさかガラスを破って、王家のお膝元で堂々と盗みを働く人物が、可憐な少女だとは思いもしない。

 この国で女とは――特に貴族令嬢とは、無力で無垢で、男の腕に守られているべき存在だからだ。

 ラウルとて、実際に対峙しなければ、とても彼女が「烏」だとは信じられなかったことだろう。


 いや、厳密に言えば、ラウルも彼女が主犯であるとまでは、信じ切れずにいる。

 たとえば、彼女は「烏」に作戦を授けられ、貴族側のスパイとして動いているだけではないのか。

 たとえば、誰かに頼まれて。あるいは、脅されて。


(いや、あの頭の回転の速さを見るに、彼女が主犯なのだろうが……信じがたい)


 それほどまでに、ドレスをまとった彼女は繊細で、儚げだった。

 まっすぐにこちらを見つめる瞳は金色に潤み、触れた手は驚くほど細かった。


 そう。

 これまで、しなだれかかってくる女性たちを「メス型の生き物」としか認識してこなかったラウルは、意志を持ってこちらに向き合うアリアを前に、初めて女性というものを意識したのである。


 まったく無自覚ではあったが、これまで淡々と物事を受け止めてきたラウルにとって、それは初めての、意識の乱れであった。


「そういうのじゃないなら、なんなの? まさか、彼女が『烏』だとか言わないよね。ならさっさと、捕らえなきゃだし」

「…………」


 無邪気にコンラートに問われ、ラウルは咄嗟に言葉を選び損ねた。


 その通りだ。

 彼女が「烏」であるなら、即座に男爵家に逮捕状を手配して、彼女を捕らえねばならない。


 だが――彼女が主犯でなければいいと願う自分が、どこかにいた。


(それに、限りなく黒に近いとはいえ、証拠はない)


 言い訳をするように、内心でそう呟く。


 現行犯でない場合、容疑者のことは尋問せねばならない。

 処罰以上に、この尋問が苛烈だというのは、密かに知られるところだ。


 容疑者が否定すればするほど、自白を引き出そうとして尋問は激しくなる。

 女に飢えた尋問官の中には、わざと容疑者に罪を否認させ、無理矢理体を暴く、といった卑劣な者もおり、ラウルは彼女をそうした取り調べに送り込むのは気が進まなかった。


 あの繊細な美貌の少女を取り調べさせるなんて、飢えた獣の檻に肉を放り込むようなものだ。


(捕まえるならば、現行犯で。即座に牢獄か、修道院に送り込めるようでなければ)


 殺傷がなく盗難のみ、そして女性囚ならば、数年の禁固刑で済まされる場合もある。

 あれこれと思考を巡らせるラウルをどう受け止めたのか、コンラートが「おいおい」と両手を広げた。


「冗談だよ。あんな可憐な子が、まさか『烏』なわけがないでしょ? あの子――アリア・フォン・エルスターだっけ。彼女って、密かに有名なんだよ。今時珍しい、貞淑な子だって」


 思わずラウルが視線を上げると、コンラートは我が意を得たりとばかりに頷いた。


王妃陛下ははうえに挨拶を寄越すデビュタントのときから、話題だったんだ。同時期にデビューした令嬢たちの中で、一番可愛くて、なのに一番善良で奥ゆかしいって。それで、瞬く間に『鈴蘭の君』のあだ名がついた」


