第五十九話 両目と専属刀鍛冶

 「でも、呪い人の呪いって解けるんですか?」


 「もちろん。呪い人には初期設定をされる感じだから、そこからレベルアップはしていけるんだ。最も、フィティーの呪いはレベル6だからなんとか出来るものの、低ければ低いほど成長は見込めないけどな」


 「なるほどです」


 前世が存在するなら、フィティーはきっと悪人側だったのだろう。そして王女に生まれ変わって……ってそんな輪廻転生があるわけないか。


 実際、呪い人にはフィティー以外に出会ったことがある。それが俺の父だ。だから俺は母親に捨てられる身となったのだが、今ではそれが本当なのかは不明のまま。信じるも信じないも俺が決めることだが、こればかりはずっと謎だ。


 顔も名前も思い出せないほど距離の出来た関係を戻そうとも思わない。なにより、俺の親はテンランだ。それ以外は存在しない。


 「それでは皆さんに本当の私を見せます。驚くと思いますが、私の話が嘘ではないと信じやすくなるとも思いますので」


 そう言ってフィティーは右手で水の入った瓶を持ち、左手で水を掬って目を洗うようにパシャパシャと始めた。水遊びでは無いと分かっていても、目の前では王族が勢いよく顔を洗うように見えるのだから、貴重な一面を見れたと似合わないことを思っていた。


 そして、洗い流し終えると俺たちを見る。


 「どうですか?これが本当の私であり、片目を失った証拠でもあります」


 「……それは……」


 右目が黒く、左目は白のオッドアイの中でも珍しいオッドアイが、俺たちの目の中に飛び込んでくる。おそらく、左目――白側の目を失ったのだろう。ただ眼があるだけで、機能していないのが伝わってくる。


 予想外のカミングアウトに誰もが言葉を失う。


 「これは普段、特殊な塗料で両目を碧色に変色しているので知る人はおりません。つまり、この場にいる皆さんだけ知る事実ということです」


 「……なんか……めちゃくちゃ似合ってるな」


 冗談でも嫌味を言うわけでもなく、俺は思った通りのことをそのまま声にしていた。見た瞬間から言葉を失ったのは、あまりにもキレイな白黒の目だったから。


 「……そうですか?初めて言われたので私の方が驚きます」


 「ははっ、お互い様だな」


 次から次に言われる予想外の言葉に、慣れることはないフィティーは言われた分だけ笑顔を見せる。素直で、同い年なのに年下感がする。ニアよりも少し下の歳って感じ。


 やっぱりツンデレも良いけど、素直な子も良いよなぁ。


 「もしかして、片目が見えないのも剣技云々の成長に関わってるんじゃない?」


 「それはそうだろ。視野角が狭まるのはどんなことを行うにしても仇となるもんだからな」


 両目万全に機能したとしても、人間には死角が多い。背中はもちろん、1つに集中したら横に見えるものがだんだんと見えなくなる。そして片目が機能していないのなら、その3倍は上下左右に意識を割かなければならない。


 どう頑張っても両目機能してる相手に勝つことは、レベルの差が2つはない限りありえない。


 「ってことは呪い人で、片目を失った状態からスタートか……中々楽しそうだな!」


 人を指導するのは得意とは言えないが、その人を成長させるのは好きだ。レベル6の戦いはとても速く終わる。理由は言うまでもなく実力の差だ。だから長引くのはいつもレベル6同士の戦い。


 なら、それまでフィティーを成長させれば良いだけのこと。


 「それなら、フィティーの専属刀鍛冶になろうかな」


 この場にニアがいる意味、それは俺とルミウの刀を製作し強化するため。そして序に、リベニアの技術を知るためだ。しかしそれだけでは少し暇が出来てしまう。なので、善意からフィティーに聞いているのだろう。きっと専属刀鍛冶が居ないということを悟って。


 「ですが、私とニア様では刀の相性が悪い可能性も……」


 「それは大丈夫。私、刀鍛冶として【アウェイクニング】って固有能力持ってるから」


 「アウェイクニング……?」


 「アウェイクニングはどんなレベルの剣士でも、どの四星刀と相性の良い剣士でも、その人に合ったオリジン刀を製作出来るって能力なの。だから心配しなくても、私なら相性の良し悪しは関係ないから大丈夫」


 「俺、今初めて知ったんだけど」


 「私も」


 今日はリベニア1日目ということもあって、この国の現状を知るだけでもパンク寸前。なのにフィティーの事実や扱い、加えてめちゃくちゃ近くに居たニアの事実まで明らかになり、俺は人生で1番驚きを得た日を過ごしている。


 でも、謎は解決した。ニアが俺に完璧な刀を製作出来る理由と、短時間で製作出来る理由の2つが。


 類は友を呼ぶっていうが、才能に恵まれた人、俺の周りに多すぎないか?


 「どうかな?」


 優しく問いかける。否定出来ない空気感には全くならず、自分の思うような答えをはっきりと言える。そしてフィティーは答えた。


 「では、お願いしてもよろしいでしょうか?」


 まともな刀を手にしたことも無いであろうフィティーに、専用の刀が製作される。これほど喜ばしく、自分自身に希望が持てたことが今まであっただろうか。


 いや、無いだろうな。だってその証拠に、フィティーの顔に立派な剣士になりたいって書いてあるから。


 碧から白黒の両目に変わった今でも、何もかもを見透かすその両目の神秘さは健在だった。逆に本当に何もかもを見透かす目になったかもな。


 「うん!任せて!」


 ポンッと胸を叩き、合計で3人の刀を制作することとなったニア。刀鍛冶は相当な集中力と技術が求められるので、決して楽ではない。それを17歳の女の子が3人分やるのは、途轍もない重労働だ。


 ちょこちょこ和ましに行ってやるか。

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