第七十三話 尋問

 謎の組織とは何処の王国でも居るのは変わりないようだ。つい最近ヒュースウィットでプロムを始末したっていうのに、他国に来てまで裏稼業云々を解決しないといけないのは正直嫌だったりする。


 でも自分からやり始めたことに目を背けることはしたくない主義なので、何が何でも解決に尽力する。ってかイオナに頼まれているようなものなので、絶対だ。


 「それではお2人は解放します。後処理は私が全て行いますのでご心配なく。ネティアちゃんはこの家を正面から出て、3軒左にある建物の2階に待たせているので急いで向かわれると良いかと」


 「ああ、本当にありがとう。助かった。ところで、君の名前を教えてくれないか?」


 「はい。私は――ルミウと申します」


 「ルミウ……いい名前だ。何処の剣士だ?」


 「ヒュースウィット王国です」


 「ヒュースウィットか……ん?ヒュースウィットのルミウ?まさか、君は――」


 「それ以上は何も話さないでください。私がこの場にいたことも絶対に誰にも話してはいけませんよ」


 発せられた言葉の振動する範囲を真空にし、発言をなかったことにする。別に私がヒュースウィットの神傑剣士だとバレるのは構わないが、まだ近くに敵が潜んでいる可能性を考慮しての口止めだ。


 そもそも他国の貴族なんて信じるつもりは毛頭ないので、どうだっていいが、念の為だ。


 男性は口をモゴモゴさせ頷く。


 「では行ってください。ネティアちゃんも待ちくたびれている頃でしょうし」


 そうして驚きの表情は変わらぬまま貴族夫婦は駆け足で私のもとを去って行った。


 よし、ここからは私の時間だ。


 気を失い倒れ込むレベル5の男性に、全身へ強烈な痛みが走るように淀んだ気派を流し込む。強制的に目を覚まさせるための極悪手段だ。


 するとすぐに「ぐっ!!」と悶ながら意識を取り戻す。この手は何度もやっており慣れているので加減も完璧に出来る。神傑剣士からは怖いと言われるが、今の私にその自覚はない。


 「おはよう。起きて早々悪いんだけどさ、君の知ってることを全部話してもらうよ。嘘ついたらバレるし、死ぬ寸前まで苦しむことになるから吐いた方が楽だからそれだけは覚えてて」


 男性は痛みが消えた安堵感とともにポカンとした顔で私を見ていた。気を失う前の記憶が戻ってきている途中だろう。有無を言わせず私は続ける。


 「まずはじめに、君たちの目的を教えて?聞き返すと腕を折るし、10秒以内に答えないと足を折る」


 「お、俺は詳しいことは知らねぇよ。だから目的なんてただ呪い人捕まえろってだけしか言われてねぇんだ」


 嘘ではない。


 「次に、君の役職は?守護剣士?神託剣士?神傑剣士?それとも何にも属さない一般の剣士?」


 「守護剣士だ……この王都ミーハーテを主に活動域にしている」


 これも嘘ではない。まだ死にたくないらしい。


 「順調だね。次に、君に捕まえろと指示をしたのは誰?」


 「それは……」


 ここで初めて口ごもる。やはり上との繋がりは言えないほど強固な関係を結んでいるか、言ったら殺すとでも脅されているかの2択みたいだね。


 「5秒、4、3、2」


 「同じ守護剣士のアルバルンってやつだ!」


 これは……。


 「あ"ぁ"ぁ"!!」


 「嘘つくと腕と足両方折るって言ってなかったっけ?ごめんごめん、まさかこの状況で嘘つくと思わなかったからつい癖で」


 嘘と分かった瞬間に左腕と左足をバキッと雑に叩き折る。全治3ヶ月といったところか。治ったとしても再び守護剣士に就けるほどキレイにはならない。


 「次は嘘ついたらダメだよ?」


 「く、クソが……」


 「喋れるうちにドンドンいこう。ほら、指示した人を教えて?」


 「……ミスト……神託剣士のミストってやつが……指示したんだ」


 嘘ではない……と。


 「最初からそう言えばいいのに、無駄に人生を終わらせたみたいで残念だね」


 折れた腕と足をダランとさせ、これ以上無駄に動かして痛みを受けないようにしている。やり過ぎたと思うが、悪人には普通の罰だ。


 「それじゃ最後の質問。君が知ってるだけで良いから、何人の剣士がその呪い人を捕まえることに加担してるの?もちろん神託剣士と守護剣士含めて」


 「俺が知るのは10人程度だが、多分20は最低でもいると思う。もしかしたら神傑剣士も加担してる可能性があるしな」


 「ふーん。なるほど……そこまで王国では呪い人を忌み嫌ってるのか……」


 一概に悪人とは言えなくなった気がする。呪い人が死ぬなら魔人化確定なのだから先に芽を摘むってのもありかもしれない。んー、だけどそれって人殺しと変わりないような……。


 ひとまず深く考えることは後回しでいい。今は悪人と判別した人を優先的に倒していけばいいだけだ。


 「色々と教えてくれて助かったよ。それじゃまたおやすみ」


 肩をトンっと触り、再び意識を奪う。


 これでさっきのフィティーに向けての殺意と関連してそうなことを掴めただろう。イオナに褒められるし、何も文句を言われずに済む。ん?褒められる?私は何を……。


 いや、とりあえずはここを離れよう。近くまで仲間に駆けつけられてるかもしれないし。


 私は男性4人をそのままに、すぐさま外にでる。


 「金剛の葬」


 極心技を使い、そのボロ屋を粉々に破壊する。途轍もない音を立てて崩れ落ちるボロ屋は相当限界が来ていたらしい。これで多分地下に置いてきた4人は生き埋め状態となっただろう。


 私の調査は一旦ストップだ。

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