第七十五話 左目の希望

 それからというもの、俺は何度も同じことを繰り返し、フィティーが完璧に俺の気派を察知出来るように鍛錬した。正直、1回察知すれば今後も難なく察知することは可能になるので俺が付きそう必要は無かった。


 だが、フィティーのことを探るためにはしっかりこの目で確認しなければならない。つまりはやりたくないことをやらなければならないってことだ。俺の苦手分野だな。


 「上下左右、位置も完璧に捉えれるようになったな。次に移る前に一旦休憩だ」


 「まだ動けるけど?」


 ピンピンしてますよと、腕を曲げて元気モリモリアピールをする。王女として似合わなくても、18歳として見ればまぁ、可愛くはある。


 そんなフィティーに俺は隠しながら与え続けた気派を絶つ。


 「うっ……」


 すぐに疲れを感じたようで、キレイな碧目を細めながら膝をつく。黒白のオッドアイの方が俺は好きだが、フィティーは碧に慣れたらしく、無意識に染めてしまうのだそう。


 「俺がサポートしないとそうなるから休憩はこまめにするんだ」


 「はい……」


 若干項垂れるがそれは見なかったことにする。美少女に甘い俺はすぐに感化されてしまうからな。日も徐々に西側へ消えていく。今日でどれだけのことを教え込めたのだろうか。ここまでにして終えても2日は休めるほどってとこか?


 このバケモノを更にバケモノにするのはそう遠い未来ではなさそうだ。


 「そろそろかな……」


 「何が?」


 「ん?あーこれ」


 フィティーが聞き返したタイミングで俺のそろそろはやって来る。信頼と長年の付き合いからの予想はほとんどハズレることはない。


 休憩中と知っているので扉を丁寧に両手で開けて入る。


 「ナイスタイミング」


 「みたいだね」


 情報を得て帰ってきたくせに汗1つかかず、なんなら刀を抜いた気配すら感じないルミウは爽やかだった。この時は良いことがあり、気兼ねなく接するチャンスのあるルミウだ。


 「おかえりなさい、ルミウ様」


 奥で片目でもしっかり誰か捉えることが出来たようで「あっ、ルミウ様か」と1言ボソって笑顔で迎えた。


 「うん、ただいま」


 『機嫌良さそうだけど、何か見つけた?』


 『確定じゃないけど、それらしき手がかりは見つけたと思うよ』


 まだ念話を習得していないフィティーには俺らの話は聞こえない。聞かれては良くないことなので、もし使えるなら場所を変えるが。


 予想通り何かを得たルミウのポケットには俺が買って、ここに戻る前に食べた果物が入っていた。前々から食の好みが合うとは思っていたが、もしかしたらマネされてるかもしれない。自意識過剰の痛々しい少年の俺らしいな。


 それから俺は念話でルミウの出来事を事細かく聞いた。この短時間で1つの事件を解決したというのだから手際の良さ、そして固有能力のバケモノさを改めて尊敬する。


 ――『そうだ、今日はもう外には出ないだろ?良ければ俺に付き合ってくれないか?』


 話を聞き終えると、左目云々の問題をルミウで解決出来るかもしれないと咄嗟に思った俺はここで有効活用するため、ルミウに指導を願う。


 『良いよ。何するかによるけど』


 『ありがとう。難しいことはないから心配無用』


 気派の扱いには俺よりもルミウが指導人になる方がいい。才能がある人がより緻密な操作を可能にするので、俺のような大雑把な人にはあまり向かない。むしろここまでよく教えたものだ。いや、フィティーの才能に助けられたというべきか。


 「フィティー、その左目に痛覚はあるか?」


 ルミウと念話した流れにいきなり話を振る。俺らからすれば違和感ないが、フィティーからすれば沈黙からいきなり声を大きくして話しかけられたので何だこいつって目で見るほどには違和感を覚えている様子。


 しかしそれはすぐに戻す。切り替えの速さも王族故のもの。


 「あるよ。見えないだけで」


 「そうか。なら、見えるようには出来ないが、左目として代わりのもので補うことは出来るかもしれない。あくまで可能性の話だが、0じゃない」


 痛覚があるのなら俺の考えることは確実に実行出来る。ただの飾りではなかったことが幸いしたな。


 「本当に?」


 「マジだぞ。なんなら普通の目より万能なぐらいいいものに出来る」


 「左目が……使えるようになる……可能性があるなら試したい」


 「そうこなくっちゃな。今ならすぐ出来るからやってしまおう」


 「うん!」


 希望が見えた瞬間の人間は信じられないほど活力が湧いてくるもの。そのように、フィティーは今、俺を信じてこれから自分のデメリットが解消されると思っている。


 それを裏切らないのが俺らの役目。俺しか使えない気派――集に、ルミウしか使えないエアーバースト。これらが組み合わさるから出来る、気派による空間の意識内での具現化。途轍もない難易度になるが、俺たちなら可能だ。


 だが逆に言うと、俺たちでも難しく可能性でしか言えないレベルの問題だということ。そんなハイレベルなことを絶対に出来ると信じさせた俺はほんの少しでしゃばりすぎたかな、なんて思っている。


 まぁ、これぐらいしないと俺ってやる気も集中もしないし。縛りって大事だよな。


 この現状をポジティブに捉えることで、無駄なことを考えず、今この瞬間からフィティーの左目に全てを懸けて集中する。相性の悪い人間と一緒や、不安を持ちながら活動することで本来の6割程度しか力を発揮出来ないと聞いたことがある。


 それで言うなら、俺らは10割で本領発揮だな。

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