第四十八話 心技・居合
キンッ!と激しく音を立て、リュートが仰け反るほど強く弾かれた刀は、宙を舞うことはなく握られたままだった。以前までなら絶対に離していただろうに……こいつもする時は成長するんだな。
「なぁ、リュート。これ、誰が製作した刀だと思う?」
ホルダーから黒真刀と交換するようにオリジン刀を取り出す。
「あぁ?てめぇの専属刀鍛冶だろ」
「正解だ。そしてその専属刀鍛冶をお前は罵倒した。だから俺は今からこの刀で、お前を倒す。そしたらお前は罵倒したことをニアに謝罪し、今後一生誰も見下すことはしないと誓え」
謝罪されたとこで俺の気は収まらないが、されないよりましだ。
「……ははは、良いぜぇ。お前が勝てるならなぁ!」
本当に察しの悪いやつだ。どう考えてもお前の剣技を受け止めた俺がお前に負けるわけがないのに。
「それで提案なんだが、俺とお前、どっちが速いか勝負を決めないか?」
「はぁ?どういうことだ」
「業火の太刀は力技。それなら俺がお前よりも力があれば受けきれる。だが刀を扱う速さなら100%才能で勝敗がつくだろ?」
レベル5の剣技をレベル3が止めるのはあり得る。それは刀が折れず、素の力で勝っている場合。なので剣技が使えずとも凌ぐことは出来る。しかし速さは別だ。最短で相手の急所を狙い、動かすのは力ではどうにも出来ない。故に今までの鍛錬と元の才能の差が生まれる。
「だから、心技で勝負をするんだ。それも最速で終わる心技でな」
「最速……ははっ、そういうことか」
心技最速、そう言われてピンと来ないほどバカではないらしい。まぁ、バカなのは変わらないが。
「居合で勝敗をつけるって言いたいのか」
「そういうことだ。居合なら完全実力勝負だからな」
レベル2以上なら誰でも使える剣技、それが心技だ。
「そっちの方が面白味があるじゃねぇか。ノッた」
俺自身、楽に勝ってその上でスッキリする勝ち方をしたかった。だからリュートを俺の得意な領域に誘い込んだのだ。見事に釣られるのは当たり前だが、まだ勝てるという自信が消えていないのは不思議で仕方なかった。
そして両者刀を鞘に戻す。
間合いはお互いそれぞれの感覚で良し悪しがあるが、ここは統一して距離を3mにする。この世界での3mは相手が自分より上の剣士なら死を覚悟する距離だ。しかし居合をお互い任意でするのなら丁度良い距離。
国民は、フィールドで刀を交えずに話をしている俺たちをなんと思って見てるのだろう。一騎討ちが始まってすぐに騒がしくなった闘技場も、今は開始時と同じ程に静かだ。
これから騒がしくなるから、嵐の前の静けさとでも思おうか。
「このコインが地面に跳ねたら、その瞬間にスタートってことにしよう」
「文句ねぇ。今のうちに負けた時の言い訳と、誰に癒やしを求めて縋りに行くか決めとけよぉ」
「それはこっちのセリフだ」
一応縋るならルミウかニアのどっちかだな。迷うが多分ルミウだ。俺は美少女より美人がタイプである!
ポケットからコインを取り出した俺は、人差し指と親指の交わる上にコインを載せる。人の目玉ほどのコインはこの王国の通貨だ。持ち歩かない日はないので助かった。
「いくぞ」
親指を勢いよく上に弾き、コインも高く上げられる。クルクルと回りながら落ちる様を目で捉えるのは俺たちだけではなく、この場にいる全員がそうだ。
神傑剣士だって面白そうなことが起こると分かっているので、身を乗り出してまでコインを見ている剣士までいた。
残念だがリュート、お前に勝ちはない。俺は心技ですらも、この王国を蹂躪出来る力を持っている。そしてそれを今ここで発揮しようとしているんだ。だから、そんな腕に全てを込めなくても――何も変わらないって。
コインが刀と刀が交わるよりかは低く、でも確かに耳には響くキンッ!という音。
「「心技・居合」」
叫ぶようにリュート、落ち着くように俺が剣技名を口にする。
右手で鞘から抜け出す刀は正確に俺の右脇腹を狙う。それを目で捉え、これ以上ない正確な太刀筋でリュートの刀を横から叩きつけるように斬り込む。
態勢は申し分ない。綺麗すぎて見惚れると神傑剣士に言われたこともあるほど。低い態勢からの右脇腹への斬り込みは悪くなかったが、相手が悪かったな。
バキンッ!
気付いた時にはリュートのオリジン刀は真っ二つに折れ、首元には刀が掛けられていた。今すぐに斬られても可笑しくない。いや、敵なら死んでいた。
直立不動から繰り出された目にも留まらぬ速さでの剣技。
「……なっ!……お前……」
「どうした?」
「い、居合で勝負だったはずだろ!何故別の剣技を使った!」
この状況に焦りながらも俺が首を斬らないと知っているので口を開く。そして発したのは俺が不正を働いたという、
実に見苦しいな。負け認めろよ。
「俺は正真正銘、心技の居合を使ったぞ。ただそれをお前が視認出来なかっただけで俺を悪者にするなよ」
「何を言ってんだ、レベル3のお前が居合を俺よりも上手く使いこなせるわけがないだろ!たとえ使いこなせても、レベル3とレベル5なら絶対に俺が勝っていた!」
「だーかーら、それはお前の問題だって」
本当はリュートの問題ではない。今この場にいる者、そして投影機から見ている者は誰も視認出来てないのだから。
「お前も知ってる能力を、俺が使って勝っただけ。それは不正じゃない」
「能力……だと?」
「ああ、聞いたことないのか?【固有能力】って」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます