第二百五十四話 創世剣術

 天に掲げられた腕に、即座に集まる4体の精霊種。全員が人間を依り代にした、最低最悪の集団。そして、現世界最強の集団でもある。


 「お前たち、そんなに人間は強かったか?どいつもこいつも体に傷を負っているが」


 「予想外ではあったな。けど、あんたが呼ばなければ倒せてた。あの2人のように死ぬことはねーのに」


 「ふっ。それもまた運命だ。弱者は死ぬのだ。それ以外何でもない」


 その弱者がお前に勝てば、お前は俺をなんと思うだろうか。偽りの神?逸脱者?結局は、歯ぎしりして死ぬだろうから、何と思われようとも自由だけど。


 集まった5体の精霊種。目の前から消えた安堵感からか、それぞれの神傑剣士が倒れているのを遠くから確認する。死闘を繰り広げたとは、今の仲間たちのことだろうな。よく戦ったものだ。


 取り敢えず今は


 「お前たち、俺の手足となれ。そして、やつを、この世界を滅ぼすのだ」


 「結局、こうなるのか」


 どいつもこいつも、自分の力ではどうしようもなかった。だから頼るのは、力のある自分の心酔する者。右を見ても左を見ても、答えはいつだってそうだった。


 この未来が見えなかったとは言わない。けど、まさか精霊種までも、全ての力を融合させて強化するとは、流石に気持ち悪くて想像もしなかった。


 目の前に立つ、見た目は何も変わらない唯一の精霊種となったドグル。ことが癪に障ったのだろう。もう、これ以外の道は用意出来なかったらしい。


 そんな自分1人で解決出来ない相手が、融合した時点で勝ちはないことを、俺は教えるのが大好きだ。


 「さぁ、殺し合いを――」


 「知ってるか?」


 「なっ!?」


 「この世界には、最強だって謳われる、本物の最強が存在するんだってことを。幾つもある最強。単なる力、知恵、技巧、それは様々な分類がある。その中で1番である、最強な最強はなんだと思う?」


 体は動かない。動かないように、カグヤが背中に立って左太ももに刀を刺して動きを止めているから。融合の瞬間が、最大の隙となったことで、音速を超えるのにソニックブームすら出さないカグヤの速さが、拘束を可能にした。


 「答えれないか。答えは、単なる力だ。どれだけ策を練っても、対抗しようと逃げても、最強の力には勝てないんだよ。だから、それを知れたのは、死ぬ前に少しだけ、嬉しいことなんじゃないか?」


 「……ふっ……ふはははは!それはどうだろうか!こんなもの、拘束と呼ぶには生温いわぁ!!!」


 莫大な気派だ。これまで感じたことのない、世界を支配すると言われるほどの気派を、全力で出してみせる。それはもう尋常じゃなくて、周囲の住宅が吹き飛ぶのは当たり前、地面すらも砕けて砕けて、後ろにいるカグヤは強烈な圧に屈して、後方へ吹き飛ばされる。


 「甘い。実に甘いなぁ!あれだけで俺を殺せるとでも思っていたのか?創世とはいえ、青二才なのは変わらないらしいじゃねーか!」


 「そうか?甘くても、青二才でも、それはただお前が俺に思う1つの私感でしかない」


 「だとしても!お前の底はもう見えている!勝ちは揺るがない!」


 この世界には、慢心は敗北というジンクスがある。それは精霊種だとしても変わらない。この世界は剣技が全てだ。だから剣技の頂点である者が神ということ。


 「それはお前が、俺の隠してる技を知らないだけだろ?」


 「いいや、お前にこれ以上はない。それはこの目で知っている」


 「ああ。そうだな。でもそれは、お前よりも弱い相手にしか有効じゃないだろ?悪いけど俺、お前よりも強いから」


 「あり得ん。お前は全力で俺の半分の力を凌いでいた。そんな虚勢は今更きかん!」


 「だってその方が、お前は油断をしてくれるだろ?」


 「……何?」


 「レベリングオーバーという固有能力を使わず、蓋世心技を使う俺は、本気じゃないとお前と戦えなくてな。仕方なく全力を出してたんだ。レベル6の剣士としてな」


 何もおかしくはない。ただ普通の事を言っているだけだ。しかし、それなのにドグルの顔は血色悪くなる。死の近い意味を理解する時は、意外と恐怖に包まれるものだ。


 「蓋世心技を使う剣士を、レベル6として称し、別名蓋世剣士と呼ぶこともある。そしてその上、我流剣術を使う者は我流剣術士として呼ばれる。だとしたら、この世界を創世すると言われた、創世剣術士は、どんな剣技を披露すると思う?」


 「……な、何を言っている」


 「血色悪ー。もっと豪胆に、肝据わらせて、高飛車に来いよな」


 答えはもう出ている。ドグルの頭の中でも、その答えは否定しながらも、確立していた。


 「まぁ、いいや。正解は――創世剣術そうせいけんじゅつって言われる、この世界をクルッとひっくり返すほどの力を披露することになる、でした」


 たった2つしかない、有数であり最強の剣技。それらに捕まれば最後、死ぬまで弄ばれることになる。使えるのはカグヤもだが、流石に2人相手に使う余裕もなく、今は、奥の住宅にくずおれた瓦礫の下に寝ている。


 「……まさか……だがしかし!それは、刀を抜く前に阻止すればいいことぉ!」


 途轍もない鬼の形相で、俺のファンかと思えるほど高速で近づく。剣技もなしに、慌てて動揺してる姿は、見ていて気分がいい。


 「創世剣術そうせいけんじゅつ聖域シェレア

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