第二百四十五話 開戦
「――ということで、ワルフたちには精霊種外の相手をしてもらう。難敵は全て俺たちヒュースウィットが相手をするから、任せたぞ」
「委細承知」
残り1週間。それが俺たちに残された、美しき王都の景観を保つ期間であり、どちらかの崩壊が確約されるまでの期間だ。集められたヒュースウィット、ヴァーガンの合計26名の剣士。王国を背負った、命を賭して戦う英雄たちの、僅かな数。俺はそんな人たちへ、鋭く眼を向けた。
「これから、俺たちが戦う相手は、この世界の汚点であり、害悪な存在。生存を許してはいけない、ゴミクズの権化たちだ。しかしそんな奴らでも、実力は人智を優に越える。常に警戒し、死と隣り合わせの状況でも、怯えることなく戦いに挑んでくれ」
これは死を目の前にした戦いであり、絶望的な戦いとも言える。それぞれの強化は施した。しかし、精霊種という、創世剣術士と渡り合える相手が、7体も存在するとなると、それはもう勝ちは薄い。
過去にも、今は亡き、2人の英雄が挑んで、死の代償に道連れにしたのが3体。10対2の不利な状況だったのは間違いないが、それでも蹂躙されたことに変わりない。実力は上回ったとして、多勢に無勢が無意味を成す相手に、どこまで通用するか。
「先に言っておこう。お前たちは死ぬ可能性が高い。特にヒュースウィットの神傑剣士に関しては、3人で1体の精霊種をサポートしてもらう。神傑剣士とはいえ、相手にするのはこの世界最強だ。3人でも厳しいだろう。鍛錬したとはいえ、未知の存在に手を出すのは、不利を強いられるからな。だけど、今ここに座ってるというなら、逃げることは許されない。戦って戦って、最期まで役目を果たしてくれ」
背中に負わされたのではない。背中に負いたかったから負ったのだ。誰もが、守るべき大切な存在を守るために、命を懸けても良いと思ってここに座る。
攻めてくる王国の、偽りの神ではなく、国民を愛した、偉大なる神として、その星座に座る覚悟を持つ者として、神傑剣士の名を馳せた者として、立ち向かう覚悟は既に出来ている。
「直接攻めてくるならば、脳筋バカな奴らでは、単純に北、南、東から攻めてくるだろう。その時、禍々しくも圧倒的な力を持つ者が現れたら、すぐに短刀を壊してもらうよう指示はした。そして各配置も決めた。準備万端だな」
北のサントゥアル。南のリベニア。東のナファナサム。それぞれに囲まれるようにして聳え立つ壁。俺たちヒュースウィットの何が気に食わなかったのか知らないが、それ相応の死を受けてもらうことには変わりない。
「俺からは特別もう話すことはない。誰か、何か言いたいことはあるか?」
25名の、肝が吸わった豪胆な剣士は、誰もが首を横に振った。別に今更残すことなんてないし、遺すわけじゃない。どうせ、戻ってくるんだからと、自分たちの勝ちを確信して。
「ならば、相手がバカ正直なやつらで、生真面目なら、1週間後に確実に来る。それぞれの場所へ移動し、対応を任せる。死ぬなよ、神傑剣士たち」
――王都を最上階より上、屋根上から眺めたのはいつぶりだろうか。昔、プロムを始末した時、だったか?
今では考えられないほど、ちっぽけで、無力な相手を薙ぎ倒してきたな、と、感慨深くも微笑する。魔人と初めて戦ったあの日も、ルミウと初めて行動を共にしたあの日も、おじさんおばさんを助けたあの日も、今では他の神託剣士に任せるほどのことになってしまった。
実は創世のための猛者で、世界の均衡を崩した存在だなんて、思ってもいなかった。記憶は消され、心臓に、カグヤからの記憶の刀を突き刺され、思い出し、役目を果たすためにここに立つ。
「……似合わないよな」
「そうか?私には、似合って仕方ないと思うが?」
隣に立つ、同じ宿命を胸に、背中に抱えた最強の1人。過去、俺を育てた親であり、自らも記憶を消した、人間を忌み嫌う最強。
「お前はな。俺は……やっぱり違和感を覚える」
父が魔人で、母は人間で、生まれた唯一無二の混血。この世界に生み出されたと思えるほど、奇跡が重なって俺は、今ここで息をする。信じれないのだ。
「だとしても、背負うことは嫌ではないんだろう?」
「まぁな。それが俺の果たすべき、最初で最後の役目だからな」
「なら、違和感なんて消し去れ。邪念は、それだけお前を蝕むぞ」
「ああ」
そんなものは、今は残されてない。感情だって、俺は知らないんだから。邪念ってなんだ?そう思うのが当たり前だ。
もう、覚悟なんてとっくに決まってる。何年も何十年も前から、生まれた瞬間から、俺は知ってる。本能がそうなんだから、抗いもせず、立ち向かう他にないだろう。
これは、この世界の不幸の物語は、俺がここで止めるしかないのだ。
「来たな」
「やはり、ちょうど4ヵ月ではないか。何日前行動だ?」
「4日だな」
配置は既に完了している。その上で、伸ばし伸ばされた、王都をも超えるほどの、索敵するためのテリトリー。感じた先、西を除いて感じる、最大級の力。精霊種の反応だ。
そして間もなくして、その三方向から轟音が。
「さーて、行くかイオナ」
「1番強いやつはどこだろうな」
見つけて探す。リーダーというよりか、この世界で俺の対なる存在。最強の片割れを。サントゥアルではない、ナファナサムでもない……南、リベニアだ。
「ふっ……俺より塗れてないじゃん」
感じた憎悪。圧倒的に俺が上だった。
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