 ああいう子が好みって男は、多いだろうね。

 そう付け足したコンラートのことを、ラウルは無言で見つめる。


「実際、母上も結構気に入って、僕の婚約者候補おともだちにしようかとも考えたみたいだ。最終的には家格が低すぎて無しになったけど、愛妾程度なら全然オーケー」


 コンラートはにやにやと笑い、従兄の肩を小突いた。


「というわけで、君の見る目は確かだ、ラウル。がんがん行っちゃいなよ」

「……だから、そういうことでは」


 溜め息をつき、王子が蹴飛ばした拍子に転がり落ちた林檎を拾う。

 だが、手についた泥を落とすより早く、彼はわずかに目を見開いた。


「あの……」


 なぜならば、貴族令嬢ならまず寄りつかないはずの厩舎に、とある人物がやって来たからだ。


「殿下におかれては、お話し中に大変申し訳ございません」


 柔らかな亜麻色の髪に、潤んだ琥珀色の瞳。

 ほっそりと小柄な体を地味なドレスに包み、代わりとばかり、可憐な頬と唇を淡く色づかせた美少女。


 緊張を押し殺すように、きゅっと両の拳を胸前で握る、彼女こそは。


「そちらの……『蒼月の聖騎士』様に、少しばかり、お話をさせていただいてもよろしいでしょうか」


 噂の男爵令嬢、アリア・フォン・エルスターであった。





 ***






(さぁて)


 希代の美青年、ラウル・フォン・ヴェッセルスを前に、アリアはこっそりと深呼吸をした。


 まったく、明るい日差しの下で見ても、つくづく美しい男だ。

 肌は滑らかで、骨格に無駄はなく、瞳も、睫毛の一本一本さえ輝いている。

 それでいて脆弱さはなく、凜と佇んだ姿からは、人を圧倒する迫力が滲み出ているのである。


 きっと、本来なら百人くらいに小分けするべきだった「美」の要素を、精霊が途中で面倒になって、ひとまとめにぶち込んでできたのがこの男なのだろう。

 アリアはそう決めつけた。


 いざ戦いが始まる。

 全身に緊張が走って、気を抜くと武者震いしてしまいそうだが、出鼻を掻くことには成功したようだ。

 常に無表情のはずの聖騎士、その水色の瞳に、わずかな驚きが滲んでいる。

 まさか、アリアのほうからやって来るとは思わなかった様子だ。


(ずっと逃げ回るだろうともで思った? んなわけないでしょ)


 王子が「ごゆっくりー」と去っていくのを礼儀正しく見送りつつ、アリアは内心でふんと強気な笑みを浮かべる。

 だが外面はあくまで、「緊張に体を強ばらせる初心な少女」を維持し、ゆっくりと顔を上げた。


「あの……、突然、申し訳ございません」


 意識的に潤んだ瞳を向ければ、ラウルは無言でこちらを見下ろしてくる。


(おっと、学習。ここで彼を見つめ返しちゃいけない)


 アリアはごく自然に目を伏せ、きゅ、と胸の前で両手を握り直した。


「舞踏会の夜から、ずっとあなた様のことが、忘れられなくて……」


 これはほとんど事実だ。

 昨日は刺繍をしながら、ずっとラウルのことを考えていた。

 彼はどんな思考回路の持ち主で、なにを大切にする男で、いつ自分を捕まえにくるだろうかと。


 何度も舞踏会の夜を反芻し、彼の言動を繋ぎ合わせて、アリアは仮説を得た。


 ラウル・フォン・ヴェッセルスは、骨の髄まで「騎士」。

 「男の中の男」だ。

 自身の感情というものを持たないから、禁欲的で、社会規範になにより忠実になる。

 そしてその規範は、女を傷付けることをけっして許さず――同時に、女を軽んじさせる。


 きっと彼は、アリアを殺すことはしないだろう。

 捕縛を強行することも、苛烈な尋問に掛けることも。


 同時に、アリアが「怪盗」だなんて大それた罪に手を染めているとも、信じきれていないはずだ。

 だって、女とは男に従うべき存在だから。

 常に腕に守られているべき、無力な生き物だから。


 ならばアリアは、そこを突く。


「わたくし……すっかり、あなた様に、心を奪われてしまったのです」


 とろん、とした口調を心がけて、アリアは歌うように告げた。

 瞳を潤ませ、頬を染め。

 ふらりと、光に惹かれる蛾を意識しながら、ラウルを見上げる。


 再び目が合うと、先日のバルバラたちを手本に、熱い溜め息を漏らした。


(どうよ! 刮目かつもくせよ、このあたしが半日かけて習得した「うっとり顔」を!)


