第四十九話 第7座シーボ・イオナ
聞いてピンときたようで、でもリュートは納得出来ないという面持ちで左膝を地面に付けていた。
「俺の固有能力は優秀でな、お前みたいな慢心ボーイにはスカッとさせてもらえるんだよ」
「てめぇに、固有能力だと……レベル3のくせにか?」
まだこれだけの剣技を目の前にして、俺のレベルを偽りとは思っていない。俺に興味がないからではなく、信じられない光景にパニックになっているのだろうか。こんなやつがレベル5?この王国の0.1%?笑わせるなよ。
「違うぞ。レベル3なんかじゃない、それよりも上の存在なんだよ」
「はぁ?バカ言うなよ、じゃあなんでお前はレベル3として学園に通ってたんだ。不正でもしてたのか?」
「不正なんかではない。正式な段取りで俺はレベル3として嘘を付いていたんだ」
「嘘……?」
「ああ。国王の命令でな」
この場にて俺を止めるものはいない。縛りもない。ならば俺は全てを曝け出し、国民と、このアホ面のバカに名と地位を証明する。
左ポケットに手を突っ込み、五角形のど真ん中に小さく7と書かれた神傑剣士の印を取り出す。それをリュートの目の前に掲げる。
「改めて自己紹介をする――俺はこのヒュースウィット王国、神傑剣士第7座に座する――シーボ・イオナだ」
その場が静寂に包まれる。誰も声も発しない。そんな中で1番に口を開いたのはやはり目の前の男だった。
「はっ……はぁ?……待てよ……てめぇが……神傑剣士第7座……だと?」
「そう言ったんだが?」
印は世界で1つであり、国民に知れ渡っているものなので目の前に提示される印が第7座の印として本物だということを証明していた。
だからリュートは動揺する。今までイジメていた、弱者として見下していた男が、実は王国最強と謳われる剣士だったとは思いもしなかっただろう。
刀を握る手は震え、地に付けられた足は両足。両手も地面に付けられ、頭は空も俺すらも見ることはしない。絶望の淵に落とされた気になったようだ。
「信じるか信じないかはお前の自由。だが、お前以外は信じてるみたいだな」
だんだんと聞こえ始めた歓声、いや、驚きの叫びや第7座が現れたことに対する喜びが俺らの耳元へと届く。投影機先の国民もお祭り騒ぎを起こしているようで、そんなに第7座って人気なのかと勘違いする。
人気じゃなくて、存在したんだって驚きだろうな。なんか寂しいし、悲しいわ。
「お前がどれだけの人間か、それはもう知れたし今から四肢を斬り落としてスカッとすることでもない。だからこの場で俺は、お前のこれからの人生を潰すことにする」
「まっ……待ってくれ……いや!待ってください!」
崩れきったリュートに腰を曲げて視線を合わせる。
「お前、俺が待てと言って待ったか?ニアへの侮辱をやめろと言ってやめたか?」
この先することは何が起ころうと決められている。こいつがこの王国を救うことがあっても俺はやめない。復讐をする義務があるから?いや、こいつを少しでもまともな人間へと導くためだ。
「お前と会うのはこれで最後だ。だから教えてやるよ――俺の固有能力は【レベリングオーバー】と言って、己の剣士レベルによってそれ以下の心技を自分と同じレベルの心技として扱うことが出来るというものだ。だから、今の居合も本当ならどれだけ鍛錬してもレベル2としての居合だった。それが俺の能力で強制的にレベル6の居合となったからお前は負けたんだよ」
レベル1の剣士は全ての心技を使えない。レベル2は心技が使え、その上が使えない。レベル3は遊心技、レベル4は繊心技。レベル5は極心技でレベル6は蓋世心技を使いこなせる。
どのレベルもそれ以上の力は発揮することは出来ない。故に俺が極心技を使えても、レベル5は蓋世心技は使えない。
そして俺はその全ての心技をレベル6として扱える。ルミウもメンデもレベル2はレベル2、レベル3はレベル3としてしか扱えない。
蓋世心技を使える身なら、常に最大の心技を扱えるのでそんなに問題ないと思われるが、それは違う。心技と蓋世心技は消費体力が天と地ほどの差があるので、常に蓋世心技を使うより圧倒的に消費量が少ない。
「ほら、立て。そろそろ終わらせないと、次の奴らが退屈するだろ」
「続けて……どうする……のですか?」
神傑剣士には誰であれ敬語だ。このリュートですら敬うほどの地位。満足かと聞かれれば満足と答えるが、実際は隔たりがあるのは好きではない。もっとラフな関係が好きだ。
にしても、縮こまっちゃってー可愛い可愛い。
「お前を倒すんだよ。約束忘れたのか?俺に負けたら二度と誰も見下さないって。だから敗北させてやるんだ」
「それは……」
「逃げるのか?お前は承諾したはずだろ。この場にて降参は出来ないぞ。だって、神傑剣士は誰1人として手を挙げてないんだからな」
「……はははっ……そうですか、いや、そうかよ……」
震えながらも刀を地面に突き刺し支えとして使う。丁寧に扱わないところは絶対に変わらない。性に合わないと思ったのか敬語もすぐに使うのをやめた。
「神傑剣士とも有ろう剣士が、ただのレベル5に何のハンデもなしに戦うわけねぇよなぁ」
「……は?何言ってんの?お前。ハンデとかこの場において甘えたこと言うなよ。恥ずかしいぞ」
「うるせぇ。てめぇの提案にノッてやったんだ。次はこっちの提案にノれよ」
ガキなのは変わらない。どんなハンデを貰おうと俺の勝ちは決まっている。
良いか、ノッてやるのも。
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