第五十八話 フィティー・ドルドベルクの過去

 「行って帰ってこれないのに、なんでそれが分かるの?」


 ごもっとも、誰もが思ったことをニアが進んで聞く。気になったことはすぐに質問するタイプの優等生であるニアは、こういう場面ではとても助かる。


 ってかいつの間にか敬語使うの止めてるし。一応年上の他国の王女さまなんだけどな。


 「それは、私が実際に体験したからです」


 何を言うかと思えば御影の地へ自分自身が向かったと言い始めた。今まで誰も帰ることは出来なかったと言うのに、矛盾している。


 「昔の話、それも私が生まれてすぐの話です。生まれた瞬間からレベルが決められるこの世界に、私はレベル6の特異な存在として生を持ちました。もちろん全国民から期待を寄せられました。これから先の人生に立ちはだかる壁もないだろうと。しかし後日、私はあることを知りました。それが、フィティー・ドルドベルクはレベル6にして剣技と気派を扱えない呪いをかけられた子供だと」


 淡々と語られる過去は俺たち3人の予想を軽々と凌駕していた。だから驚くことも聞き返すこともせず、話し終えるのをただ待っていた。


 「皆さんもご存知の通り、この世界で言われる――呪い人と言われる存在です」


 呪い人とは、生まれつき死後、魔人になることが決められた人間のこと。つまり、どんな負の感情を抱かなくても、死ぬと強制的に魔人と化すのだ。


 そして呪い人には特定の呪いがある。フィティーのように剣技や気派が扱えない体質になるか、何歳までに魔人になるということもある。種類は様々であり、解く方法は未だに見つけられていない。


 「なので私は王族から呪い人が生まれるのはまずいからという理由で1度、御影の地へ捨てられました。薄暗く、ここから先は絶対に入ってはいけないと幼い本能で察知出来るほどの危険を体で、頭で覚えたのを忘れません。そこでまだ1歳にも満たない私は温かい布に包まれながら、誰かが来るのを待ちました。しかし当然のように誰も来る気配はなく、私は泣き叫びました。するとそんな私に一筋の光が差し込んだんです。1人の若い女性が、私を見て足を止め、抱え込みながらニヤッとして1言『お前は帰りたいか?』と。それに言葉も話せない私は全力で泣き叫ぶことで応えました。帰りたいと。そしたら、続けて女性は言いました『そうか、それなら帰る前に、お前の目を対価にこの地について教えよう』と。私は何を言っているか理解出来ないものの、この人の話に頷けば帰れるのだと思い、言われるがままに対価を支払いました」


 「……ってことは……もしかして」


 「はい、そのもしかしてです。現在、私の左目は機能しておりません。そう、左目を対価に御影の地について教えてもらったんです。それが重要なことなんて分からない歳の私には大きすぎる対価でしたが、今こうして話してみるとそうでも無いと思いますね」


 ニコッと薄っすら笑みを浮かべるが、そんな気持ちではいられないほどの話を耳にした俺たちは言葉を失っていた。何を言い出そうか考えるだけで、今の話をなかったことに出来ないかと必死に思っていた。


 「……気になることがある。フィティーは今、御影の地で女性を見たって言ったけど、御影の地に生存者がいたの?」


 気になるとこが全て賢さを垣間見せる。ルミウは質問ですら神傑剣士第1座らしい。ルミウもいつの間にか敬語使ってないし。意外と対応早いコミュ強の2人なのか?


 そんなルミウの何かを明かすような質問に、フィティーは間をおいて答える。


 「確かに目にしたのは魔人ではなく、人間の女性でした。ですが、生存者と言われれば頷けません。私は御影の地に完全に足を踏み入れたわけではなく、近くに捨てられた身であるので女性が女性であること以外は分かりません。もしかしたら――人間の体をした魔人であり、私たちを御影の地へ誘うため、私を生かして外に追いやったのかもしれませんし」


 「確かにな。これがフィティーの作り話なら今すぐ帰国するが、どうやら本当らしいしな。それに、まだ1歳満たない子供が、女性の言葉を鮮明に覚えれるわけがない。ってことは事実であり、俺らに御影の地へ来いと伝えているようなものだろ」


 魔人は謎が多く、御影の地はさらに未知。ならば俺らのような念話を使える魔人もいれは、念話の上位互換も扱える可能性だってある。


 つまりは、幼子に記憶を植え付けることだって可能というわけだ。これが正しければこれから先の道が照らされるのだが、正解不正解すら無いのだから未知は未知のままだ。


 「とりあえず、私が知ることはここまでです。お役に立てましたか?」


 「めちゃくちゃな。ありがとな、フィティー」


 「いえ」


 感謝されたことのないフィティーにありがとうはとても響いたらしく、一瞬ホワッとした空気感を漂わせ、すぐに笑顔で応えてくれた。


 「フィティー、君は御影の地へ私たちと一緒に行く気なんだね?」


 「流石です、ルミウ様」


 真意を読み取ったルミウはハズすことはなかった。フィティーが俺を指名した理由から、この話までの辻褄を合わせ導き出した答え。それがこれだった。


 「えっ、どういうことですか?分かります?イオナ先輩」


 1人分からない美少女がいるので分かりやすく説明する。


 「フィティーはその女性の真意を知りたい。だから御影の地へ行きたい。でも剣技も気派も扱えない呪い人。そんな時、御影の地へ行くという同じ目的の俺を知る。なら俺に剣技と気派の扱い方を教わり、レベル6として戦えるまで成長すれば御影の地へ行ける。だから俺を呼んだ。ってとこだな」


 「おぉーなるほどです!流石イオナ先輩」


 「それほどでもー」


 これでこの場にいる全員が何故呼ばれたのか、そしてこれから何をすれば良いのかを理解した。

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