 負けず嫌いのアリアは、擬態できない表情がこの世に存在したことが悔しくてならず、昨日一日をかけて、渾身の「うっとり顔」を体得したのである。


 勝利のためになら、羞恥心だって切り捨てて恍惚顔を練習する女。

 それが、アリア・フォン・エルスターである。


「はしたないと、お思いでしょう? あの夜、どこからともなく流れてきた怪しげな噂を信じ、手の甲まで切った、浅ましい女だと」

(はい、ここで小刻みの身震いを追加)


 脳内の演技監督が、冷静に指示を出す。


 そう、アリアは、いけしゃあしゃあと「怪しいだろうけど犯人じゃありません」路線で押し通すつもりだった。

 だって、彼は現行犯でしか捕縛しないつもりのようだし、アリアが主犯というのも信じきれていない。

 ならばそれに乗るしかないではないか。


 強調するのだ。

 アリア・フォン・エルスターは、しょせん無力な小娘なのだと。

 あくまで評判通りの、善良で、従順で、ほかの女と同様、あっさり聖騎士の魅力にやられてしまう少女でしかないのだと。


「あなた様のことが忘れられず……ハンカチに、刺繍をいたしました」

 仕上げに、アリアは丁寧に折りたたんだハンカチを取り出し、そっとラウルに差し出した。

「どうか……受け取っていただけませんか?」

「…………」


 ラウルがわずかに、その場を退く。

 こちらを見下ろす長身からは、冷ややかな気配が感じられた。


 それは、敵意というより、無関心だ。

 目の前の女が、凡愚な存在でしかなかったことへの失望。

 そして、これ以上の関心を割く必要もないという、冷淡な割り切り。


(いよおおし!)


 ほらね、とアリアはほくそ笑みそうになった。

 しょせん、彼が自分を怪しんだ根拠は、「しなだれかかってこなかった女」という一点しかなかったのだ。

 であれば、それを叩き潰し、擦り寄ってやればいい。


「どうか……心を込めて刺したのです」

「…………」


 なれなれしさを意識して身を寄せると、ラウルはわずかな動きでそれを躱した。


「いいや」


 美しい、けれど無感動な声でそう告げる。


「結構だ」

「そんな……」


 対するアリアは、悲しげに眉を寄せてみせた。


 正直、この反応も想定内だ。

 なにしろ彼は、女性の好意を受け付けないことで有名だから。


 しかし、彼がこちらの好意をねのけるのは勝手だが、アリアのとある目的を叶えるためには、このハンカチはどうしても、受け取ってもらわねばならなかった。


「騎士はけっして女性に恥を掻かせぬもの。わたくしのことがお嫌いでも……どうか、受け取ることだけはしていただけませんか」


 目を潤ませてみせながら、アリアは自身の演技に五百億点の評価を与えた。

 百人男がいたら、百二十人くらいが健気さに涙しそうな口調だ。


「いいや。受け取ったなら、返さねばならない」


 だが、この程度の媚びには慣れっこであるらしいラウルは、取り付く島もなかった。


「それを求められるのは苦痛だ」

(言うじゃん)


 研いだ刃物のように切れ味の鋭い言葉に、むしろアリアは感心した。


 ほかの人間が言ったなら、なんと傲慢なと呆れるところだが、この突き抜けた美貌の持ち主が言うと、「それはそうですよね」という気がしてしまうのがすごい。


 おそらく彼は、「受け取るだけでいいから」と、幾人もの女性から強引なアプローチを食らってきたのだろう。

 そして、一度受け取ってしまえば、女性たちはやはり、期待してしまう。

 勝手に押し付けて、勝手に待ち望んで、けれど彼がなにも返してこないとなると、怒る。あるいは、泣き出したかもしれない。

 そうしたやり取りに、彼は疲弊しきっているのだろう。


「贈り物は誰からも受け取らないことにしている」


 かっちりと、相手との間に壁を置くような話し方からは、女性たちを撥ねのけるためというより、自身を守るためのような、警戒の響きが感じられた。


「……なるほど」


 思わずアリアは、呟いていた。


「あなた様はなにかを押し付けられると、引き換えになにかを奪われるような気持ちになるのですね」


 なんとなく、この塑像そぞうのような青年の、人間らしい一面に触れたようで、興味深かったのだ。


「……なにを」

「そうなのでしょう? 求めないでくれ。こちらが望んでもいないものと引き換えに、私からなにかを奪おうとしないでくれ、と、身を固くしていらっしゃる」


 息を呑んだラウルに構わず、アリアは続けた。

 少しだけ――そう、ほんの少しだけ、彼の気持ちがわかる気がしたからだ。


(一方的な好意を押し付けられるのは、苦痛だもんね)


