ヤツデ・カエデの漫才 

オダ 暁

コロナ編

とある小ホール

客席は一つ置きに空けて座られている

全員マスク姿

壇上裾から元気よく中年の女が二人飛び出してくる

マスクはしてないが客席との間に裾の広い時代遅れのパンタロン姿

相方カエデは小柄で黒ずくめのスーツ姿


ヤツデ「皆さ~ん、こんにちは。お久しぶり、ヤツデで~す」


カエデ「カエデで~す。皆の衆、息災ですかー?」


ヤツデ、カエデの方をじろっと睨みつけて言う。

「息災?あんた、いつからそんな洒落た物言いするようになった。似合わないよ」


カエデ「カラス・・いやカエデの勝手でしょ、何言おうと。この間テレビ見てたらドラマで喋ってたから真似しただけ」


ヤツデ「ま、発言は自由だけど聞きなれてなかったがらごめん。それにしても今日の恰好、やけに暗いなあ」


カエデ「そりゃそうでしょ、病院にお見舞い行った帰りだから。あんたみたいにど派手な格好なんか出来ないよ」


ヤツデ「・・・にしても、それじゃ法事に行ってきたみたい。もうちょっと明るめの服選んだ方が良かったんじゃないか?」


カエデ「あー知らなかった。お見舞いは黒い服かと思ってた・・・鉢植えは縁起が悪いとかマナー本には書いてたな。でも服は華美にならない常識的なものって書いてたよ」


ヤツデ、大げさに両手を上に振りながらため息をつく

「正直言って、その恰好はお通夜か葬式だぜ」


カエデ「マジか?お見舞い行ったことなかったから知らなかった」


ヤツデ「辛気臭いくなるよ、それで病人はどうして入院してるの?」


カエデ「今はやりのコロナになったらしいから」


ヤツデ「コロナ!面会謝絶のはずだけど」


カエデ「ああ、受付に行ったけど会えなかった。せっかく百合の花買ったのに」


ヤツデ「百合?そんな匂いのキツい花、なぜ選ぶ?」


カエデ「ぜんぜん匂いなんかしないよ。清楚で可憐な花でしょ結婚式にも良くあるし・・そこまでこだわらないとダメなのかなあ」


ヤツデ「そりゃそうでしょ、病人は匂いが敏感だからもう少し配慮しなきゃ。それでその花どうした?」


カエデ「・・面会謝絶で会えなかったから昼カラ遊びにいってお店の人にあげてきた」


ヤツデ「昼カラ!今のご時世、外した方がいい場所だな。まだまだコロナ収束してないよ。あんたはワクチン打ったのかい?」


カエデ「もう打ったから病院行ったんだ、ヤツデは?」


ヤツデ「とうに打ったわ」


カエデ「そりゃそうだ、年の多い順だった。とっくに打ってるわな」


ヤツデ「二か月前に打ったわ。そえれはそうと百合の匂いが分からないって、まさかコロナじゃ?」


カエデ「花粉症で今薬飲んでる、もとから蓄膿気味だし。熱もないよ」


ヤツデ「去年もこの時期、あんた花粉症で目真っ赤で鼻たらしてたな」


カエデ「あんたは花粉症はないの?」


ヤツデ「ないない、花粉が飛ぼうが鼻毛が飛ぼうが平気」


カエデ「鼻毛?」


ヤツデ「ああ、このあいだ鼻毛抜いてるときに間違えていっぱい吸い込んだことあって・・思い切り鼻をフンしたら全部飛び出して来たわ、ブハーって勢いよく。絶景だった」


カエデ「ええ、キモ~!」


ヤツデ「だから鼻吹き出し力があるから大丈夫」


カエデ「・・特技だなあ、うらやましい。わたしは全部吸い込んでしまう」


ヤツデ「掃除機みたいだな」


カエデ、キッとやつでを睨みつけて声を荒げる


「失礼な、勘弁しないよ」


ヤツデ、うろたえながら両手を合わせて


