第百七十話 ヤイバゴゴロ村

 「何ていうか、村って感じだな」


 目的地――ヤイバゴコロ村へと着いた俺たち。その景観を見て俺はそのまんまのことを口に出す。木材建築の建物が立ち並び、密集というよりは疎らに組まれている。


 真ん中に窪みがあり、それを囲むように円形に並ぶ家々は、階級分けがされているかのように段差がある。時折そこから出てくる人に目を奪われるが、その人たちにミカヅチと同じ服装をした人は居なかった。


 おそらく戦闘服のような物なのだろう。日頃から着ていれば怪しまれたりも、ここがあの忍の村なのだと悟られてしまうから。


 少し離れた高台にてそれらを思う。隣にはミカヅチが加わり、盗賊とやらの襲撃状況などを聞いていた。


 「ここは最北の地でありながら、世界で最も知られていない村だ。忍らしく平和に隠密に暮らしている。自給自足のため、村の外へ出るのは滅多にない」


 「へぇ。54人でよく暮らせるね」


 「54人だから暮らせるのだ。食料もそこまで必要無いからな」


 人数に対して無駄に多くの建物があるのは囮か陽動か。


 「どこに盗賊たちは居るの?」


 「右奥に細くも通れる道がある。そこを5分ほど歩くと洞窟に辿り着く。そこに希少な黒奇石があり、そこを拠点にしようと、現在盗賊は拠点を構え中だ」


 「ん?洞窟の中なら忍の得意なフィールドだろ」


 「先も言ったが、通るにはあの道は細い。警備も立っていてな、あそこを通ろうとすると細道を大勢で駆けて来る。そうなれば忍とはいえ、後退するしかない。故に不可能なのだ」


 「なるほどな」


 戦闘力は総合値で測るならば盗賊が上。人数も多く、レベルも高い奴らを集めて居るだろう。対して忍は隠密という状況下にて実力を発揮する。不意の襲撃により短時間で終わらせるため、面と向かっての長期戦はお世辞にも得意とは言えない。


 「さっさと解決する方が良いよな?」


 「無論だ」


 「了解。それなら行ってくる」


 「ん?貴方1人で?」


 「ん?そうだが?俺も神傑剣士だからな。盗賊の100人程度、細道でも終わらせれる」


 「なんと。貴方も神傑剣士とは心強い。ではもしかして貴女も……」


 この流れ的にシルヴィアも神傑剣士だと思うミカヅチ。羨望の眼差しをこれでもかと向ける。


 「残念。私は刀鍛冶だよー」


 「神傑剣士である御方の専属の?」


 「うん」


 「さぞ素晴らしい刀鍛冶か。そのような方たちに、一方的な頼み事をして良かったのか?」


 ミカヅチは不思議と、俺らのことを疑わない。神傑剣士としてローブからバレることもあるが、俺のこともシルヴィアのことも、ローブを見て判断出来なかったのならば、本当に知らなかったのだろう。


 それでも疑いの目を向けずに、俺らの言うことを、まるで気派で全てを読み解く俺のように確信している。


 「暇つぶしになるならそれが対価だ。盗賊の対応が死と釣り合うなら別だったけどな」


 「油断してはならない。相手は盗賊といえど、人数は多い。死も考えられる」


 「いいや、ない。慢心でもない。普通に負けない」


 絶対に。


 「嘘じゃないから、安心して待っていて」


 ルミウの確信だ。


 「最悪死んだら解体出来るじゃん」


 「止めろよ」


 シルヴィアは俺に好意を抱いているが、それは少しだけ。9割は俺の未知を解明するための解体の興味から来る、サイコパスだ。


 「流石は神傑剣士。これほど期待出来る存在とは。初めて目に映すが、確信という言葉の本当の意味をここで理解した気がする」


 「それは良かったな」


 キラキラと、感動を瞳孔で証明してみせる。力というものに興味をそそられる部族なのか、忍についての知識が浅い俺には分からない。だが、崇められてる気分になるのは、近いしい意味があるからなのかもしれない。


 「んじゃ、長話も面倒だし、詳細聞いても死ぬ確率は0だ。早速終わらせようかな」


 サントゥアルに入国し、戦闘のために、この下げたオリジン刀を抜いたことはない。出す必要もなかった。久しぶりに柄をガシッと握ると、こんな感じだったかと握り心地の変化に違和感を覚える。


 「私は頼まれたけど、イオナが終わらせるならシルヴィアと散歩でもしようかな」


 「珍しいね、参加しないんだ」


 「意味ないから。それに、疲れたくもないし、ここは疲れないイオナに任せるのが賢い選択」


 「おいおい、他力本願最高だな」


 少し前の自分の言っていたことを忘れたわけでもあるまい。堂々とそれが当たり前のような雰囲気を出すルミウに、一発を。


 「人に頼るのが1番楽だからね。責任転嫁と他力本願。これで私は今日から生きていく」


 「神傑剣士ともあろう人が、そんなんでいいのかよ」


 「最善の策だから良いんだよ。もしイオナが取り逃がして村に来たなら、その時の対応も出来るし」


 「ルミーツンツン」


 「機嫌悪い時って怖いよな」


 「ねー」


 変わったルミウを横目に、ヒソヒソとシルヴィアと会話する。凍りそうなほど冷たい目と、下がったかと勘違いするほど空気感も支配されるが、そんなのお構いなし。


 原因解明が難しい。特に女性、特にルミウは。


 「ルミウ・ワンは機嫌が悪いのでゆっくり散歩します」


 そんな俺たちを見て、聞こえてると言わんばかりに拗ねて背を向けた。


 「待ってー一緒に行く」


 シルヴィアもすぐに追いつくと、すぐさま何かしらの原因により喧騒の始まりとなる。


 「いつもああなのか?」


 「そうだな」


 ミカヅチの怪訝な表情も見ず、彼女たちの背中を微笑ましく眺めていた。

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