第六十話 訪問者

 俺らに話を終えたフィティーは特殊な塗料とやらを、再び両目に塗り碧色の目に戻した。こっちはこっちで可愛げがプラスされている。


 このままだと本当に婚約まで行きそうなほど注視するので、視線はルミウとニアに振り分けるとする。


 黒白のオッドアイってそれだけで惹かれるだろ?このままだとマジで好きになりそうだから、なるべくドキドキはフィティー以外で摂取したいな。


 そんな今の状況と全く関係ないことで頭を使っていると、外に不審な気配を感じた。すぐに右手は刀を下げてある左腰に添えられる。


 俺の気派はその気配を否定していた。


 これって……。


 「ルミウ」


 「うん。フィティー、ニア、後ろに」


 「「はい」」


 完璧なまでの阿吽の呼吸で2人を俺とルミウの背に向かわせる。何が起きたか正確に把握出来ずとも、自分が周りに気をつけなければいけないということは理解した2人は躊躇いなく背に回る。


 そして念話を使う。


 『ほんの少しだが嫌な予感がしたんだけど、間違いあるか?』


 『いや、無いけど……何か引っかかるんだよね』


 『ルミウもか。俺もまだその気配感じるけど、似たような気配をヒュースウィットで感じたことがあるんだよな』


 『うん、同じく』


 こうなれば扉の向こう側を直接目で見て確かめるしかない。俺はフィティーに視線を向け、合図をした。それを完璧に理解したフィティーは言う。


 「今、扉の前にいらっしゃるのはどなたですか?」


 震えることなく、いつものフィティーの声色で問われたその相手はやはりこれも、予想外の出来事だった。


 「やっぱりここか!」


 そう言って聞き覚えのある声と共に扉を開け始める。まだ顔は見えないが、俺は警戒を解き、ルミウの背中に隠れる準備をしていた。いや、身代わりにする準備と言うのが正しい。


 ダンッと強めに開けられる扉。まるでエイルを思い出す。


 そして見えた女性。


 ……なんでここに居るんだよ。


 「おお!いたいた!やっほー!!」


 元気いっぱいに走ってこちらへ飛び込んでくる。完全にフォーカスは俺に向けられていたので、準備していた通り、ルミウの後ろに隠れることで抱きしめられるのを回避した。


 ルミウは飛び付かれても倒れることはない。体幹が神傑剣士の中で1番なので当然といえば当然。しかし驚きはしたようで、胸にうずくめる顔を剥がすときのルミウは目を大きくしていた。


 「えっ、えっ、誰ですか?」


 ニアが初めて見る変人に戸惑い、動揺を見せる。


 「そうか、初対面だもんな。紹介する、彼女の名前は――シルヴィア・ニーナ、ルミウの専属刀鍛冶で、知る人は皆、王国最優の刀鍛冶って言うほどの天才刀鍛冶だ」


 安全を確保した俺は余裕を持って答える。初めて回避出来たことに少し、成長を感じた。


 まぁ、いつもは抱きしめられても良いかなって思ってるから抵抗してないだけだけどな。


 「王国最優の刀鍛冶……それってすごくないですか?!」


 「めちゃくちゃすごいぞ」


 同じ刀鍛冶として尊敬するに値すると今この瞬間から思ったのか、キラキラとしたエフェクトの似合う目と開いた口が憧れ対象に向けるものだった。


 「シルヴィア、なんで君がここに?」


 「私ってルミーの専属刀鍛冶じゃん?だから国王に付いていけって言われたから来たんだよーん」


 シルヴィアはルミウのことをあだ名のルミーと呼ぶ。初対面から変わってないらしく、唯一の存在でもある。しかしルミウは全員統一して君と呼ぶか名前を正しく呼ぶかの2択。


 いつかイオナくんと呼ばれて抱きつかれるのが夢です。


 「国王が?」


 「うん。なんでもルミーとイオナが御影の地に行くなら確実に何かを得て帰って来るって信じてるらしくてね、だから王国よりもルミーたちを全力でバックアップしろ、とのことで派遣されましたー」


 「そうなんだね」


 「めちゃくちゃプレッシャーかけられた気分なんだけど」


 信じてもらえるのは嬉しいが、何も成果を得られず、最悪御影の地から戻らなかったらどうする?王国最強と謳われる剣士でも戻ってこれなかったって教訓が出来るだけだぞ。


 「久しぶり、イオナ!」


 「はいはい……久しぶりサイコパス女」


 ルミウの次は俺に飛び付き、俺は逃げることなくそのまま受け止めてやる。どうせ納得行くまで飛びつかれるんだ。なら早めに終わらせるのがいい。


 「そして、私のライバル――ニアちゃんはじめまして!」


 「ラ、ライバル?――うわぁっ!」


 最後にニアに飛び付くことで終わるかと思われたが、このシルヴィアという女は、敬語を知らぬ第4座シウム・フォースと似た性格のため、もちろん他国の王女であるフィティーにも抱きついていた。


 フィティーはそれを優しく受け止めるものだから、相当性格いいんだと思った。初対面の俺なら絶対に振りほどく。


 「ってかさ、私正直必要ないんだよね」


 「なんでだ?」


 「王国最優とか言われてるけどさ、多分固有能力持ってるニアちゃんの方が私より優秀だと思うんだよね」


 「そんなことないですよ。私、集中力も体力も平均以下なので、いつもイオナ先輩には時間を多く貰ってますし」


 「俺が思うに、四星刀ならシルヴィアでオリジン刀ならニアだな。だからどっちも需要あるから必要ないことはないだろ」


 「あー、やっぱりイオナ様々だね!もう1回抱きついていい?」


 「無理」


 これはあと何回帰国までにするだろうか。多分余裕で3桁は行くだろう。


 あぁ、疲れる。

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