第百七十二話 さっさと解決

 それから俺たちは談笑を続けた。根っからの悪ではない人たちだからこそ、善人に染まりやすく、話し始めれば家族のことや襲撃のこと、どう暮らしていたのかを喜怒哀楽含めて話してくれた。


 しばらくして、その盗賊を束ねるレベル5のリーダーが来た。談笑を交える俺たちを見て、一瞬固まったが、俺よりも彼らをよく知るからこそ、すぐに打ち解けて話しをした。


 ――「それで、ここからは退いてくれるのか?」


 本題に移ろうと、だんだんと楽しくなった会話を止める。それに何も言わず、頷いてリーダーは言う。


 「はい。ここに居る意味は貴方様のおかげで無くなりましたので」


 「それは助かる。準備が整い次第、街に戻って普通の暮らしを続けるんだ」


 「1つ、よろしいでしょうか?」


 「ああ」


 「危害は加えていないのですが、忍の村に土足で踏み込んでしまったがために、反感をかってしまい、安安と通してもらえないと思います。そこをどうにか出来ないでしょうか?」


 「それは大丈夫だ。忍たちもあんたたちを殺す気はないし、退いてくれるなら万々歳だ」


 確かに忍という情報は少なく、隠密であり暗殺を得意とした部族。情報を得られた可能性のある盗賊集団を、簡単に逃してはくれないかもしれない。


 だが思ったより、そこまで忍も残忍ではない。しっかり考えることが出来るため、それなりに賢さも持ち合わせている。ただの暗殺脳ではないということ。


 「そうですか。それは助かります」


 神傑剣士の言葉。敵という立場ではあるが、紋章を渡したという契約のようなものがあれば、それは必然的に本当の言葉となる。疑うこともしなくなる。


 「幸い、拠点はまだ作っている途中でしたので、今日中には撤去し、我々も街へ戻れると思います」


 「急がなくてもいいからな。明日もまだ居るなら、殺すなんて気もないし」


 焦りを生むのは後味が悪い。それにこれからとなると、夜の移動となる。魔人皆無とはいえ、完璧な安全は保証出来ない。彼らに何か問題が生じるのも避けたい。


 「それでは我々は作業に戻ります。多大なるご迷惑を、謝罪します。本当に申し訳ありませんでした」


 深々と頭を下げ、それに倣って次々に護衛たちも頭を下げる。俺に対して謝られても何も意味はない。だが、今から彼らに忍へ謝罪するのも、忍たちも望んではいない。


 「いいや。次からは大貴族に問題があるなら、怖気づくことなく意見を伝えるのが大切だ。肝に銘じとくんだな」


 「はい」


 最後に1度頭を下げ、そのまま俺に背を向け洞窟の中へと消えて行った。それを確認して、シルヴィアの望む場所を確保したこと、それに満足して俺も戻る。


 「ふぅーー何事も無くて良かった」


 本当に。彼らがまだ話を出来る人間で、善人寄りで心底良かったと思う。


 ため息交じりに、疲れてすらいないが何となくで溢す。瞼を開き、前を見つめる。そこには心配だったのか、ミカヅチが細道の真ん中で立っていた。


 「おっ、心配性なのか?」


 「そういう性では無い。しかし無事で良かったのは何より。早くも解決した様子に、流石の一言だ」


 両腕を組み、まるで自分が活躍したかのように微笑ましくも堂々とした姿に、思わず鼻を鳴らす。


 「しかし、捕らえては無いようだが、何故?」


 「悪人じゃなかったからな。今日中には元いた場所に戻るってよ」


 「なんと、交渉だけで彼らを退けた、と?」


 目を見開いて、自分では思いもしなかった方法に驚きを素直に顕にする。悔しさや不甲斐なさは感じない。ただ羨望の眼差し。


 「そういうことだな。刀も抜いてないし、怪我人もお互いにいない」


 「うむ……これが神傑剣士……素晴らしい」


 「そこまで驚くことをした覚えはない。恥ずかしいからやめてくれ」


 褒められることには慣れてない。当たり前を当たり前にするだけ。凡事徹底を褒められても、逆に恥ずかしいだけ。出来ないと思われてるわけではないのだが、俺には似たような気持ちなので大差ない。


 「ほら、そんな威張ろうせずに、戻って宿をどこか借りさせてくれ。出来るなら一緒に来た2人とは違う部屋で頼む」


 「そうだな。了解した」


 お前なら一緒の部屋で、と言いそうだけどな、と言いたげな顔に一発入れたい気持ちを抑えて、頷くミカヅチの隣を歩く。


 日も落ちて来て、拠点の撤去に追われる彼らも、今頃はせっせと、本来の目的は違う意味で汗水垂らしているだろう。本当に善人寄りで良かった。人殺しは好きではないし、悪人と出会うことすら嫌いだ。


 人間なんて俺と同じ生き物で、距離感的な問題からか、鮮血を見るのは好みでもない。魔人ならまだしも、1度も死んでない人間を、いくら悪人とはいえ、殺めるのは今後も避けたいとこではある。


 良心とかではない。


 って思ってるが、実際怒りで我を忘れるほどに相手が悪辣でクズならば、そんなこと忘れて、今後のために容易く殺める。それが俺。大切な玩具を盗られた子供のように、まだ20を踏めない歳の俺には子供っぽさが残っている。


 それが何にも影響しなければ良いんだけどな。


 ミカヅチと忍についての話や、俺の仲間について、様々なことを交わしながらも、2人がゆっくり休むというその宿に、俺たちはたった半日で友人関係を築いたかのように、仲良く戻って行った。


 もしかすると、空き家ではなくこれらは宿であり、意外と多くの人が、この地を訪れてるのかもしれないな。

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