第二百四十八話 誘い込み

 「邪魔は消えたか?」


 「いいや、目の前に2体も残ってる」


 「ケッ!言うねぇ」


 どうせ、こいつらも創世の天才たちしか頭にない。そんな奴らは、油断している最初が有効になる。初手から本気で、全てを出し切るつもりで、殺す。


 「そんくらいが、1番調子乗ってて殺しやすいけどなぁ!蓋世心技・虚!」


 私は、目の前に惑わされたことはない。人間の移動や、気派による操作以外で、私は屈したことがない。レベル6として、リュンヌの血を継ぐ者として、エアーバーストを持つ者として、私は絶対に。


 だから虚の、残像は無効だった。太刀筋が見える。目の前に振られる刀が、次どこに向かうのか。2つの刀が、同時に動いて情報伝達速度を超える。そして、刹那、先を捉えた刀は、蓋世心技をただ気派を込めた力だけで止めた。


 「蓋世心技・虚!!」


 すかさずエイルは横から、全く同じ技を繰り出す。


 「騒がしい!」


 それを無駄なく弾き返すと、エイルにニヤッと。


 「蓋世心技・紅!」


 振り上げられるように跳ね返されたおかげで、紅の型が完成する。それを狙ったエイルは、直立不動の精霊種に、脳天へと刀を振り下ろす。速い。それは音速を超えそうなほど目で追えない。


 「うおぉぉぉらぁぁ!!」


 斬る斬る斬る。連続で何度も斬る。それに負けじと、精霊種も対応するが、片手から両手に変わったのは、私が後ろから殺気を漏らして接近した瞬間だ。


 後ろに振り向くのだと察した私は、カウンターに備えて攻撃パターンを頭の中で組み替える。その先に、求められることを考えるリソースを。


 「蓋世心技・滅」


 右手に握った刀1本で、腕を伸ばして気派を大量に流し込む。その間も、特異体質のエイルの猛攻は止まらない。体力が無限に近いほどあるが故に、許された紅の連撃。いや、蓋世心技の連撃。


 「面倒だなぁ!」


 しかし精霊種は、一回転して、その全てを刀を横に薙ぎ払って消し去った。刀は弾かれ、滅による気派の衝突すらも相殺される。剣技ではない。己のポテンシャルだけで、全てをかき消して見せたのだ。


 「……マジかよ」


 エイルの当然の発言。知っていても、通用しないことの無力さは、戦闘で明るみになる。


 「マジなんだよぉ!分かるか?力の差は、俺とお前らじゃ、埋まらねぇ。埋まるのは創世を名乗るカグヤと、残された秘宝だけだ。お前らじゃ、俺には勝てねぇ」


 「だからなんだ?黙って死ねと?んなこと出来るかよ。俺たちはお前らを殺す。殺してこの世界に安寧を齎す。それで万事解決だ」


 「豪語しやがって。お姉さんは中々負けず嫌いらしいな。壊したくなる」


 「黙って殺せよ。俺は死んでも抵抗するぞ。それまで耐えれると良いけどな!」


 「はっはっはっは。お前、それは自分のことを考えてるだろ?そりゃそうだ。お前なら足掻きは出来る力は持ってるからな。でも、あっちの男たちはどうだ?」


 言ってエイルは振り向く。見ずとも、叫び声からノーベが吹き飛ばされたのは理解出来るのに、油断をした。


 「エイル!」


 「エイルか、いい名前だな」


 「――!」


 ほんの刹那、漆黒の刀が、エイルの体を斜めに斬りつけた。瞬きをした程度の視線逸しだったけど、それを見逃さなかった。最小の緩みが――死を招く。


 鮮血が吹き出す。刀を真っ赤に染めるそれは、エイルのもので間違いなかった。


 「っく……」


 「あれ?致命傷は逃れたのか?おいおいそれは流石にすげぇぞ」


 前から見れば、右肩から左脇腹までの距離を、鮮血が倣うように染めている。切り傷が出来て、痕も残ってる。でも、エイルは生きていた。呼吸は激しくも、傷は浅い。


 「……危ねぇ」


 どうやら誘い込んだ、というのが正解だろう。視線を逸らして敵を呼び、カウンターとしたかったとこを、思ったよりも速度に目が追いつかなかったのか。


 致命傷は避けたものの、傷は体を蝕む。


 「鍛錬がなかったら……死んでたかもな」


 イオナから教わった、瞬間移動のような速度の移動に、どう対応するかの手段。その解決策は、相手と鍔迫り合いをした際、気派を少量鋒で奪い、相手に向けて構えること。相手が動く瞬間、その鋒に溜まった気派も揺れることになり、簡単な先読みが出来る原理だ。


 しかし、それを実行してこの有り様。イオナの言うことは、途轍もなく至高の領域だ。


 「なるほどな。お姉さんたち、何か細工をしてるな?レベル6という力の域を超えてるからな、絶対な何かを施してるだろ。よく分からないが、仲間が苦戦してるのを見るに、間違いない」


 仲間を信じるから、吹き飛ばせても生きていることが不思議でならない様子。そりゃそうだ。普通なら死んでいてもおかしくないから。


 「お前、名前は?」


 「ルミウ・ワンだ」


 「お前があの、リュンヌの末裔か。なるほど。頷ける」


 「お前は?」


 「俺はフライドだ。精霊種として、この世界を統べる存在。お前たちの言う、神傑剣士を遥かに凌駕する存在だ」


 見た目はミカヅチなのに、どうもしっくりこない。それに神傑剣士を遥かに凌駕する存在なんて、そんなの百も承知だ。そんな存在なんて、もう何度も目にしてるのだから。


 「おい、私の名前も聞けよ」


 「そうだな。俺の刀で死なない幸運の持ち主ならば、聞こう」


 「教えねぇよ。バーカ」


 「ゴミが……煽られると、どうも短気な俺には耐えられない。まずはお前から殺す!」

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