 孤児院で暮らしていたとき、小柄で、身なりを整えれば見目のよいアリアに、援助の手を差し伸べる人間は、いくらかあった。


 かわいそうに。

 愛らしいことだ。

 助けてあげようか。


 彼ら――えてして、己の優位を確信してやまない大人の男は、アリアを見るとそう言った。

 大きくくくれば、それは好意だ。

 貧しく哀れな少女を、助けてやりたいという類の。


 けれどそれを受け入れれば、アリアは彼らの支配下に置かれる。

 最初求められる見返りは、きっと笑顔とか、お礼の言葉といった、ささやかな物だろう。

 けれどすぐに期待は膨れ上がり、時間の融通や家事、最後には、「ご奉仕」まで求められることになる。


 そうやって、なし崩しに他人に従わせられることになった仲間を、アリアは何人も見てきた。

 だから、誰も信じなかった。


 疑って、噛みついて、撥ねのけて。

 盗んで、だまして、このままでは誰かに殺されるな、と冷ややかに自嘲していた頃、アリアは彼女、、に出会ったのだ。


「……本当に大切なものは、奪われないのですよ」


 胸に下げた金貨をそっと握って、アリアは静かに笑みを浮かべた。


「外にぶら下げた財は、どれだけ貯め込んでも、盗まれてしまうかもしれない。けれど、頭に入れた教養と、心に込めた愛は、けっして誰にも奪われない」

「…………」


 目の前の男は、驚いたように目を見開いていた。

 アイスブルーの瞳の中で、銀色の虹彩こうさいが美しいを描いていることに今頃気付く。

 まるで宝石のようだった。


「本当に大切なものは必ず残るのだから、むしり取られてしまう程度のものは、奪わせてしまってよいのではありませんか? どうせまた、貯め直すことのできる財なのですから」


 耳の奥で、優しい声が蘇る。

 優しく、厳しく、しわがれた声。


(ああ、だめ)


 こんなときに、いったいなにを呑気に回想しているのか。

 金貨を握った拳に軽く力を入れ、アリアはにこりと笑みを深めた。


「とはいえ、見返りを求められるのを、恐れる気持ちはわかります。なので、こうしましょう」


 すいと腕を伸ばし、ラウルの指先に触れる。

 たじろいだ相手に構わず、ハンカチで、ついていた泥汚れを拭い取った。


「なにを……」

「泥は時間がたつとこびりついてしまうので、なるべく早く落としたほうがよいですわ」


 そう言って、ひらりと布を掲げる。


「これは、捨てておきます。秘蔵したりはしませんので、ご安心を」

「…………!」


 上質な絹、それも刺繍まで施したハンカチを、雑巾のように扱う姿に、意表を突かれたらしい。

 まじまじとこちらを見つめるラウルを、アリアは悪戯いたずらっぽく見上げた。


「これだけ汚れた品を、さすがにわたくしも贈ることはできません。つまり、あなた様はわたくしからなにも受け取らなかった。だから、なにも返さなくていいのです」


 ラウルが絶句している。


 それはそうだろう。

 貴族令嬢が相手にハンカチを送るのは、使ってほしいからではなく、胸元に挿して周囲に見せびらかしてほしいからだ。

 それをこうして、自ら汚してしまうのは、あまりにも無意味なことに違いない。


 けれどあえて、アリアは微笑んで告げてみせた。


「少しでも、お役に立ててよかったです」


 と。


「君は……」

「お時間をありがとうございました。では、ごきげんよう」


 咄嗟に口を開いたラウルを遮り、そのまま、くるりと踵を返す。

 ここでは一切の未練を見せないのが肝要だ。


 楚々とした足取りで、ただ前を見つめて歩く。


 三、二、一――。


「待ちなさい」


 背後から掛かった声に、アリアは密かに息を吐き出した。

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