第四十六話 一騎討ち開幕

 やって来たのはフリード学園から徒歩10分の国技闘技場。決闘デフィートが王城内で行われるのに対して、フリードの卒業前日一騎討ちは毎年この場で行われる。


 他にも守護剣士採用試験はこの闘技場で行われる。滅多に使われることはないが、この日だけは王国で1番の盛り上がりを見せる。


 今も控え室に居るのだが声援が壁や地面から振動してくる。同時に俺の心拍数に比例して早く俺の番にならないかと衝動を抑えるのに必死だ。


 シドウとトール相手には接戦で勝つつもりで、リュートの際に俺は全てをバラす。そして復讐というめちゃくちゃ気持ちいいことをやり遂げるのだ。


 どうやって待ちに待った高鳴る鼓動を止められるか、それは俺にも分からなかった。貧乏揺すりだけが増していく。同じ控え室の生徒は俺が緊張しているから貧乏揺すりしていると勘違いしてるに違いない。


 一騎討ちの順番はランダム。担任のくじに引かれた名前の生徒が闘技場に出る前、対戦相手を指名する。そして選ばれた相手と一騎討ちを始める。


 勝敗はどちらかが戦闘不能と神傑剣士に判断されるまで。それ以外はなく、どれだけ怪我を負おうと神傑剣士が止めなければそれは続行という意味。やる側なら分かるが、めちゃくちゃ怖い。もしかしたら殺してしまうんじゃないかと思いながら刀を振るのだ、正常なら当たり前の思い込みだな。


 この一騎討ち、この先の己の未来が決められる重要な戦い。国民の多くも闘技場や投影機によりその様子を見守る。その中でどれだけ実力を見せつけることが出来るかにより、守護剣士に選ばれるか否か決まる。


 予想では良くて7人、最低0人だな。選ばれるやつがいたとしても決してリュートはその中には居ないがな。どんまぁい!


 開始から30分経過しただろうが、俺はまだ選ばれないらしい。まぁ4桁の剣士たちが1つのフィールドで戦闘をし、それが5日に亘って行われる。だから時間はめちゃくちゃ必要なので無理もない。


 1日1試合なので正直、今日全てを明かしたい。そうすればそれだけ早くスッキリ出来るのだ、それに越したことはない。


 ――待つこと2時間、控え室にスカイでは無い男性教師がノックして入る。服装からして招集を担当しているらしい。


 「失礼、シーボ・イオナは居るか?」


 「はい、俺ですが」


 「君か。スカイ先生により、現在行われている一騎討ちを含め5戦後に一騎討ちを行う。対戦相手を私に伝えてくれ」


 このようにいつ選ばれるか分からないので生徒は予め対戦相手を5人決めておくのだ。


 やっと俺の番が来たらしい。それも指名する側として呼ばれたのだから、この機を逃してはいけない。もしかしたらリュートと戦えなくなるかもしれないからな。


 あいつはまだ今日は呼ばれていないはず。あいつは指名されないし、する側として運がないのでなれない。


 そして俺は噴火しそうな火山のように堪えながら伝える。


 「では、ロドリゴ・リュートを指名します」


 「了解した。ではその旨を伝えに行く。準備をしていてくれ」


 「分かりました。ありがとうございます」


 やはりリュートは売れ残っていた。うん、俺は幸運の持ち主らしいな。


 同じ控え室の生徒は皆俺の選択に驚きを隠さない様子。なんで自分から負けに行くような選択をしたの?という目で見られるがそれも全く気にしない。


 どうせもうすぐしたらこの場にいる全員が、今以上に驚く。そう思えば今なんてちっぽけなことだ。


 今ならサインお願いしますって言われたら全然書くけど。全然書くけどなー。


 誰も来ないのは知っている。イジメられっ子は人気ないからな。


 その場に腰を下ろして待った。正直欠伸を連発するほど退屈で寝たいし帰りたい。でも今日は特別な日になる。それだけで起きてやる気にはなる。


 ホルダーを確認し腰に下げた刀も確認する。刃こぼれなし。完璧のコンディション。


 シルヴィアに製作してもらった黒真刀は過去最高作で、取りに行くとちょうど実験体にされた罪人が居た。そんな罪人に刀の実験体になったことをほんの少し感謝をしてこの場にいる。


 勝つって約束もして来たから尚更負ける気は無くなったな。


 ――「シーボ・イオナ、次は君たちの一騎討ちだ。こちらへ」


 「分かりました」


 再び男性教師に名を呼ばれ、案内される通り付いていく。今すぐにでもリュートに会いたい。そう思うのは今までで初めてだ。飢えているとはこういうことを言うんだと身を以って実感した。


 「おっ、丁度決着がついたようだ。彼らと交代で闘技場に向かうんだ」


 右膝をついている生徒に、テンランが右腕を挙げる。神傑剣士が手を挙げた時、その時が試合終了の合図。11名誰が挙げてもその意味は変わらない。


 悔しそうな表情に、希望を持った表情。それぞれ顔を見れば結果が分かる。俺は絶対に悔しそうな表情は見せない。むしろ見させる側になってやる。


 意気込んだ俺は敗者とすれ違いで闘技場の中心へ向かった。出ると歓声が耳に直接響く。期待の声は全てリュートに対してだと分かっていても心地が良い。


 レベル5はこの国の宝だ。そんなリュートに期待するのは分かるが、し過ぎると恥ずかしくなるのは自分自身だ。


 ここから見える11名の神傑剣士。笑う剣士や心配そうに見つめる剣士、安堵の表情を見せる剣士やボコボコにしろと目で伝える剣士。十人十色の俺に対する思い、それをしっかり受け取り俺は使ことを決めた。

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