第五十二話 覚悟

 1日目を終えたのだが、実はそれが最初で最後である。


 神傑剣士が学生だとしても、一騎討ちをすれば絶対に負けないことは明白。それに蓋世心技を使うとこを見せたのなら恐怖で全員が辞退するので、どの道俺は一騎討ちをすることはなくなった。


 だから5日目の終盤、俺は変わらず神傑剣士第7座にいる。


 いつもの自分視点では見られない学生たちの一騎討ちに歳相応の心を踊らされる。どの勝負も接戦しかなく、圧倒的な勝利がない。だから興奮は冷めない。


 ――そしてフリード学園最後の一騎討ちに、俺が手を挙げることで勝敗を付け、全日程の終了となった。精錬された剣技に伸びしろのあるまだまだ完成に届かない剣技、今までまともに刀を振ってこなかった意識の低い剣技など目で見て、得られるものは多かった。


 これもまた一種の勉強かもな。


 現在の時間は15時。一騎討ちが終了した今、俺たち神傑剣士は12名揃って会議室に呼び出されていた。


 「皆、お疲れ様。特にイオナはね」


 「はい」


 間違いなくこの中で疲れたのは俺だ。それを優しい笑みで国王は労うように声を掛けてくれる。


 「無事にフリードの一騎討ちを終わらせることが出来て何よりだよ。それで、君たちをここに呼んだ理由なんだけど、それはもう分かってると思うから簡単に――神託剣士になり得る逸材は見つけられたかな?」


 俺たちがなんの理由もなく、ただ審判をするためにあそこに座っているはずがない。神傑剣士は自分の弟子を見つけるためにあの場に座っているのだ。


 「イオナがこの王国を出ることはとてつもないダメージを受けることになる。だからその代わりにイオナの戦闘力を補えるほどの剣士を育てないといけないのだが……その様子じゃ誰も見つけられなかったみたいだね」


 誰も見つける事が出来たとは口に出来なかった。


 そう、これは俺が冒険をするが故に起きた問題だ。


 神傑剣士でありながら国を守らず、国外の調査へ向かう。普通ならあり得ないし許されない。だが、俺だから許された。実力は歴代最強と言われ、同じ神傑剣士ですら圧倒してしまう力に誰もが期待する。


 イオナなら御影の地から帰ることが出来るのではないかと。


 だから俺はこの王国の期待に背中を押されて向かうのだ。


 「すみません、陛下。俺の実力不足で学生を鍛えることが出来ませんでした」


 「嘘付くな、元々やる気なかっただろ」


 「うるせぇ」


 メンデの嘘に鋭くツッコむ。この男は時と場合を考えずその場しのぎをするので、そういった悪い部分は直してもらいたい。


 「ははっ、別に気にしなくても、今は神傑剣士が苦戦するほどの相手は存在していないから大丈夫だよ。それよりイオナは良いのかい?長い間神傑剣士とは会うことは出来なくなるんだ。今のうちにたくさん話したりしないと、後悔するかもしれないよ」


 「それもそうですね」


 このまま御影の地へと直行とは行かないだろうが、最後になるかもしれないことには変わりない。11名の剣士と一生会えなくなる可能性だってあるんだ。


 そう考えるとなんだか感慨深いな。


 「では、私はいい頃合いになったら戻ってくる。その際はイオナと2人で話をするから、他のみんなには退出してもらうよ。だから存分に話してくれ」


 そう言って国王は身軽な足取りで会議室を出て行き、この場に神傑剣士だけが残った。


 「結局、御影の地に付いてくる仲間はいないか」


 「まだ死にたくないからな」


 「30歳が18歳にそんなこと言うなよ」


 後頭部で腕を組み退屈さを顕にして欠伸を1つ。メンデはいつだって変わらない。


 「せっかく時間貰ったけど、長々と話すこともないから、1人1言ずつ歳下から歳上に向けて偉そうなアドバイスして解散するか。どうせ俺は御影の地から帰って来るし、帰って来ないことに心配し始めたら、11人全員するだろうしな」


 団結力ならこの世界で1番だと胸を張って言えるこの集団。だから俺は確信してる。たとえ御影の地から帰って来た人間が0だとしても、そこに神傑剣士の誰か1人が足を踏み入れれば命の限りを尽くして加勢に行くと。


 1人で向かうの寂しく感じるわ。


 その寂しさを紛らわす序に、思いついたのが全員茶化して解散。これが俺のやり方だ。


 いやでも、マジで一生の別れじゃないから、泣くとかそんなとこまではいかないぞ?長くて5年とかだろうし、その間に神傑剣士が変わることもないだろうから安心してるまである。


 「じゃ、順番に第1座から言うか――ルミウは……やべっ、1番目から完璧過ぎて指摘出来る欠点がないわ……」


 「君は相変わらずだね。全くもって剣技の才能以外はダメなんだから」


 「違うな、欠点がない神傑剣士が悪い。だから俺は悪くない」


 5秒考えれば欠点が無いことには誰でも気付く。近くにいたのに忘れるとは、灯台下暗しと言って言い訳も出来ない。


 こんな仲間と陰ながら行動を共に出来たことは俺の成長に繋がったかもな。


 「俺から言えることは1つだ。次会うときに、第1座ルミウ・ワン、第2座メンデ・トゥーリ、第3座ノーベ・スリープ、第4座シウム・フォース、第5座ラザホ・ファイス、第6座ブニウ・シック、第8座ボーリ・エイル、第9座ハッシ・ナイト、第10座マイト・テンラン、第11座ダムス・レブン、第12座レント・トゥウェル、この並びが変わることがなく、変わってもこの中での順位で、誰も神傑剣士から欠けることなく星座に座していろよってことだ」


 不可能ではない。次がいつか分からない今でも可能だとは思っている。それほど俺は信頼しているんだ。きっとまた第7座として帰って来た際に、この11人と笑い合えるだろう。


 そんな俺の発言に、全員がクスクスと密かに笑う。似合う似合わない無しで不気味だった。そしてバッ!と一斉に立つ。


 「「「了解」」」


 一斉に発した俺への返答は、心に真っ直ぐ飛んできた。胸の前で掲げられる刀に全ての意味が込められる。


 「はははっ!やっぱりここは最高だな!」


 これで神傑剣士は、俺との再会まで今の地位を維持することが義務付けられた。義務でなくても遂行してくれるだろうが、これが神傑剣士のやり方なんだろう。


 俺は11名の期待を胸に、新たな覚悟を決めた。

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