第七十話 貴族家の依頼

 私はすぐに足を止め、追いかけてくる女の子を待った。すると走ってきた女の子はすぐに私と出会う。


 「キャッ!」


 バレてないと思って追いかけていたのか、私が角待ちしていると目をこれでもかと見開いて、幽霊を見つけたと勘違いした過去の私を彷彿とさせるように尻もちをついた。


 「あー、ごめんね。驚かすつもりは無かったんだ」


 「う、うん。大丈夫」


 泣き出すことも凹むことも一切せず、肝が据わったように堂々とした態度で私を見つめる。動揺は見せながらも、絶対に見下されたくないという思いは感じとれる。つい、人生2回目かと思ってしまった。


 「私に何か用があるの?」


 目線を合わせるために膝を曲げる。ついでにレベルと年齢も読んでみると、レベル4の6歳刀鍛冶だった。剣士でなくとも、もちろん気派は扱えるが、より長けているのは剣士だ。なのに6歳刀鍛冶であれほどの……天才なのかな。


 「お姉さん強いでしょ?だから私のお母さんとお父さんを助けてほしいの」


 言葉に詰まることなく、ただ目的を偽ることなく正直に伝えてくる。覚悟を決めた人間の目をしている。操られてるわけでも、罠に誘われてることもない。信じれる目だ。


 「詳しく話を聞かせてくれる?」


 優しく笑顔で問いかける。イオナ曰く、私の笑顔は誰にでも効果覿面らしいのでどんどん使っていく。イオナ以外にね。


 「うん。お母さんとお父さんがね、悪者に捕まえられてるの。襲われた時に逃してもらったから私は捕まってなくて、助けを呼ぶしか無いって思ったの。だから頑張ってここまで走ってきてお姉さんを今見つけたの」


 服をギュッと掴み、今にも泣き出したい衝動を抑えながら必死に伝える。これだけ強い心を持った6歳児を見たことない。そして、私は断れるほど忙しくもなく、剣士として当たり前の決断をする。


 「君の名前はなんて言うの?」


 「ナティア。クーロン・ナティア。クーロン男爵家の長女」


 だからか。貴族なら英才教育から守護剣士神託剣士の指導を受けることもあるので、ここまでの成長は頷ける。まぁ、その子たちと比べても頭1つ飛び抜けてるだろうけど。


 この世界の貴族なんてほとんどが権力に溺れた老害だしね。


 「ナティアちゃんか。いい名前だね。お姉さんがナティアちゃんの問題を解決するよ」


 「ホント?!」


 「うん。任せて、私は今でも2番目に強いんだから」


 「そうなんだ!」


 勝手に他国の貴族の問題に干渉するのはよろしくない。だからと言って人を見殺しにしろって?バカじゃないの。私はヒュースウィットの神傑剣士であり、王族であるフィティーもバックについている。だから王国と王国の問題になっても解決は容易い。


 無理なら最悪、力で分からせるだけ。


 私の力に、神傑剣士をまだ知らないのか素直に羨望の眼差しを向ける。偽りのようだが、実際そうだ。イオナがこの王国に居る以上、私が1番とは言えない。だが、どこの王国へ行こうとも、イオナ以外に劣るとは考えない私は常に1番だと思っている。


 「とりあえず、どうやってお父さんお母さんが捕まったのか教えてくれる?」


 「うん、分かった!」


 そうして華奢な笑顔で返事をされたあと、すぐにナティアから話を聞いた。要約するとこうだ――ナティアの父が呪い人だと知られたらしく、すぐにそれを聞きつけた守護剣士と神託剣士が動き捕らえたとのこと。


 この王国の法律は知らないけど、1つ言えるのは呪い人を捕まえるのにはちゃんとした法律違反が必要だということ。でなければフィティーも今は捕まっている身だろう。


 なんだか私の勘が、フィティーと少なからずこの事件が関与していると言っている気がする。これは探る価値のありそうな事件だ。


 よし!これでイオナにお土産を持っていける!


 手ぶらで帰るとからかわれるのでこれは助かった。


 「ナティアちゃん、早速だけどお父さんお母さんが捕まっている場所に案内してくれる?」


 「うん、任せて」


 するとすぐに駆け出すナティア。追いかけるのは簡単だが、6歳にしては速すぎる足に火事場の馬鹿力といわれるものが働いているようだった。


 自分でも危機感をしっかりと理解しているようで、だんだんと焦りが見え始める。腕を振る力の強さや、振り幅、足の回転速度に、筋肉の緩和、何もかもが緊張状態の焦りと大差なかった。


 これは抱えた方が速いね。


 「ナティアちゃん、止まって」


 「えっ、なんで?」


 と言いながらも止まってくれる。そして後ろを振り向こうとした瞬間に、私はナティアを両手で抱える。優しく包み込むような抱擁だ。


 「わぁっ!」


 「ナティアちゃんは案内して。私がその通りに進むから」


 無理矢理抱えるが、今は急ぐに越したことはない。貴族に乱暴は良くなくても、それよりも高い地位の私には考えるべきことでもなかった。


 驚きはすぐに消え、案内役としての役割を果たそうと意気込んだ「うん!」という力強い返事。それに背中を押されるように加速する。


 上下左右の案内に的確に対応していく。間違えが起きないのは私の理解力が高いからかな?多分そうだと思う!


 ――そして走り続けること10分ほど、着いた場所はクーロン家では無く、王都から少し離れた僻地にある、今は使われていないボロボロの空き家だった。

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