「失言、失言。ごめんなさい」


カエデ「まあ、いいわ・・掃除機といったら、このあいだ吸いすぎて壊れてしまった」


ヤツデ「ええ、じゃあ今はほうき使ってるのかい?」


カエデ「最新式ルンバ買いに秋葉原行った」


ヤツデ「アキバ?メイド喫茶のある・・」


カエデ「だから、ついでにメイド喫茶に雇ってもらおうと思って、店の様子見に行った」


ヤツデ「それで、まさか雇ってもらえたのかい?」


カエデ「いやあ、メイド服着て御主人様~言うだけだから簡単。自分にもできると思ったけれど年齢制限があるみたいで断られた」


ヤツデ「そりゃそうだろ、せめて20代じゃなかったら無理だわ。あんた幾つになった?」


カエデ「人間年齢はとっくに忘れた、わたしは永遠に妖精なの。それよりさルンバって使いにくいわ、清水の舞台から飛び降りたつもりで奮発したのに」


ヤツデ「一回で払えたのかい?」


カエデ「まさか・・クレカ持ってたからリボ払いした」


ヤツデ「リボ払い!消費者金融より利息高いって聞くよ、大丈夫か・・」


カエデ「説明聞いたけど、よく分からなかったわ。そんなに危険なの?」


ヤツデ「・・と、聞いたことあるけど。クレカだって限度額があるよ」


カエデ「それは知ってる」


ヤツデ「・・で、使い心地はどうなんだい?」


カエデ「いや、あんまり良くない。ものが床に多すぎて前に進んで行かない」


ヤツデ「あー前に遊びにオタクの家行ったとき、玄関から廊下、部屋中モノがあふれてたな、リビングたどり着くまでかき分けて障害物競走みたいだった。オタクの旦那、片づけしろとか怒らないんだな・・」


カエデ、両手を真上にあげて大きく×のマークを作る


「怒りまくってるわ、最近じゃ離婚まで言い出して・・険悪になってるから思い切って買ったのに使えない~」


ヤツデ「まずは掃除できるようにモノ捨てるか移動するのがいいぜ、うちの家なんか何もないからさっぱりしたものだ。思い切って断捨離した方がいいよ」


カエデ「あんた、もしかしてミニマリストかい?」


ヤツデ「・・というわけではないがな。でも知り合いの家がキレイにかたづいてるの見たら真似したくなってさ」


カエデ「うちは本と服がいっぱいですごい」


ヤツデ「そのわりに着たきり雀だなあ、あんた。読書家にも見えないし」


カエデ「失礼な!服は10代の頃のから取ってるし、本だって漫画が多いから捨てられない。暇つぶしにはもってこいだし」


ヤツデ「そんな若いころの服なんか早く捨てよ。どうせ肩パットのジャケットだろ・・流行遅れのギャルみたいな服はとっとと処分したら。あんた、わたしより若いいうても幾つになった?」


カエデ「だから妖精に年齢はないって言ったでしょ!もう何度も聞かないでよ」


ヤツデ「妖精・・妖怪の間違いじゃないのか」


カエデ「うっせえわ」


ヤツデ「ああ悪い悪い、喧嘩するのやめよう。人類、皆友だち」


カエデ「その通り。ミニマリストの知り合いがいるけど絶交した」


ヤツデ「はあ、どうして」


カエデ「うちのアパートに引っ越してきたけど最初はミニマリスト精神に共感してたけど、あること聞いてさっぱり幻滅した」


ヤツデ「何があったんだ?」


カエデ「いやあ以前はマンションに猫飼って暮らしていたらしいけどミニマリストに走ってからはモノ捨てることに懸命になって猫まで人に譲ったらしい・・ふつうペットまで手放すかい?うちのアパートでも飼っている人いっぱいいるのに」


