第百六十九話 解決へと
忍は存在する事自体記憶から薄れるほどには信じがたい話だった。会えたら良いな、的な感覚で書物に目を通したため、この展開が現実ならば俺は感動と嬉しさを噛み締める。
鋭い眼光を飛ばし、睥睨するように頼み事をするが、ルミウは全くそれに動じない。一般的ならば、忍の長けた隠密行動により稀有なこの状態は、それだけで腰を抜かすほどのことだろうに。豪胆なルミウには関係はなかった。
「――だって。どうする?」
1人の判断では決められない。いや、これはシルヴィアの提案した休暇としての時間。それを考慮すれば、厄介事を簡単に引き受けるのは賢くないと判断した。
「ヤイバゴコロ村って言ったよね?そこが私の行きたいとこだし、正直盗賊なんて秒で片付けられるから大丈夫でしょ」
「今でさえ背に乗って楽してるくせして、ここでも他力本願とか、お嬢様は気楽でいいね」
全てを背負うのは私だと、下手すれば周りの忍たちも畏怖しそうな圧を放つ。その圧は俺へと届くことはないが、視線は向けられる。
「どうせ行くなら嫌でも関わるだろ。それに盗賊でも、流石に魔人より強くないだろうし、休暇の邪魔になることは皆無だろ」
俺には肉体的な休暇は必要無い。故に行き先で誰と戦おうとも問題もない。むしろ、忍である村の人たちに出会えることを考えればプラスだ。
最終的に俺の判断で決めるつもりだったのか、ルミウは表情を柔らかくすると、その畏怖させる圧を取り払い、ミカヅチを見た。
「ということで、いいよ。君たちのその提案を承諾する」
「感謝する!」
その言葉を待っていたかのように、間を置かずして即座に頭を深く下げた。ブンッ!と振り上げると、片膝曲げた態勢から同時に立ち上がり、勢いで俺たちの前まで飛んでくる。
「盗賊の詳細だが、人数は100を超えるか超えないか程度。俺たち忍の54を超えているのは確かだ。強さ的には圧倒的に俺たちが上だが、それは木々の張り巡らされた森の中や、王都のように建物が密集していたらの話。村のように僻地で開けている場所では、隠密が不利だ。だから貴女たちにそれらの対応を頼む」
意外であり納得する得手不得手。忍とはいえ、速度や隠密を活かせない場所では不利を強いられるのも無理はない。
「盗賊たちと出会えば捕らえればいいの?」
「1番はそれが好ましい。無理な人殺しや傷つけは好きではないからな」
「分かった」
「では、俺たちは先に村へと戻る。急ぐ必要はないぞ」
そう言って颯爽と風のように消えて行く。目で追えるのはそれなりに慣れているから。忍としての才能があるならば、少しくらいは技術を噛りたいものだ。
ミカヅチが消えることで、周りからの人の反応も消えた。どこからも殺意は向けられず、先程と変わらず静寂な時を迎える。
「ルミーの同業者だったね」
「隠密が得意な忍か。確かに、ルミウよりも隠密得意そうだったもんな。気配とかバレバレだったけど」
相手が誰であろうと、気取れない気配はない。いくら隠密に長けているからといっても、その人間という存在が体を保って生きているという時点で、微かにでも気派は存在するのだから。
「元が違うからね。私は神傑剣士として、彼は忍っていう目的が。剣技になれば話は変わるだろうし、気派でも同じ」
「負けず嫌い」
「文句あるの?」
「いえ、何もありません」
最近増えた睨みを、毎日のように見続けてるにも関わらず、それを遥かに上回るほど目を細めて睨みに強化を施すので、ルミウに相当なストレスが溜まっているのは違いない。
思わず敬語になるほどには恐れるな。
何がそんなに癪に障るのか、俺には理解出来ない。聞いても答えないし、詮索するようなことは好みではないため、何の道を歩こうと、その問題が解決することはない。
「それにしても、行く先々でトラブルだな」
「それほどどの王国も問題を抱えてるってことだよ」
楽しそうに鼻歌を歌いながら、途中で止めては会話に入るを繰り返す。耳元なので、正直その声が直に響く感じがして落ち着かない。
耐えろ。俺の耳。
「これに関してはそうだけど、今までは自分たちでトラブルの渦中に入り込んだようなものだからね。王国に問題があるのは間違いないけれど、自業自得でもある」
「これは神傑剣士って言ったルミウが悪いな」
「威圧しろって言ったのは?責任転嫁は良くないよ?最強さん」
ローブの内ポケットに手を伸ばし、刀身が乳白色の短刀を即座に取り出すと、その鋒を俺の首元に運ぶ。時間にして1秒未満。これ以上熱を送り込めば、間違いなく刺されるだろう。
「……どっちも悪いってことで」
「イオナは神傑剣士って言えとは言ってないもんね」
「仕方ないし、大人だからそうしてあげる」
「大人はそういうこと言わないけどねー」
「……背中が絶対に安全と思うなよ?俺でもルミウの動きを読めない時あるからな?」
安心安全な場所からルミウにマウントを取ろうと煽り続ける。どうしても優劣を決めたがるのは、幼き子供のよう。
「別に気にすることでもないでしょ。敗北者の戯言だし」
短刀を収めて目を合わせることもなく、圧倒的な猛者感を出して気に留めてないと言い張る。が、逆効果だとは知らない。
負けず嫌い過ぎだよな。
「はいはい、喧嘩はいいから、行くぞ」
仲裁は俺の役目なんて似合わない。この2人専用だ。
まだ日が落ちる気配はない。そんな照り付ける太陽の下を、俺たちは久しぶりに安らぎを求めて歩いた。
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