第二百四十七話 依り代

 王都南で、激しい戦闘が始まった。それは耳でも目でも確認し、間違いない情報だった。イオナが言うに、攻めてくるならサントゥアルか、ナファナサムのどちらかだという、策は当たり、どちらからも進軍は始まっていた。


 「ではこれより、私たちは西、ナファナサムからの進軍に対応する」


 「いけんのか?」


 各場所に、神傑剣士はそれぞれ12ずつ。そのうちヒュースウィットのイオナを除く上位8名の剣士、そしてフィティーが精霊種に対応することで、接戦を繰り広げるつもりだ。


 それに対して少し心配気味のエイル。イオナの死の特訓から、おとなしさが増しているが、それでも実力は上がっている。


 「いけるよ。私たちなら、きっとね」


 根性論なんかではなく、ここは私が本気で勝てると思っているから出た言葉だ。安心させるには、私の内側に秘めた気持ちを吐露するしかない。だから嘘偽りなく答えた。大丈夫なんだと。


 「そうか。なら、いい加減震える手を止めねーとな」


 「ガハハハ。久しぶりの本気に、腕が疼いて震えてるんじゃないのか?エイルよ」


 「筋肉バカは呑気でいいな。終わったら星座入れ代わってもらうからな」


 「ほら、2人とも静かにしないと、本気で殺されるよ」


 この場に、第1座、第3座、第5座、そして第7座となったエイルというヒュースウィット神傑剣士たち。このメンバーで精霊種を相手にする。数はおそらく2体だ。厳しい戦いになるだろうが、そんなに心配していない。


 相手を見るに、他国の神傑剣士や、神託剣士も多く存在している。敵となった人間の落ちこぼれ。矜持もなく、精霊種を受け入れるしかないほど、怯懦な性格。バカらしい。


 そんなやつらは、ヒュースウィットの第8座、第11座に任せ、ヴァーガンの6名の神傑剣士にも任せる。他を担うには、十分な戦力。


 「殺される?んなことあるかよノーベ。お前も感じてるんじゃないのか?ノラ様の能力を」


 「だけど慢心はダメだってことだよ」


 「当たり前の話だな。王族の固有能力を借りてんだ。それなりに力発揮しねぇと、本気でノラ様に嫌われちまう」


 ここに立つ、精霊種に対抗する4人。そのうち私を除いて3人は、既にレベルの上限を超えている。レベル7の超越者というわけだ。


 ノラ様の気派が消えない限り、それは無限に発動を続ける。最強のサポーターである。


 「そろそろだね。――ふぅぅ……も気合入れるか」


 私の限界は、既に超えてある。超越者として、一歩先を行く存在。刀を2本抜き、私は集中の極致へと誘われる。変化する空気感に、誰もが刀を握り直す。死を前にした人間が、同じ経験をしたくないと思うように、強く、確実な覚悟で。


 そしてついに、精霊種は存在を証明する。


 「来るっ!!」


 叫ぶと同時に、ナファナサムから、王都内の住宅街が縦一直線に崩れていく。たった1つの剣技。それを使っての大胆な行動。死人はもちろん、怪我人は皆無だが、その破壊力は凄まじい。


 私たちへ向けての攻撃ではなかった。故に、力の証明。子供じみたことをされると、癪に障るのは抜けない私の悪い性である。


 「マジかよ……これがあいつらの力か」


 一瞬にして悟る。しかし、エイルの目の色は、血を求めて染まっていた。そして破壊の先。蹂躙を続けたがる、我儘な子供のような行為に及んだ相手は、私たちと目を合わせていた。


 そこで気づく。シウムの報告にあった、忍の死。その長だけが捕らえられたと言っていたヤイバココロ村。私の目の前に、精霊種であるミカヅチが居た。思わず、柄を握りしめた。


 「この体、見覚えがあるのか?」


 声質はミカヅチのそれを汚したように、2つの声帯を同時に操っているよう。質問の先は私だった。


 「ある。だからといって手加減もクソもないけどな」


 「ふーん。お姉さん、口悪いんだね」


 「俺は嫌いじゃないぜ。ああいうイキった女は、殺すといい叫び声を上げてくれるからなぁ」


 先頭に立つ2体のバケモノ。人間とは思えない容姿のはずが、予想通り人間に取り憑くことで力を上げている。単体で挑むわけもなく、その後ろには多くの剣士が立っていた。


 まだ人間として生きていて、魔人という契約は結んでないらしい。流石に、御影の地でなければ、力が強化されず無駄死にするだけと思ったのか。何にせよ、人間を殺すのは私ではない。


 「なら、早く終わらせたいな。俺も、お前らのように汚れた存在を王国に置きたくもねーからな」


 「人間の女はこうなのか?可愛げも美しさもない。気品のない女は、役にも立たない。死ぬしかねーよなぁ」


 「勿体ないけど、まぁ、いいか。カグヤに会えれば、それで十分だし」


 因縁があるのか、生き残った存在に執着しているような言い方に、目の前で戦う私たちなんて、視界にすら入らないと言われてるようで、心底憤る。


 「俺にはエイルでミカヅチを依り代にした精霊種を、ノーベとファイスはサイコパスの方をよろしく」


 「「「了解」」」


 「ほら、お前たちもそろそろ殺しにいけ。俺らの邪魔させたら殺すからな」


 「だってさ。ハッシ、ダムス、他の剣士と協力して、早めに俺たちに合流してくれ」


 「「任せろ」」


 精霊種率いる神傑剣士。見たことあるが、おそらくリベニアの者たちだ。強化されてないように見える力。本当なら、きっと勝てる。

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