ヤツデ「本当に大事なモノが見えなくなったんだね」


カエデ「だから付き合いやめた、そこの家いったらモノ少なくて片付いているけれど、どういったらいいのかなあ。暗くて居心地が悪くて、ぬくもりが無いというか・・お通夜会場みたいといえばわかるかな」


ヤツデ「だからといって、あんたの住まいは滅茶苦茶だ。せめて他人を通せるようにならなきゃ。うちの家でも人は通せるよ、もっとも誰も来ないけれど」


カエデ「恋人とか出来ないのかね?」


ヤツデ「最後に家に連れ込んだ男はわたしがトイレ行っている隙に逃げられた」


カエデ「・・よほど怖かったんだろうね。襲われる前に緊急退避できて良かったなあ」


ヤツデ「毒舌だな、それから連絡がなくなった。せっかく居酒屋でナンパできたのに」


カエデ「ナンパ?前は結婚相談所に通ってた記憶が」


ヤツデ「お金がかかるし結果もでないしでエンド、次にマッチングアプリやろうかと思ってスマホ買ってやり方人に聞いてやったのさ。で、良さそうな男だったから会ってみた。即、撃沈したけどな」


カエデ「即・・何故。まさか写真加工したり年齢偽ったりしたのか?」


ヤツデ「そんなことしてない。年齢も一緒くらいだしし、写真も加工の仕方知らない。ただ・・」


カエデ「ただ何だ?」


ヤツデ「10年前の一番映りのいい写真使った」


カエデ「10年前って言ったらまだ今よりだいぶ痩せてた頃じゃないか、あんたこの5年位で急激に太って老けたな」


ヤツデ「言わないで~傷口に塩塗る行為やめてくれ。30分もしないでドロンされた」


カエデ「30分も耐えとったか・・その男性」


ヤツデ「うっせえわ」


カエデ「わたしの真似して、うっせえわか?ほんと、そうボヤきたくなること多いな」


一呼吸置いて


「ハ~!」


カエデ、大きくため息をつく。


ヤツデ「ウクライナとロシアの戦争もまだ終わらないし、これからどうなるのかね?」


カエデ「コロナも変異株増えてるし・・不穏な世の中だ」


ヤツデ「婚活もダメだし、戦争もコロナも終息しないけど我々地球、腐らないでめげずに生きていこうぜ」


カエデ「急にスケールが壮大になったね」


ヤツデ「そりゃ前向きに進みたいから」


カエデ「さすがヤツデ!わが相棒」


ヤツデ「しぶとく頑張るのがわたしの生き方」


カエデ「それで・・ワクチン打った後大丈夫か?」


ヤツデ「何にも~ぜんぜん平気」


カエデ「わたしの方は注射した左腕が重ダル~、あんたは腕、タルみたいにブッといからな」


ヤツデ「ヤツデみたいにか?心も雄々しくいくぜ」


カエデ「あんた頼りにするから、これからも宜しく。旦那が妖怪より若い娘がいいとぬかしてキャバクラ通いして散財するからストレス全開。買い物して発散してるからモノが増える」


ヤツデ「今度、家の片づけしに行くよ」


カエデ「ありがと。うちは留守にする時置手紙して遊びに行くわ」


ヤツデ「なんて書く?」


カエデ「旦那、少しは片づけしてくれ。泥棒さん、足元に注意して掃除お願いします。招き猫の貯金箱ならあげますから」


ヤツデ、両手を空に伸ばし絶叫


「あかーん、オーマイゴッド!!」


ヤツデ、カエデの両者壇の中央に真っすぐに起立する。


深々と頭を下げながら


「皆様、このご時世にお越しいただきまして誠にありがとうございます。わたしら年は食ってても未熟者、ますますのご鞭撻御引き立てよろしゅうお願いします」


客たちの盛大な拍手を受けつつ、両者笑顔で手を振りながら退場


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ヤツデ・カエデの漫才  オダ 暁 @odaakatuki

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