創作合宿『空』

「今日は何が降ってくると思う?」

「昨日がUFOだったからね、なかなか想像がつかない」


一昨日おとといは小魚、あれはニボシ?」

「うん。どういう法則なんだろね?」


「さあ?」

「もうすぐだよ」


「賭けない?」

「いいよ」


「俺が当てたら結婚して」

「いいよ」


 じゃあ、とお互いにコーヒーを一口。

 タクヤは俺を真っ直ぐ見てくる。

 目は逸らさない。


「僕が当てたら僕と結婚して」

「……意味無いじゃん」


「僕達に意味なんてあるの?」

「……あるけど無い」


「難しいコト言うね」

「……皿」


「え?」

「降ってくる物、皿みたいな、取り皿とか茶碗とか」


 苦笑いされてる。

 なんか恥ずかしくなったし、言うのが急過ぎたかもだし、俺も『皿』って何だよ、危ねえよって思う。そりゃそうなるか。


「皿か、じゃあ僕はオタマ」

「……え?」


「お味噌汁とかシチューとかすくうオタマ」

「……オタマ」


「そんなに変? 皿よりは良くない? ああ、サイ箸とかポン酢とかの方が先かな? 美味しく食べる的な……」

「……オタマ」


 タクヤもフツッと黙った。

 照れ隠しに言った皿だけど、きっと頭の隅っこのどこかで繋がってたんだ。


 初めて空から変な物が降ってきたのは先週だった。

 ヤリが降ってきたんだ。『雨が降ろうが槍が降ろうが』なんて言ってる場合じゃなかった。世界中で半分ぐらいの人間が死んだ。

 次の日には火のたま、そしてその火を消すように雨が降った。全世界同時に降る雨なんてアホらしい、バカでしょ。コーヒーを飲み干して脚を組み直す。


 こんな状況になって一番会いたかった、側に居たいと心から思わせたタクヤもコーヒーを飲み終わった。

 最後の一杯を二人で分けたんだ、もう買い物が出来る店も無い。


 そうか、そうだな。

 ワリバシやフォークやスプーン、レンゲなんかも降った。

 オタマでもサイ箸でもポン酢でも全然おかしくない。

 ……皿でも、おかしくない。


「美味しく……?」

「そうだったら、どうする?」


「結婚しよう、今すぐに」

「付き合ってもいないのに?」


「じゃあ俺と付き合って」

「いいよ」


「急げ」

「急いでるよ」


 同時に立ち上がった俺達、ゴツッとタクヤが胸に飛び込んできた。窓の外には昨日降ってきて突き刺さったままのUFO、中からクネクネした半透明の生き物が出てきてマントみたいな物をバサッと羽織ってる。

 宇宙人、初めて見た。

 キスも、初めてしてる。

 

「……ねえ、これって僕がれるの? 挿れられるの?」

「……分かんない。どっちが良い?」


「とりあえず触ってみるとか?」

「うん」


「これだけでも充分嬉しい、幸せだけど」

「うん」


 庭から変な鳴き声が聞こえて、グチャグチャとかイヤな音も、うっすら漂う匂いも、これは……塩、コショウ、なんかの調味料だ。

 殺して焼いて味付けして美味しく食べる、そんなの地球でもやってる事じゃん。なんだ、同じか。


 降ってくる物はハズレたけど結婚だ、急げ。

 同性だからと遠慮し合ってる場合じゃなかった、急げ。

 もっと早く伝え合って、急げ。

 外に転がってる死体から食べるみたいだ、早く。

 俺達の番も来るだろ、早くしなきゃ。


 その前に、もうタクヤに唇も舌もくびも噛み切られそうだから、その前に。


「……病める時も、健やかなる時も」

「誓います」


「早いって」

「ねえ殺して殺すから」


「うん」

「うん」



  おわり。

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