第五十六話 それぞれの思い
流石に頭を下げ続けるのは限界。目の前に王女だけならそこまで自由をとっても問題はないだろう。
バッと顔を上げると、黄金色の髪を後頭部で綺麗にまとめ上げ、両方碧色の瞳をした、155cmぐらいの王女が立っていた。何もかもを見透かすような神秘的さを感じる目つきと色合いは、自然と惹き込まれる。
「お初にお目にかかります――フィティー王女。この度、ヒュースウィット王国から参りました神傑剣士第7座――シーボ・イオナと申します」
続けてルミウ、ニアとそれぞれ分かるように挨拶をする。
「はしめましてイオナさん、ルミウさん、ニアさん。私はリベニア王国第1王女――フィティー・ドルドベルクです。以後お見知り置きを」
先ほどと変わることない丁寧な作法での挨拶。変わったのは雰囲気だけ。
「ここでお話するのも失礼ですので、私のお部屋にて続きを話させていただきましょうか」
「はい」
やっと立てる。意外とこの片膝をつけ続ける姿勢は疲れる。単に俺の関節が弱いからではなく、落ち着きがない俺は長時間動かないことは無理があるのだ。
そんなことを思いながらも付いていく。
広い通路をフィティー王女1人だけ前に、3人は横並びで歩く。右を見れば芸術とは深いと思わせられる、意味を全く理解出来ない肖像画があり、左を見れば剣士の銅像が今にも動き出しそうなほど躍動感を出して固められている。
でも正直両手に花を添えて歩く俺は、左右どちらを見ても可愛いと美しいが視界に入るので、そんな惹かれもしない飾りに目を奪われることはない。
「なぁ、あの国王どう思った?」
静まり返ったこの場で大きな声を出せるわけもなく、ルミウの耳元でこそっと問う。
「私は好きじゃないかな。才能ない剣士のくせに、国王だからって怠惰の限りを尽くすようなデブには、剣士としてまだまだなんて絶対に言われたくないね」
「だよなー」
普段丁寧な言葉遣いしかしないルミウが、ここまで言うんだ。相当ムカついたってことだろう。めちゃくちゃ分かるぞ。
美人剣士としては似合わない発言でも、1人の女性としてはギャップを感じるほどなので見ていて気持ちが良い。
「ニアは?」
首をクルッと回して今度はニアに聞く。当然、どれだけコソコソしても、近過ぎるニアには聞こえているので、質問内容を聞かれることはない。
「私もルミウ様と同じで嫌いです。王族として剣技を使いこなせないからって普通あれほどのことしますか?私からしたら信じられませんよ」
プンプンという効果音が効きそうなほど可愛らしく頬を膨らませて怒るニアは至って真剣だった。なんなら、俺とルミウよりも血管ブチブチ寸前のようだ。
「ニア、私のことはルミウって呼んでいいよ。ここはヒュースウィットじゃないし、年齢差なんて無いようなものだから。それと敬語も不要だよ」
「おいおい、話変わり過ぎてびっくりしたぞ。それに、いきなりはハードル高いんだぞ?常に1番上のルミウ様は分からないだろうけど」
「うざい。君には話してない」
「デブジジイの怒りを俺にぶつけるなよ……」
「な、なんとか期待に添えるようにしま……するよ」
早速おぼつかない喋り方。まぁ、この場でわかった!って言ってすぐに敬語辞めれる人間もそうそう居ないだろうけど。
「俺には自由で良いからな。好きなように、気楽に喋ってくれればそれでいいからな」
「分かりました」
天使の微笑みで返される俺は、どうだこれが後輩への接し方だと言わんばかりにルミウに向かって胸を張る。それを見てイラッと来たのか、首を1度傾けて子供は相手にしてられないと言われたような気を感じた。
お互いまだまだ大人にはなれなさそうだ。
これを小声でヒソヒソと交わしているのだから、傍から見れば変人の集まりか、王女を嫌う集団に見えるだろうが、この場には護衛すら存在しないのでそんなことは起こり得ない。
「とはいえ一筋縄では終わりそうもない任務だね」
「そこは何とかなるってか、何とか俺がするから心配しなくてもいいぞ。問題あっても、時間さえあれば解決出来そうだし」
「ホントに?もう解決策を見つけてるの?」
「いや、それはこれからだな。でも不思議と出来ないっては思わないんだよ」
きっとルミウの心配は杞憂となる。実際、心の奥底から俺なら出来ると謎の自信が込み上げてくるので、これが正しければ最善の策でフィティー王女をその通り、レベル6として成長させれるとは思う。
問題なのはその後だ。アフターケアをどうすればいいのかが1番の壁。たとえフィティー王女がレベル6として不足なしとなっても、剣技の才のない王女としてのレッテルは完全に取り除かれるわけでもあるまい。
んー、俺に賢いことは向かないな。
俺はいつでも力で解決してきたバカだ。試行錯誤なんて俺から最も遠い存在の言葉かもしれない。
「私はイオナ先輩を信じてますよ」
「やっぱりルミウよりニアの方が癒やされるな」
「そうやって女性を区別してる時点で、男性としては最低だと思うけど?」
「私は思ってないですからね?」
「ルミウ、もしかしてお前だけが俺の敵なんじゃないか?」
「……はぁぁ……勝手に思ってて」
呆れたと、ため息に全てを込めて吐き出す。ニアは言葉で伝えてくれる素直な子だが、ルミウはツンデレなので真逆だ。
だからこうして呆れられるのも気分はいい。
あっ、ドMではないからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます