第七十一話 エアーバースト
シードほどではないが、淀んだ空気感にプロムたちを思い出す。しかし、その空気感は猛者と呼べるほどの敵ではなかったプロムよりも、倍気持ち悪く不快感が齎される。
これは少し面倒なお仕事になりそう。
私はその場にて感じれるだけの気派に向けてサウンドコレクトを使った。そして返ってくるまでの間にネティアを落ち着かせてこの場に隠れて待つよう指示した。
不吉な音波となって返ってきた気派は人数を4、レベルを4から5までの範囲に確定させる。どいつもこいつも、問題の渦中にいるのはハイレベルなのはどうしてだろう。
にしても、警備が手薄に感じる。貴族を攫うのならもっと必要だろうに。地下に監禁されている男女2人の乏しい気派はおそらくネティアの両親。拘束は硬いだろうな。
「よしっ、なるべく穏便に行こうか」
腰に下げた刀からホルダー内の刀まで万全を期してボロ屋に乗り込む。外から見るに1階には誰も警備は居らず、サウンドコレクトも反応なし。安心して近づける。
太陽は西側に傾き始めた時間帯。周辺にボロ屋が何軒も建ち並ぶが、住む人は皆無。よくもまぁ、こんな僻地の地下を見つけたものだ。
恐れることなく私はボロ屋の内部へ難なく侵入した。
今にも落ちそうな絵画に、もう時を刻めなくなり、常に出た状態となった鳥をそのままにした古時計。触れば粉塵の舞う木製のテーブルはどれも時間の経過を10年ほど感じさせる。
どれほど前のものなのか、それは曖昧ながらだいたいは掴める。
地下には常に神経を張り巡らせ、警戒をしながら待つ悪人がいる。でも私は構わず正面突破する。それが手っ取り早くて、片付けやすいからね。
地下に繋がる隠し通路。それを見つけると、私は足で思いっきり突き破る。バコーン!と激しい音を立ててボロボロになる入り口。爽快感を味わっていると、流石は対応が早いこと、階段下では私が降りてくるのをこっそり待つ剣士が居た。
位置を改めて確認する。階段下にレベル4が1人で、真反対に同じくレベル4が1人。拘束中の2人の側にレベル5とレベル4が1人ずつ。連携の取れる常習犯とみた。
一歩ずつ音を立てて降りていく。それに比例して殺意が徐々に強まり濃くなる。階段下に1番素人を置いたらダメでしょ。これは配置のミスだね。
そして何事もなく1番下まで降りてくると――。
「おらぁ!繊心技――」
1人が私を視界で捉えた瞬間に剣技を使い襲いかかる。だが、私はそれを剣技が出される前に右手の人差し指と中指で刀身を挟んで止める。
「奇襲には声は出したらダメだよ。それに君の重心は左に寄りすぎてるし、剣技だけに頼りすぎて気派なんて纏ってすら無いじゃない。もっと鍛錬しないとね」
「なっ!?」
並々ならぬ反射神経と、圧倒的な力の差を感じさせられる男性は既に怯みながらも悟っている様子。この剣技をあっさり止めるなら、俺にはもう勝ち目はないと。
私が相手ではなければそうは思わないだろうが、絶望感を味合わせるのは私の趣味でね。今まで何度もそうしてきたんだよ。
「次は監獄内で鍛錬の日々だね」
そう言って挟んだ刀を力で捻じ曲げることでパキッと2つに折る。力はそこまで込めていなくても、折るのはお手の物だ。ついでに顔面に強烈なパンチをお見舞いしてあげることで、男性は気を失う。
「次行くよ」
「くっ!オラァ!」
パニックになったか、剣技すら使わずただ走りながら斬りかかろうとする。が、それだけで済むわけもなく、刀身には大量の気派が練られていた。
刀身と身体能力の強化を行うことで、ただ剣技を扱う剣士より数段厄介になる。
「レベル4にしては合格点かな」
人差し指の上で自分の気派を具現化させ、ビー玉程度に圧縮したものを、男性の眉間に向かって放つ。それを刀で弾こうとするが、刀に触れることは出来ず、あっという間に届いた。
結果、一瞬にして体がザシュッと切り傷だらけになり、大量の鮮血が宙を舞う。致死量ほど出血はしていないので、死ぬことはない。
これらをイオナも出来るかって気になると思うので言うが、イオナ含め私以外にこの技を使える人はこの世界には存在しない。理由は単純で、私の固有能力だからだ。
【エアーバースト】と呼ばれる固有能力を持つ私だが、その固有能力は世界最強クラスであり、扱いが非常に難しい。
気派やちょっとした大気中の気流を操れる能力であり、具現化させた気派を自由にカスタマイズ出来る。今で言うなら発をビー玉程度に圧縮した気派は、実は私の斬撃を気派に変換させたもので、それが人の気派と交じることで反応し、体中を切り裂くといった理解不能の現象を引き起こせる。
「ほら、ドンドン来てよ」
目の前で不明瞭なことばかりが起こるが故に、足が固まって動けない。そんな残りの男2人は目を合わせると、次の瞬間、拘束中のネティアの両親の背後へ回る。
あー、テンプレかな?
「おい!それ以上動くとこの2人を殺すぞ!」
レベル5の男は無駄に声を張り上げ、自分を大きく見せようと必死になる。手にはしっかりと自分の刀が握られており、首元へ向けられている。
「まったく……私はまだ刀すら抜いてないし、レベル5なら楽しめるかと思ってたのにな」
自分の固有能力に絶対の自信を持つからこそ刀はいざというときにしか握らない。それが私の決めた自分だけのルールだ。
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