第二章 リベニア王国編

第五十五話 リベニア入国

 雲1つない快晴の下、俺たちは3人揃って隣国・リベリアに入国し、既に王城内で片膝をついて玉座を前にしていた。


 「遠路はるばる、ヒュースウィット王国からご苦労だったな――神傑剣士とその専属刀鍛冶よ。余の名はバルガン・ドルドベルク、知っての通りこのリベリアの国王だ」


 濁点の多い名前だとは思いつつも、一切動くことなく真剣に聞いてますよ感を出して面は上げないままだ。


 膝をつく前に顔をちょこっと見せてもらったが、国王と言われて安易に想像出来る顔と大差ない顔をしていた。肥満体型であり、右手に刀の形をした杖を持ち、堂々とした威厳ある態度はまさに国王。


 痩せる努力をした方がいいな、これは。


 「早速なんだが、お前たちに紹介をしよう。ほら、彼らの前に行きなさい」


 玉座のすぐ右手側に立っている、俺と同い年と思える少女の背中を叩き、乱暴な杖使いで前に押す。それは奴隷や咎人に対して行う扱いとほぼ同等。見ていて冗談とは思えぬ空気感に、これが彼女に対する扱い方の基本なんだとは秒で理解出来た。


 見ていて気分悪いな。


 そんなことをされても顔色1つ変えない少女は、口を閉ざしたまま手を体の前で重ね、あくまでも王族家だということを知らしめるように丁寧な作法で一礼する。


 「このような不作法を見せてしまい申し訳ない」


 「いえ」


 俺はこの場に来て初めて不快感から言葉を発した。だから少しでも俺の気分を害したとは思わせないように、1言で済ませた。


 「名前をフィティー・ドルドベルクと言う。一応余の娘なのだが、余と違って、どうも剣技の才に恵まれなかったようでな。最悪でも、この王国の神託剣士と肩を並べれる程度には鍛え上げてあげてくれると助かる」


 自慢の癖のある髭を何度も触りながら、不作法なのはどっちだと言わんばかりの目つきと態度で俺たちへ頼み事をする。


 こいつ1回殴るか?……まじで殴りたいわ……。


 込み上げる複雑な感情をしっかりと抑える。こういうやつを見るのは、リュートとかいうバカをボコして終わりと思っていたが、それよりも強大で権力に溺れたジジイが今度は相手になるってことか。


 俺は御影の地へ向かうための情報収集ついでに師匠となる契約だったが、そんなトントン拍子で進まないってことらしい。


 「失礼ですが、フィティー王女のレベルはどれほどか聞いてもよろしいでしょうか?」


 勝手に顔を上げることは出来ない。なので下を向いたまま問いかけるが、正直このジジイ自体、礼儀を知らなさそうだからここで無礼を働いたとこで問題も起こらない気もする。


 まぁ、それでもヒュースウィットに迷惑がかかるのは俺も避けたいから、我慢だな。ってか俺我慢しすぎじゃね?長男かよ。


 「ああ。フィティーはレベル6だ」


 「……えっ?」


 戸惑った。そして、こいつは冗談を口にしているのか?と俺の頭の中で連呼された。レベル6が剣技の才に恵まれない?いやいや、信じられない。そもそもレベル6の存在はどの王国ですら稀の稀だ。レベル6だけで才能があると言えるレベルなのに、それを軽々と口にするのだから無理もないか。


 何より、気派がレベル6ではなくレベル2なのだ。俺の目の前では偽ることは出来ない気派だから、今まで読んできた気派はハズレたことないのだから、余計に信じ難い。


 「フィティー王女がレベル6なのは理解しました。その上で聞かせてもらいます――失礼ながら、フィティー王女は人間でしょうか?」


 黙って聞いていたルミウも流石に信じれなかったのか、真剣な面持ちでジジイと目を合わせて問いかけた。


 「はっはっはっはっ!!面白いな、ルミウ・ワン。何を言うかと思えば、フィティーを侮辱するとは。見る目があるな」


 何も面白くないし、侮辱もしていない。


 誰かこの豚の口に猿轡を咥えさせてやれよ。そろそろ俺たちの不快度マックスだぞ。


 「余もフィティーを同じ王族として扱ったことは無いが、流石にどう見ても人間だ」


 「そうですか。侮辱したつもりはありませんでしたが、無礼を働いたことを謝罪いたします。フィティー王女、申し訳ありません」


 フィティー王女にだけは気持ちを込めて頭を下げる。ルミウも人間だ。関わる相手を選ぶのは当然のこと。


 それより気になるのは、同じ王族として扱ったことがないということ。やはり剣技の才がないことで、今までぞんざいに接されたのだろう。


 どこの王国でもクズはいるらしい。それも、俺たちの嫌がるピンポイントを突いてくるクズが。


 「他になにか聞きたいことはあるか?」


 「いえ、ございません」


 「ならば余は戻る。フィティーは好きにして構わん。どれだけ厳しく教えようとも、死ななければそれでいい」


 「……了解いたしました」


 苛立つ感情を下唇を噛むことで抑える。昔、親から捨てられた身の俺は、誰よりもフィティーの気持ちを知っている。共感なんて今は出来ないが、きっと限界に達した結果、こんな人形のような人格に育ったのだろう。


 憎しみすら感じない。多分フィティーは、感情という感情が存在しない。指示待ち人間と化してしまった可能性がある。


 全く、用事を増やしやがって。


 重たい体を玉座から引き離し、神託剣士を3人護衛に付かせたままその場から立ち去った。隙だらけの背後にいつでも切り込みに行きたかったのが正直なところ。


 そして、この場に残るは4人だけとなった。

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