第二百五十一話 けじめ

 確かに今、ルミウの気配が消えた気がした。私が対応するサントゥアル側じゃなくて、ナファナサムからだから、間違いはない。極致に達し、その結果気配までも消えた可能性もあるが、リュンヌとして最大、そして我流剣術を使える猛者となった今、限界は優に超えているはず。死の可能性が最も高い。


 私の他に戦う神傑剣士は、第2座、第4座、第6座。他は他国の入り混じった敵の相手をしている。私の知る者だって居る。2人で精霊種を相手とは、戦い始めて苦戦を強いられて、どれだけおかしなことなのかよく理解した。


 「あぁ?フライドやられたのか?」


 「どうだろうな。最悪でも、もう戦いは不可能なんじゃないか?生気が死を彷徨うそれだからな」


 「ククッ。あいつが最初に死ぬのかよ。俺で十分とか、大言壮語も笑えるぜ」


 戦闘中、2体の精霊種は余裕を見せて会話を。内容からして、簡単に整理するとルミウと相討ちということか。それならば十分な活躍だっただろう。戦って分かるが、こんなバケモノと相討ちとは、正直信じられない。


 しかし、命の限界を超えても、更に奥へと突き進んだ結果ならば、妥当とも言える。


 「ブニウ様、おそらくルミウが精霊種と相討ちになった可能性があります。やつらの話し内容からの、あくまで推測ですが」


 メンデ様とシウム様、そして私とブニウ様のコンビで相手をしている。全員がノラ様の固有能力により、レベル7の至高を超えた領域へと足を踏み入れてるため、戦えはしている。


 「そうですか」


 反応を見るに、気配には気づいてない。それほど余裕がないらしい。あれだけ存在感の強いルミウが消えても、察知出来ないとは、五感が研ぎ澄まされてる。


 「だとしたら、私たちも死ぬ覚悟で挑めということでしょう。ルミウが先を示したのなら、私たちもそれに乗り込むだけです。限界の超え方は、神傑剣士として誰もが指南されているため、問題ないかと」


 英断か。自分の命と交換に、相手の命を奪う。確率の話で、絶対ではないというのに、その覚悟を決めた曇りなき眼には、絶対があるように見えた。


 「死ぬのですか?」


 「でなければ、どちらにせよ死ぬのは時間の問題でしょう。メンデもシウムも、どちらも満身創痍ですし、勝つのなら、ここで相手より強くならなければいけないのですから」


 ごもっともだ。このまま戦いを続けても、疲弊するのは私たち。徒労に終わることになるだろう。そうしないためにも、相手の隙をついて乗り越えるしかない。相手より力が劣るならば、知略で勝てばいい。些細なことだ。絶対を知る者に残る、油断を狙うのだ。


 「きっとそれは、誰もが今、思ってることでしょう」


 神傑剣士は、死を恐れないことはない。けれど、この短期間で攻めに攻められ、死を前にした剣士として、今更恐怖はないらしい。イオナの狙いが何なのか、私は分かった気がした。


 「分かりました。では、私が超えましょう」


 「え?」


 「私は元はリベニアの王。その一国の王として、国民が反旗を翻したのならば、それを粛清するのは私の役目です。それに、私が更に上へ行くのならば、殺せる可能性は高まるかと。なので、ブニウ様はメンデ様、シウム様と協力して、もう片方の相手を任せます」


 「ですが」


 「大丈夫です。私は必ず、あいつを殺しますので」


 確約だ。私は限界を超えることで、敵を殺せると未来予知した。細かく言えば、そんな未来は見えていなくて、相手の隙が見えるだけのものだけど。


 それでも、この異能力を駆使することで、勝てると信じていた。


 「……そうですか」


 しばらくして、自分は不必要だと判断したブニウ様は、頷くと地面に目を落とした。その間も油断はない。


 「おーい!俺もあっちみてーに楽しみたいんだけど?いつになったら来てくれんだよ」


 名も知らぬ、ただ世界を支配するためにだけ生まれてきた屍もどきは、私たちに向けて催促する。しかし私たちは耳を傾けることはない。


 「死なないでくださいね。出会って間もない貴女が、ここで死ぬのはつらいものがありますから」


 「ええ。ブニウ様こそ」


 「では――」


 一瞬にして、その暗殺家としての片鱗を見せる。消えた後の気配は、とても辿りにくい。


 「んだよ。不思議だなぁ。俺にはお前だけでいいって判断か?それとも、死ぬためだけに時間稼ぎをしに残ったのか?」


 「どうだろうね。お前に勝つ手段は未だに闇の中にある。けれど、それでも勝てるとは思ってるかもね」


 「おかしなやつだ。思念体でも使うのか?」


 「そんな非現実的なことは、人間には出来ないよ」


 だけれど、超越は出来る。


 「だったら何をする?お前の瞳は、俺を殺すことに抵抗があるように見えるが?」


 「まぁ、少しね」


 ラーク・トーレム。かつて父の臣下として、私を認めてくれた存在。その見た目をされてしまえば、嫌でも思い出す。


 「でも、今のお前は、依り代を得ただけ。中身はゴミクズと一緒だよ。だから、もう抵抗はないかな」


 「そうらしいな。淀みが消えやがった」


 いっそ、粛清だ。王国に反旗を翻したということが、どういうことなのかを、屍となり言葉も発せない今、体に叩き込んでやろう。


 明るい未来は、もうリベニア王国に存在しない。きっと最後になるだろう王として、バカな臣下にけじめをつける。

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