第四十五話 証明完了

 昼食を済ませ、午後の模擬戦が開始される。ルミウは用事があるらしく、今日は遅れてくると伝えられているらしい。


 ナイスタイミング過ぎるだろ。


 周りでは俺らに構わず各々模擬戦を始めている。リュートたちは俺に対して敵意の視線では無く、見下す視線を向けているが、その中に俺がボコしたかったという気持ちも込められている気がする。


 どんな理由であれ、気持ち悪いのでこっちはあまり見ないでもらいたい。


 「では早速だが模擬戦を始める。形式はどちらかがリタイアを宣言するか、戦闘不能になるまでだ。それ以外に制限はない」


 つまりは俺に繊心技を使っても問題はないということ。完全に俺を負かすために適当に決めたな。


 なぜ俺が、まだ素性をバラしてはいけない俺がこうして挑発に乗っているのか、それはメンデへの恩返しだ。メンデは俺の国務を嫌そうにでも手伝ってくれた。だから少しでも守護剣士として使える生徒を掘り出せるようにこうして遊びに付き合っている。


 俺が刀を交え、レベル4を負かすことで周りは焦る。そして道が分かれる。もっと鍛えなければと高みを目指す者と、たまたまだと言い鍛錬を怠り、守護剣士すら目指そうとしない者。


 どっちに転がるかはそいつ次第。だが俺はその機会を作るための材料に過ぎない。だからこの場でちょこっと本気を出してやる。もちろんバレることはない。


 「あ、あのスカイ先生」


 「ん、なんだいダース」


 「これはテンラン様にバレたらよろしく無いのではないでしょうか……」


 まるでイジメられている俺のようにおどおどした喋りでスカイに問う。内容は誰もが気になることで、ルミウから話を聞いているだろうテンランの耳に入るとすぐに止められる。


 理由は単純にテンランが認めていないから。模擬戦での戦闘は問題ない。しかし、優劣を付けるための模擬戦を、教師を挟んで行うのだからテンランの気に触らないはずがない。


 「それなら許可を取ってある。だから問題ない」


 「そうですか」


 いやいや、嘘つくなよ。なにを平気な顔で嘘ついてるんだ。バレたらお前の人生終わりだぞ。


 テンランが許可する人ではないとここにいる誰もが知っている。それほどテンランの性格は知れ渡っている。だからダースも聞いて尚、表情に光は戻らない。


 「他に質問が無ければ始める」


 俺たちは顔を合わせて何もないと伝え合う。覚悟を決めたダースは左手で鞘を支え、重心を低く構える。


 「無いな――では、始め!」


 振り下ろされた腕に視線を向けることなく、俺はダースの抜刀を待った。模擬戦を行う生徒も俺らに意識を割き始める。そんなに面白いことは起こらないのに。あるとすれば起こるのはただダースの敗北だけだ。


 「繊心技・虎狼雪ころうせつ


 水級剣技の上位、虎狼雪。


 地面と切っ先をスレスレで擦り火花では無く、白く冷たい雪の結晶を弾かせる。残りは振り上げることで結晶と共に、体全体に研がれた刀が襲う。そんな剣技だが、俺は臆さない。


 レベル4ならどんな剣技も俺の前では無力だ。


 迫りくるダース、そんな中俺は塩梅を考えていた。まだ距離はある、まだだ、まだ……。この中にいる誰よりも落ち着いている。そして――。


 ここだな。


 「虚空」


 ブワッと刀身から振動が発して、半径2mで無の空間が作られる。その中にダースは1人で入っていて、動くことも考えることも出来ない。時が止められている状態だ。


 それを見てスカイを始めとした全生徒が驚きを見せた。


 「先生、これは戦闘不能ですか?」


 余裕を見せて、こんなの当たり前ですと言わんばかりに胸を張る。そして堂々と結果を待つ。


 「なっ……」


 スカイも思わぬ自体に判断を拗らせる。面倒だ、早く敗北を認めて、靴舐めますからとか言い出してほしい。


 虚空、遊心技の神級剣技。リュートやスカイもまだ使いこなせない遊心技最強の剣技に、使えるやつがいるのを目の当たりにし、それがレベル3の落ちこぼれなのだから先程の選択肢が脳裏に浮かんでいるだろう。


 切磋琢磨するか、偶然と思い込み諦めるか。


 「何も言わないとダースはこのままですよ。それか俺の体力切れの前にダースの四肢の何処かを折りますが」


 「……分かった……君の勝ちだ、イオナ」


 「ありがとうございます」


 俺の勝ちを宣言してもらい、俺もすぐに虚空を解く。序にめちゃくちゃ疲れたと、息を絶え絶えにしてギリギリ感を装う。こうでもしないと信じてくれないだろう。


 幸い俺には演技力があるので、バレることはないはず。


 いや、まじでバレんなよ?


 不可抗力で倒れるダースを抱きしめる。


 「……えっ?」


 飲み込めない目の前の状況に?が付きまとっている。そんなダースの耳元で言う。


 「ダース、お前の負けだ。説明は先生から直接聞いてくれ」


 「俺の負け?……な、なんで……」


 虚空で勝敗がつけられたと理解は出来ないからあたふたする。でも俺はダースに構うことはなくスカイのとこへ向かう。


 「これで証明は出来ました。俺も模擬戦に参加しても良いですよね?」


 若干引き攣る顔に俺は笑いそうになるが、堪えて猛者感を出しておく。レベル3なんて底が知れた実力の持ち主に、レベル4が負けたんだそれも自分の選んだ生徒が。


 屈辱だろうな。


 スッキリするぅ!!


 「……約束だからな……認めよう」


 歯をギリギリしても可笑しくない悔しげな表情は俺の夢に出てきそうなほど子供で見るに堪えない。いつかスカイが解雇されることを願うばかりだな。


 ――認められた俺はルミウが模擬戦に参戦しても変わらず陰の弱者オーラを出してルミウに指導を受けることは無かった。いや、避けていた。


 ついルミウを茶化したくなる病気を患う俺は、シンプルに関わらない方が良かったのだ。勿体ない時間だが、人並み以上はルミウと接しているので我慢はする。


 そして時は進み各々がルミウの指導を最低1度は受け、強化された剣技を手にしたフリード学園の生徒は卒業の前日を迎えていた。

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