第二百五十三話 本気

 「ほう。先にフライドが死ぬか」


 同時にルミウの気配も……。


 未だお遊び程度に刀を振り続ける俺の耳に、入ってきたのはルミウとフライドという精霊種の戦闘結果だ。お互いに満身創痍だったのか、結果は感じ取れるように相討ち。


 まさか、ルミウが人間を超越するとは思ってなかった。限界を超えた力。元からそのつもりだったから、ノラの能力を受けずに戦闘をしたのだが、結果1人で精霊種を屠るとは。


 見事だな。


 「ドグル。こっちは大切な仲間を1人やられた。だからもうお遊びの時間は必要ない」


 精霊種を統べる頂点。名をドグルと言っていた。精霊種の最強、ドグルに向かって真正面から刀を構えずに、俺は言う。


 「俺は正直、カグヤと2人でお前たちを相手にしたかった。そうじゃないと死人は出るし、怪我人も、王都も木っ端微塵になるからな。でも無理だった。だから、もうここで終わりにしよう」


 「何を言うかと思えば。こっちだって大切な仲間はやられたし、お前たちを即座に殺したい。終わりにするなどと、自分たちのことを言うとは、最強として恥ずかしくないのかな?」


 「精霊種に仲間意識もクソもねーだろ。人間様の儚く美しい感情を、お前たちのような下劣で怯懦で、腐った屍に乗り移るしか脳のない最底辺のゴミが『こっちだって大切な仲間は』なんてほざいてんじゃねーよ」


 感情なんて一切持たない。それは精霊種だって同じだ。誰もが自分が良ければそれで良しの精神で、死なんてどうでも良いと思う。だから共感なんて出来ないし、仲間の死に嘆くこともない。


 そんなやつらに、死んだ英雄たちを冒涜されると心底ムカつく。


 「苦しいな。弱者の遠吠えにしか聞こえん」


 「だろうな。耳が悪いお前なら、それが当たり前なのかもしれねーな」


 「どうなのか、それは実力で示してやろうか?」


 「当然だ。虚飾大好きなお前が、俺を殺すなんて不可能だと思うけどな」


 結局は、どちらが強いかの勝負。そんな簡単で手っ取り早い方法ならば――俺が負けることはない。


 「我流剣術・終焉しゅうえん


 我流剣術は、初めて戦う相手ならば、当然初めて知る剣技である。故に、一瞬にして詰め寄られると、分析に時間がかかり、それだけ刀を振る速さが遅くなる。


 下から振り上げられる刀。次を予測して、刀ではなく右足で往なすと、頂点に達した刀が今度は斜め左へと向けられ、俺の肩を襲う。それを予測していたから、既に刀を構えて防御態勢をとる。


 すると次の瞬間、構えていた刀を、ドグルの刀は貫通した。目では確実に、通り過ぎる刀は見ていたのに、それでも霧の中に消えていくように、幻を見るように貫通した。


 何をされたのか、よりも、何をするべきかを考える俺。左肩は捨てるとして、出来るだけ衝撃を緩和するために、そこへ気派を送り込む。ドンッと衝撃が肩を襲うが、それは凌ぐには十分だった。


 粉塵が舞い、目の前にはドグルが。


 「止めるか」


 「遅いからな。もう少し速ければ、肩は斬れただろうけど」


 とはいえギリギリではあった。人ならざる身体能力を有していなければ、今頃左腕を全て失うことになっていたはず。


 「命拾いしたな」


 「命なんて、半分あって半分ねーようなもんだし、んな言葉俺には似合わねーよ」


 若干の油断を逃さず、腹部に強烈な蹴りを入れて俺は距離をとる。思ったよりも弱かった我流剣術に、慢心しそうになるが、性格上、既に戦闘を終えたルミウのことを思うと絶対にしないと固く誓う。


 と同時に。


 「……フィティーもか」


 「ふむ。人間に敗北するなど、精霊種の汚点だな。今や残された数は……5か。これではお前を相手するのも面倒になる」


 フィティーの気配までもが消えていく。感じ取れないほど極小になって。その代わりに、精霊種の数も減っている。5体とは、よくもまぁ、命を代償に殺そうと思ったものだ。


 「ジジイ、満身創痍じゃないのは、俺とお前だけだ。他は精霊種だって、俺たち人間様だって、疲弊してしまっている」


 お互いの陣営が、俺とドグルを除けば、大差ないほど傷つき、死を前にしている。ルミウとフィティーという極大戦力が消えたとしても、残されたレベル7の剣士たちも善戦している。ボロボロもボロボロだが。


 「だから、お互いにこれで勝った方が、実質勝ちになるな。どうする?勝負を続けるか?」


 これまで何度背負っただろう。最強と言う名の重りを、幾重にも重なる歴史の中で。歴代最高と言われ、敗北しそうになった時のプレッシャーも超えて、今俺は居る。


 だから、敗北は絶対にない。これまでずっとそうだったから。


 「勝負は続けるさ。しかし、お前の求める正々堂々の勝負は好まない。絶対に勝つために、俺たちは1つになる」


 「そうか。なら、早くしてくれ。味方が死なないのなら、俺とお前の一騎討ちで終わらせようぜ」


 もう誰かが死ぬのは見たくない。聞きたくない。だから――。


 「5対1だな」


 「で?体が1つなら、何も変わんねーよ」


 ドグルは両手を天に掲げる。これが散った仲間を呼び出すものだと俺は察した。これから始まるのは、精霊種の融合だ。命の繋がりを介して、力を更に絶対へと近づける。


 精霊種にしか出来ない技。そして力を強化する時の、最大で最優の技。これを前に戦うのは心躍る。だって、なのだから。

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